富士フイルム X-T5 新製品レビュー:痛快な撮影体験とわずかな苦言、XF30mm Macroレンズのレビューも添えて。
X-T5はどんなカメラなのか?
富士フイルムから「X-T5」が11月25日に発売されました。本機はAPS-Cフォーマットセンサーを採用するミラーレス機「Xシリーズ」の最新モデルであり、2020年4月に発売されたX-T4の後継モデルとなります。
X-T5は2014年に登場したX-Tシリーズの始祖であるX-T1が掲げていた「小型・軽量・高画質」というコンセプトへの原点回帰を狙って開発されました。というのも、X-T1/T2/T3とコンセプトを一貫できていたものの、X-T4では動画と静止画のハイブリッド機として期待される性能を満足すべく、肥大化(と言っても十分コンパクトでしたが)した背景があったからです。
そこで、2022年に入り富士フイルムはX-H2シリーズを市場に投入。ある程度サイズが大きくなっても良いから撮影性能はトコトン高い方が良いと考えるユーザーにはX-H2シリーズを、サイズと高い撮影性能のバランスを追求するユーザーにはX-Tシリーズを、という棲み分けを狙っています。
その結果、以下のようにX-T4よりやや小ぶりなボディとなりました。なお、小型化の代償として、X-T4では用意されていた別売のバッテリーグリップが廃止されてしまいました(後述のようにバッテリーライフは大きく改善)。
ミラーレス機の根幹であるイメージセンサーと画像処理エンジンはX-H2と同じ4020万画素の裏面照射型CMOSセンサー X-TRANS CMOS 5 HRとX-Processor 5 の組み合わせていますので、家電批評noteでお伝えしていますX-H2の卓越した画質性能と被写体認識AFはX-T5でも楽しめます。
その一方でX-H2と比べて動画性能は一部スケールダウンされています。例えば、動画撮影時の最大解像度はX-H2の8Kに対して6.2Kとなっています。
まずは、上位機種のX-H2、旧モデルのX-T4との違いをチェック
X-H2と大きく異なる操作性
X-H2シリーズは、他社機から富士フイルムへ引っ越すユーザーを睨んでモードダイヤルと電子ダイヤルを組み合わせた一般的な操作デザインを持っていました。これに対して本機は3つのアナログダイヤル操作がメインの「3ダイヤルオペレーション」が採用されています。これはX-Tシリーズの特徴のひとつでX-Tシリーズユーザーは戸惑う事なく本機を使いこなせるでしょう。
X-H2シリーズでは操作時の剛性確保の観点から前後の電子ダイヤルのプッシュ操作は廃止されていますが、本機ではプッシュ操作も可能です。
またX-Hシリーズのように大型のグリップは持たず、コンパクトに仕上がっている他、背面の液晶モニターもX-H2シリーズのバリアングルモニターに対して本機は3方向チルトとなっています。
ちなみに、バリアングルとチルトタイプはそれぞれに得手不得手があります。例えばバリアングルは三脚固定時やカメラ横で被写体を操作したりセルフィーなど、カメラと人が離れた状態で操作することに適しています。
チルトタイプはレンズ光軸に近い位置でモニターが稼働するので、モニターを開いた状態であっても構図の調整を直感的に行うことが出来ます。つまり手持ちなどのカメラと密着している状態で操作することに適しています。他にもモニターが開いた状態でも強度を確保することが出来るという構造上の特徴もあります。
方向性が違う、といえばそれまでですが、パナソニック「LUMIX S1H」やソニー「α7R V」のようにチルトとバリアングルを兼ね備えた可動機構も実用化されている以上、どちらの要望をも満たす提案もしてほしかったです。
また、記録メディアにも違いが。X-H2シリーズはCFexpress Type BとSDカードのデュアルスロットに対して、本機はSDのダブルスロット(どちらのスロットもUHS-II対応)となります。
X-T4からの進化点と操作感
撮影能力の進化としては
画素数が大きく向上していること(2610万画素→4020万画素)
動画撮影性能がアップしていること(DCI4K→6.2K)
がハイライトです。X-T4では最高でDCI4K/60pの4:2:0 10bitでのカード記録が最高設定でしたが、X-T5も引き続き4K60pをサポート。さらに、6.2K/30pの記録も可能です。カード記録では4:2:2 10bitに対応した点も見逃せません。。
