陽キャとうつと復職1日目
「早く人間に慣れるように頑張ります」
復職1日目の今日、復帰挨拶でメンバーに伝えた言葉。
笑っていいんだかなんなんだか、反応に迷うメンバーたちの困り顔。そりゃそうよねと思いつつ、これが本心なんだから仕方ない。
だって早く人間に慣れないと、私はきっとまた精神を病んでしまうだろうから。
世の中にはたくさんの人間がいる。
優しい人間、
てきぱきした人間、
おっとりした人間、
白黒はっきりした人間、
ずけずけいう人間、
論理型人間、
感情型人間、
仕事人間、
自己中人間、
etc…
こうした様々な人間がいる中で、休職中の私が出会ってきた人間はみんな
優しい人間であり、共感してくれる人間であり、思い遣ってくれる人間であり、私を大切にしてくれる人間たちだった。
家という心からくつろげて安心できる空間で、私を大切にしてくれる人間たちに守られて、この半年間生きてきた。
しかしそんな日も今日で終わり、これからは会社という緊張する空間で、仕事という利害関係上で繋がる人間たちと多くの時間を過ごしていかなければならない。
空間も、関わる人間も、大きく変わるのだ。
だから「慣れる」という言葉を使った。少しの皮肉と、そろそろ気持ちを切り替えろよという自分への自戒を込めて。
休職してからあっという間に半年が過ぎ、迎えた復職日。
(休職になった経緯はこちら↓)
復職前夜から私の気持ちはてんやわんやだった。
まず夜中に何度も起きてしまい、寝ようにも寝られない。目が覚めたら朝で、そしたら出勤しないとで、、、と考えると夜が明けるのが怖くて寝付けなくなった。あれ、この感じすごく既視感ある、、、?と思ったりしたけれど、一旦気づかないふりをする。
朝アラームが鳴るがなかなか体を起こすことができず、起きたくないと情けないけれど少し泣いてしまったりもした。だっていつもならこれからランニングをしに行くのに、今日からは満員電車に揺られて会社に行かなければいけないなんて、そんな絶望する朝ってある?
でも仕方ない。だって復職するって決めたのは私だから。
もしもっと休職を取ることが許されていたら間違いなく休んでいたけれど、もうこれ以上休めない、でも会社を辞める踏ん切りもついてない、それなら出社するしか道はない。
気持ち悪い、吐きそうだ、もうやだ!等々暴言を吐きながらのろのろと支度をする私に、「えらいねえらいね」と間髪入れずに合いの手を入れ続ける旦那は、さながらイヤイヤ期の子供の機嫌を損ねないようテキパキ保育園の準備を進めるベテランママさんのようだった。
なんとか出勤準備を終えて、家の近所の神社へ出社の挨拶をし、旦那と別れて駅までの道を一人歩き出す。心細い気持ちを奮い立たせるため、道中のBGMに選んだのは美輪明宏さん。力強いお言葉の数々に勇気をもらい、なんとか満員電車も乗り越えオフィスに到着。
美輪さんの言葉に感化された単純な私は無敵モードに入っていて、よっしゃなんでも来やがれ!と気合い十分でフロア階に続くエレベーターに乗り込もうと大股で歩みを進めた。ところまでは良かったのだが、、、
ここで事件発生。
我が社では各階に上がるエレベーターに乗り込むために社員証をゲートにタッチする必要があるのだが、この社員証を家に忘れてきてしまったのだ。
エレベーター前のゲートだけでなく、各フロアやブースに行くにも社員証がないと行き来ができない。そして忘れるとスペアの社員証を借りるために申請が必要になり、それに結構な時間と手間がかかってしまう。部長にも社員証だけ持ってくればいいから、社員証だけは、忘れないでね。と釘を刺されていた。
それなのに、事もあろうにその大事な大事な社員証を私はピンポイントで忘れてしまった。
さっきまでの勇足はどこえやら。
さーっと血の気が引き、心臓はばくばく、喉はからからに渇き出す。大事な復職初日に唯一持ってこいと言われていた社員証を忘れてしまい、情けなさすぎて帰りたい気持ちでいっぱいになった。
そうはいっても出社の時間も迫っているわけで。怒られるの覚悟で部長に連絡。すると、
承認に時間がかかるからちょっと待ってて!また連絡するねー!
