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【第20回】『誓いの証言』柚月裕子〈佐方貞人シリーズ弁護士編〉

柚月裕子さんによる小説『誓いの証言』連載中!
「佐方貞人」シリーズ、待望の最新作をお楽しみください。


【連載小説】柚月裕子『誓いの証言』

第20回

 佐方からの電話を待っていたのだろう。電話はすぐに繋がった。そのとたん、小坂の甲高い声が聞こえた。
「先生、いまどこですか。まだ、新宿署ですか。接見は終わったんですか」
 矢継ぎ早に訊かれて、佐方は閉口した。小坂は頭の回転が速い。しかし、その分、慌てたときにいろいろな考えが頭のなかを駆け巡り、混乱気味になってしまうことがある。なんども、そういうときこそ落ち着いて話せ、と言い聞かせているが、なかなか直らない。
「小坂、いつも言っているだろう。慌てているときこそ落ち着いて――」
 繰り返し教えようとした佐方を、小坂が遮る。
「そんなことより、先生に弁護を頼んできた被疑者って、久保利典という人ですか」
 佐方は携帯を握りしめた。
「どうして名前を知っている」
 弁護士が不同意性交等罪で逮捕されたことは、新聞社にはもう知られている。いずれほかのメディアも嗅ぎつけるだろう。多くのマスコミは、ほうがんびいだ。弁護士が不同意性交等罪で逮捕されたと知ったらこぞって糾弾するだろう。
 だが、逮捕されたからといって本名が公表されるとは限らない。芸能人や政治家、公人などの著名人ならばあるが、一介の弁護士で、しかも公表すれば被害者が特定されかねない今回のような事件では、本名の公表には慎重になる。どうしてこんなに早く出たのか。
 小坂は佐方の言葉に被せるように答えた。
「SNSです」
 インターネットのコミュニティサイトだ。
「被害者本人が、自分のSNSで事件のことを書いたんです。昨日、久保利典という弁護士から乱暴されたって。その書き込みを見た人が拡散しちゃって、いまネットはその話で溢れかえっています」
 佐方は小坂に、そのSNSのリンクを携帯のメールに送るよう頼んだ。

(つづく)


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マガジン「【連載】『誓いの証言』柚月裕子〈佐方貞人シリーズ弁護士編〉」に各話をまとめていきますので、更新をお楽しみに!

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