デザインについて、パッと見ではX-T4との差異が少ないように見えますが、バリアングルからチルトタイプへと背面モニターが変更になっていますし、実際に手にとって見るとグリップの大型化、ボタン類が大径化、指運びしやすいアナログダイヤルの配置見直しなど、X-T5は「写真機として、どうあるべきなのか?」を考慮したデザインになっていることが伝わってきます。
またX-TシリーズやX-Proシリーズでお馴染みの前後電子ダイヤルのプッシュ操作などの操作感は大きく改善されています。ラージフォーマット機であるGFX100SやGFX50S IIで採用された技術を採用することで質感の改善を図ったとのこと。他社機ユーザーにとってダイヤルをプッシュ操作することに対してピンと来ないと思いますが、これによってピントの拡大操作やISO感度の操作が簡単にできますので、一度慣れてしまうと虜になる操作性を持っています。
EVFはドット数はX-T4と同一の369万ドットですが、X-H2シリーズと同じ光学系を採用し、覗きやすさと視度調整範囲の拡大を実現しています。実際にX-T4と使い比べてみると覗きやすさが改善しています。一方でX-H2シリーズと比べると精細感で負けていますので、X-H2シリーズに触れた後にX-T5を体験するのはオススメしません。
そうした改善がある一方で、アナログダイヤルの操作感は低下しているように感じました。X-T2~X-T4まではアナログダイヤルの形状が円錐台(横から見ると上すぼみの台形に見える)になっており、指当たりの柔らかい操作感が実現されていましたが、本機は円柱形となり指当たりが強く、操作を繰り返すと少し痛いです。また左肩にあるISO感度ダイヤル同軸のドライブモード切り替えレバーの操作力量が軽く、意図せず設定が切り替わり易いように感じられます。実際に実写中にカメラバッグから出し入れするような動作を頻繁にしなくても、いつの間にかドライブモードが変わっていることが何度もありました。
実写インプレッション
過去にX-T2、X-H1などを使ってきたXシリーズユーザーとして、使用感についてを注意深く観察しながら撮影した感想になります。
個人的に背面液晶はバリアングルよりもチルトタイプを好んでいること、アナログダイヤル主体の操作性が好きなことなどもあって撮影を非常に楽しむことができました。もちろん三脚に固定して撮影する場合では、例えばカメラのレンズが真上を向くようなシーンではバリアングルの方が向いているな、と感じますが、手持ちシーンではやはり3方向チルトは快適です。
しかもX-H2で関心した高いAF性能を持っているので快適性も抜群です。
念の為、動物園で被写体認識AFをテストしてみましたが、検出精度とAF精度のどちらも満足出来るレベルに仕上がっています。
また画質についても申し分なく、X-H2で味わった感動を本機でも同様に味わうことが出来ました。40MP・高精細というと「シャープに表現してくれそうだ」という印象を持つかも知れませんが、実際にはより立体的でリアルな表現をしてくれました。これには富士フイルムのカメラの特徴のひとつである、階調再現の上手さも効いています。他社機では作例写真のように輝度差(日陰と日向のコントラスト差)が大きなシーンでは黒つぶれや白飛びが簡単に発生してしまいますが、X-T5ではそうしたことに悩まされるシーンは少なく感じました。
手ブレ補正機構の効果についてもかなり強力。補正段数7.0段というスペックはX-H2と同等ですが、小型ボディに詰め込むために新規で小型タイプを開発したとのこと。ただし、より大型のボディとグリップを持つX-H2の方が実際の安定感は上です。これは性能というよりは形状や重さなど物理的な特性によるものになります。
なお、動画撮影時の手ブレ補正に「ブースト」モードが備わっています。通常のモードと撮り比べましたので参考にしてみてください。撮影シーンは手ブレに気をつけながらモデルに合わせて筆者も動いて撮影している状況です。前半が通常モード、後半がブーストモードとなります。
感心させられるバッテリー持ち
バッテリライフについても感心しました。本機はデフォルトで消費電力を抑えるエコノミー設定になっていましたので、そちらを選択していますが、被写体認識AF駆使してじっくりと連写を楽しむ状況で、大体15コマで1%消費。単写でパッと撮影するような状況では大体18コマで1%消費で推移していました。
