【第50回】『誓いの証言』柚月裕子〈佐方貞人シリーズ弁護士編〉
柚月裕子さんによる小説『誓いの証言』連載中!
「佐方貞人」シリーズ、待望の最新作をお楽しみください。
【連載小説】柚月裕子『誓いの証言』
第50回
佐方は口を噤んだ。どんな形であれ、久保が妻を裏切ったことにかわりはない。
舞衣は唇を震わせて言う。
「私、離婚します」
意表を突かれた佐方は、反射的に舞衣を止めた。
「待ってください。そう決めるのは早急すぎます。久保さんの話を聞いてから――」
佐方の言葉を、舞衣が強い口調で遮った。
「だって、あの人もう弁護士ではいられないじゃない」
思ってもいなかった言葉に、佐方は返す言葉に詰まった。
舞衣も、自分がなにを言ったのか気づいたらしく、ばつが悪そうに佐方から目を背けた。
「有罪になれば法曹資格を失うし、そうでなくても、事務所を続けてはいけないでしょう。今回、夫がしたことは事務所の人たちも知っています。きっと、夫に失望して事務所を辞める人も出てくる。そうなったら、事務所は破産です。弁護士会から退会させられます」
佐方は確認の意味を込めて、舞衣に訊ねた。
「それは、彼が弁護士でなくなったら一緒にいる意味はない、ということですか?」
舞衣は開き直ったかのように厳しい目をこちらに向け、逆に訊き返した。
「いけませんか?」
結婚する相手になにを求めるかは、人それぞれだ。他人がとやかく言う事ではない。それに、今回、久保が不貞を働いたことは確かだ。久保は舞衣になにを言われても致し方ない。ただ、いまの話を久保が知ったらどんな顔をするのか――そう思うと気持ちが重くなった。
(つづく)
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