【第21回】『誓いの証言』柚月裕子〈佐方貞人シリーズ弁護士編〉
柚月裕子さんによる小説『誓いの証言』連載中！
「佐方貞人」シリーズ、待望の最新作をお楽しみください。
【連載小説】柚月裕子『誓いの証言』
第21回
メールはすぐに届いた。リンク先を開くと、灰色の画像が目に飛び込んできた。灰色の斑のようなものだ。ユーザー名にユウカとある。プロフィール欄には、よろしくね、の一行しかない。
一番新しい投稿は、今日の午前十時のものだった。
『昨日、信じられないことがあった。薬を飲まされて乱暴された。久保利典っていう弁護士。怖かったけれど、病院と警察に行った。いまもすごく怖くて、ここに書こうかどうしようか迷ったけれど、私のように辛い目に遭っている人に勇気を出してほしくて書きました。こんなことに負けちゃだめ！ 許しちゃだめだよ！』
この投稿を見たことを表す数字と、共感を覚えることを表す数字が二万を超えている。かなりの数だ。小坂のいうとおり、かなり拡散されているらしい。これではマスコミが本名を伏せたとしても、被疑者が久保であることが広く知られてしまう。
「先生、久保さんは何て言ってるんですか」
小坂の声で、我に返った。短く答える。
「無実を主張している」
「それ、先生は信じるんですか」
佐方ははっきりと言う。
「信じる」
携帯の向こうで、小坂が怒ったように訴える。
「それって、先生のお知り合いだからじゃないんですか。私は信じられません。だって、本当になにもなかったら、この人、ＳＮＳに書く意味がないじゃないですか。女性の多くは、自分が性被害にあっても公にはしないと思います。自分が責められるんじゃないか、とか、知られるのが嫌だ、とかの理由です。ましてやこんな不特定多数の人間が見る場所に書くなんて、本当に被害に遭ったからだとしか思えません」
「いや、なにもなかったわけじゃない。あったことはあったんだが、被害ということではなく――」
（つづく）
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マガジン「【連載】『誓いの証言』柚月裕子〈佐方貞人シリーズ弁護士編〉」に各話をまとめていきますので、更新をお楽しみに！
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