4日間それぞれ700コマ以上撮影していますが、いずれの日でも700コマを超えた段階でバッテリ残量がまだ55%以上残っていたので驚かされました。
被写体認識AFでトラッキングさせると電力消費が大きくなる印象はありました。筆者は一般のユーザーよりも撮影に掛ける時間が短く撮影枚数も多いので、撮影可能枚数は伸びる傾向にあります。ですので、一般的な撮影スタイルではこの結果の80%程度を期待するのが適正かと思いますが、それでもバッテリひとつで1000コマを楽に超える撮影が楽しめそうです。
いずれにせよ、従来機では考えられなかったバッテリーパフォーマンスです。
EVFと背面モニターで表示クオリティに差がでるのはいただけない
このようにコンパクトなボディにパワフルな撮影性能の組み合わせは痛快そのものでしたが、気になる点もあります。上述しているドライブモードが意図せず動いてしまうことに加えてEVFの表示クオリティが気になりました。覗きやすさでは関心させられたEVFですが、表示クオリティとなると、富士フイルム機の悪い部分である「フィルムシミュレーションをProvia/スタンダードから変更した際にEVFと背面液晶で再現性がが異なる欠点」は本機でも改善されていません。特にETERNAブリーチバイパスやクラシッククロームとモノクロやACROSなどの黒白表現のフィルムシミュレーションの違いが少なく、パッと見ではEVF上で見分けがつきません。
高画素化で懸念されるバッファーは?
高画素化で懸念されるのがバッファです。そこで、UHS-IIのSDカード(ProGrade Digital64GBゴールド)を使用してX-T5のバッファを簡易的に測定してみました。撮影環境の照度やISO感度設定によって結果は前後しますが、ISO3200でロスレス圧縮のRAW+JPEG FINEで15コマ/秒の連続撮影で平均して19コマまでコマ速が落ちるずに連写できました。時間にすると1秒と少しです。X-H2では同様の条件で約75コマ、時間にして5秒程度連写を継続できたので、バッファ性能ではX-H2が大きなアドバンテージをもっていますが、スナップ撮影を楽しむ目的であればX-T5も必要十分な性能であるとも思います。ちなみにJPEG FINEのみの記録では平均して76コマまでコマ速を維持して連写できました。
APS-Cの高画素機とは思えない良好な高感度画質
こちらはISO12800で撮影したスナップです。
X-H2の時にも感じましたが、APS-Cフォーマットの4000万画素機で正直ここまで高感度が使えるとは思いませんでした。筆者の感覚ではAPS-C 3200万画素機のEOS R7よりよいという印象です。X-T5はX-T4とほぼ同等レベルのノイズ感を維持したまま画素数が増えていますので、実際の出力時には拡大率を下げることができます。つまり実使用上は高感度性能が進歩している、という評価になるのです。
新レンズ:XF30mm F2.8 R LM WR Macro
X-T5と同時に発表された新レンズについてもテストしてみました。製品名にも記述がある通り、AFの快適性に関係するAFモーターがLM(リニアモーター)を採用していますのでAFが非常に高速かつ高レスポンスでとても快適です。通常マクロ領域ではAFの動作が遅くなりますが本レンズではそれでも快適に感じました。
描写性能的にも満足度が高く、絞り開放から撮影距離を問わず安定したシャープネスを持っていますしボケもキレイですし、重量は驚異の195gと軽量です。
一方で、ワーキングディスタンスという接写時のレンズ先端と被写体との距離が短い30mmのレンズになりますので、接写時には自身やカメラの影が被写体に掛かってしまいます。実際に至近端ではレンズ先端から3cm弱まで寄ることになります。コンパクトで軽いからと言って、太陽の位置を考えずに撮ってしまうと被写体に半端に影が差して「あれ?」となるシーンがありますので、焦点距離の短いマクロレンズには取り扱いの難しさもあります。
フジツボや顕微鏡の先端のようなデザインなので、筆者的には好みではありませんし、先端の機種名表記も無粋に感じられますので芸術点は低めです。本レンズのように等倍撮影することは出来ませんが、コシナにMACRO APO-ULTRON 35mmF2 Xマウントという美しい外観と質感を持つレンズがあります。MFを厭わないのであればこちらもオススメです。
