【第26回】『誓いの証言』柚月裕子〈佐方貞人シリーズ弁護士編〉
柚月裕子さんによる小説『誓いの証言』連載中!
「佐方貞人」シリーズ、待望の最新作をお楽しみください。
【連載小説】柚月裕子『誓いの証言』
第26回
仏壇に線香をあげて手を合わせていると、台所にいた原じいがそばへ来た。大橋が持ってきたはげ団子を、仏壇に供える。仏壇には、一枚の写真が置かれていた。一組の男女が、仲がよさそうに寄り添い笑っている。
原じいは大橋の隣に座り、手を合わせると写真に向かって話しかけた。
「よかったなあ。ふたりが好きだったはげ団子、今年も大橋のばあちゃんがくれたぞ」
原じいがりん棒でりんを鳴らしたとき、洗面所のほうから晶が走ってきた。
「手ぇ洗ってきたよ。はげ団子、食べよう」
原じいは怒ったように言う。
「そのまえに、お父さんとお母さんに挨拶だろう」
晶は、しまった、というような顔をして大人しく仏壇の前に座った。
手を合わせて声に出して言う。
「ふたりとも、ただいま」
晶は隣にいる原じいの顔を見上げた。
「これで、はげ団子、食べていい?」
「なんだ、その拝み方は」
団子が食べたくて、ふたりまとめて挨拶を済ませた晶に、原じいは怒ったように言う。しかし、すぐに小さく笑い、台所を顎で指した。
「テーブルのうえに置いてある。二個だけだぞ。晩飯が食えなくなるから」
返事もそこそこに、晶は台所に向かって駆けていく。晶がいなくなると、原じいは畳から立ち上がり、大橋を茶の間へ促した。
「なにもないが、まあ休んでいってくれ」
茶の間に置かれている座卓には、ガラスピッチャーとグラスがあった。せんべいが入った菓子器もある。
(つづく)
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『誓いの証言』は日曜・祝日を除く毎日正午に配信予定です。
マガジン「【連載】『誓いの証言』柚月裕子〈佐方貞人シリーズ弁護士編〉」に各話をまとめていきますので、更新をお楽しみに!
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