【第28回】『誓いの証言』柚月裕子〈佐方貞人シリーズ弁護士編〉
柚月裕子さんによる小説『誓いの証言』連載中!
「佐方貞人」シリーズ、待望の最新作をお楽しみください。
【連載小説】柚月裕子『誓いの証言』
第28回
原じいは神妙な顔をしていたが、すぐに穏やかに微笑んだ。
「謝る必要はない。それがわかっていればいい」
大橋はさきほど手を合わせた仏壇に目をやった。
仏壇に飾られている写真は、晶の両親――圭一と真由子だ。圭一が原じいのひとり息子で、真由子は圭一の妻だった。
「いまも信じられないな。ふたりがもういないなんて――」
原じいはなにも言わない。黙っている。
ふたりが乗った車が事故を起こしたのは、三年前の夏だった。梅雨の晴れ間で、今日みたいに暑く、丁場の岩肌が陽に照らされて白かったことを覚えている。
大橋たちが暮らしている蕃永町は、香川県の高松市から車で三十分ほどのところにある。
蕃永町は、花崗岩の一種である蕃永石が採れることで有名だ。
ひと口に花崗岩といっても、キメの細かさや艶の出方、硬度におけるいい条件が揃うものは少ない。何トンもの石が採れても、傷があったり目が粗いものがほとんどで、それらは護岸工事や敷石などの、見た目を重視しない場所に使われる。一方、条件が揃った美しくて頑丈な上級石材は、墓石や石灯籠など細やかな細工が施せるものに使われてきた。
蕃永町にはその上質な花崗岩が採れる山があり、丁場と呼ばれる採掘場がある。そこから掘り出された石は蕃永石と呼ばれ、町を支える産業になっていた。
丁場は大小合わせて十か所ほどあり、それらを束ねているのが、児玉興業グループだ。
児玉興業グループは蕃永石の採掘業務、その石を全国へ運ぶ運送業、蕃永石の資料館などの文化推進業務、そこに携わる観光事業の会社を持っている。
(つづく)
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