X-T5のライバルたち
他社機に目を向けてみるとキヤノン「EOS R7」がかなり近い撮影性能を持っています。Xシリーズでは従来機のX-T4が比較対象となりますが、既にディスコンになっていますので中古で選ぶことになりそうです。
「EOS R7」は専用のレンズがまだ少ないので、レンズ交換まで含めて撮影を楽しもうとするとフルサイズ用のレンズを選ぶシーンが必然的に増えます。するとレンズシステムを組む上ではサイズ的にR7は不利となります。
コスト面ではマウントアダプターを駆使してEFレンズを使うという手段もありますし、中古市場も潤沢ですので魅力的ですが、やはりRFレンズの方が快適性では上という現実はありますが、楽しむことがメインであれば些細な問題でしょう。
EOS R7の撮影快適性は突出しており、誰でも簡単に撮影を楽しむことができますし、スマホアプリの完成度でキヤノンは他社を大きくリードしています。そうした撮影を取り巻く環境の充実度ではEOSが優れています。
Xシリーズはカメラを持ってお散歩したり、フイルムを交換するようにフイルムシミュレーションを変更して表現を楽しむといった、撮影に関わる時間を楽しむことに向いていると思っています。ですので
撮影そのものを楽しみめみたい人向けのXシリーズ
撮影をストレス無く快適に進めたい人向けのEOSシリーズ
そうした違いがXシリーズとEOSにはあります。X-T4と比べるとAFの快適性とボディ内手ブレ補正の効果が大きく改善されていますし、露出補正ダイヤルを頻繁に操作する筆者にはX-T5の方が操作感が自然に感じられました。X-T4とX-T5をカメラバッグに詰め込んだ場合に、自然とX-T5に手が伸びるシーンが多かったです。
コストパフォーマンスはそこそこ……?
X-T5はスチル向けのスタイルですが、動画性能的にも4K60pや6.2K30pでの記録もでき十分にハイスペック。しかも画質に自信アリというカメラがボディ単体で約23万円台というのはお買い得なように思います。が、あと3万円プラスすればより質感の高いX-H2に手が届くと思うと少々微妙でもあります。
これは実際に触れてみないと分からないことですが、バッファ性能以上に撮影感触はX-H2のほうが明確に気持ち良いからです。
それに、簡単に高度な撮影を行いたいのなら、レンズキットで23万円ほどのキヤノン「EOS R7」が優れていそうです。
まとめ:日常サイズに超高性能と撮る楽しみを詰め込んだ欲張り写真機
X-T5を買うときの悩み:標準ズームはキットレンズの18-55mm? ワンランク上の16-80mm F4?
ここからは、X-T5を購入する際に迷うだろう標準ズームの選択を考えてみます。富士フイルムの純正レンズでX-T5のサイズ感にマッチするのは、「XF18-55mmF2.8-4 R LM OIS」と「XF16-80mmF4 R OIS WR」でしょう(本記事の取材時はシグマの「18-50mm F2.8 DC DN | Contemporary」は未発売でした)。なお、18-55mmはキットレンズでもあります。
どちらのレンズが良いか迷っている場合には、
広角側の16mmが必要か?
接写性を期待するか?
サイズは少しでもコンパクトなのが良いか?
の3点が決め手になるかと思います。以下、撮り比べてみましたので購入時の参考にしてください。
画角の違い
ワイド側での2mmの差は実際にはかなり大きな印象の違いになります。機動力とサイズ感が魅力のXF18-55mmですが、表現力と利便性で勝るXF16-80mmという違いがあります。
最大撮影倍率の違い
テレ端かつ至近端ではこれだけ撮影倍率の違いがあります。XF16-80mmの撮影範囲の広さがここでも利いています。その一方で、「それほど接写しないよ」という人であれば、より小さなXF18-55mmは魅力的な選択肢となります。
18mm時の画質比較
どちらもf/4.0での作例になります。拡大すると差が小さく見えますが、1枚の写真としてみた時はXF16-80mmの方が少しスッキリした印象になります。ちなみにf/5.6まで絞り込んだ場合には画質の差はほとんどありません。
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