とあっさり返信が返ってきて拍子抜けした。
まぁ普通に考えて復職初日の人間を怒ったりしないよな。冷静になるとそう考えられるけれど、やっぱり少しのことで精神が不安定に揺らぎ、震えてしまう。これからこんなんで社会人生活やっていけるんだろうかと不安になる。
私はすぐに謝るきらいがあるから、復職後はあまり謝らないようにしよう!と決めていたのに、オフィスにたどり着く前にも関わらずこの時点で謝罪回数は既に3回を上回っていた。
部長に連絡してから待つこと20分。前いた部署のメンバー2人が迎えにきてくれた。
前提が漏れていたのだけれど、復職後は元々いた部署に戻ることになっていた。
本当は他の部署に移動したかったのだけれど、そうするとどこの部署に移動になるかわからず賭けになってしまう可能性があるとのことで、それならうつになったことを知ってるメンバーの元に戻る方がいいのかなと考えた。なにより一番私の症状を知っている部長が責任を持って見届けたいと言ってくれた言葉が決め手になった。
ただ休職になる直前に一緒に働いていた上司と顔を合わせることにまだ不安が残ることや、クライアントワークやクリエイティブすぎる仕事などはもう少し心にパワーが貯まってからでないとできない旨は伝えていて、合意を取った上で最終決断をした。
「お帰りなさい!」
爽やかな笑顔でそう告げるメンバーの眩しさに、直視できないやらなんと返答したらいいのか分からないやらで、
「あぁぁぁ、、、あはは」と気持ち悪い返事と乾いた苦笑いを返すはめになってしまい、ここでもまた帰りたくなった。
初日からの失態に謝り倒していたらあっという間にフロアに到着し(最初の決意はどこいった)、10人近くのメンバーに「おかえりなさい」と出迎えてもらい驚いた。
私が働いている会社は働き方がかなりフレキシブルなため、所属してるチームのメンバーたちも用がない限りあまり出社してこない。遠方にいてそもそも東京に出社することができないメンバーも数人いるから会議は100%オンラインだ。だから正直こんなにメンバーが集まっているとは思わず面食らってしまった。
みんな出社してきてくれたのかと嬉しい反面、正直どの面下げて戻ってきんだとどうしたって思ってしまう私は、なんだか居た堪れない気持ちにもなってしまった。
そんな復職初日からやらかしまくりな私にこの日課されたミッションは二つ。
一つはチームみんなに戻ってきた挨拶をすることと、もう一つは最後に一緒に働いていた上司と部長を含めた3人でのカジュアル面談に出席することだ。
どちらも時間は20分程の予定で組まれていたが、考えるだけでお腹がキュッとなるミッションであることは間違いない。
午後にあるこの重大ミッションに向けて、まずは腹ごしらいだと部長筆頭に出社メンバー全員でランチに出かけた。
いきなり大人数でのランチである。
みんな私のメンタルの回復具合が分からないため、お互い探り探りな昼食は正直とても疲れてしまい、頼んだ冷麺を半分も残してしまった。(ごめんなさい冷麺)
気を使いすぎた結果精神がしんどくなってしまったから、これからは気を使わず自分軸で生きていくんだ!と決意したのに朝から謝ってばかり、気を遣ってばかりである。
私全然変わってない…。と自分自身に落胆しつつも、そういえばこんな雰囲気のチームだったなぁとなんだか懐かしさを感じる瞬間もあったりした。
朝から色々あって疲弊していたこともあり、チームメンバーと大人数でランチを食べた時点で私のHPはほぼ0になっていて、できることならこのまま帰らせて欲しかった。
もう頭なんて働かないよ、勘弁してくれ。な状態で参加したチームメンバー全員参加の復職報告会で部長から言われた「じゃあ陽キャからもみんなに一言くれるかな」の問いかけに、ついつい本音がでてしまったのは仕方ない。
「早く(社会人という)人間に慣(成)れるように頑張ります」
もっと他に言うことあるだろ…と自分でも思ったけれど、働かない頭を一生懸命フル回転させようやく放った一言は、私のストレートな気持ちをそのまま現した言葉だった。
正直社会人になんて慣れる必要ないんだろうし、そもそも無理して成る必要もないと思う。
でも、私はそれに慣れていって成らないと、きっとまた精神が追いやられてしまう気がしている。
今まで社会人という名の人間たちに慣れるという感覚も、自分がそれに成っているという感覚も当たり前だけれど持ち合わせてはいなくて。会社に行けば、仕事をすれば、自然にそう成れていた。
そこから一度外れてしまった(とまだ思ってしまっている)今、会社や仕事から距離を置いたことで、半年前まで自分のほとんどを占めていたはずの「社会人」としての私は、良くも悪くも消え去ってしまった。
しんどい仕事や上司やクライアントから解放され、距離を取った経験があるからこそ、復職し長く働けるようになるためにはどうしたって社会人に慣(成)れる必要がある。
そのためには休職時の日々にさよならを告げ、鍛錬の日々に立ち向かう必要があるんだろうなと、みんなの戸惑う顔を見ながら思ったりした。
もちろんいくら仕事から解放されたとはいえ、当たり前だが休職中は楽しいことばかりでは全然なかった。
何もできていない自分が惨めで苦しくて、心も体もいつもだるくて。絶望しながら迎えた朝が何度あったか分からない。
それでもあれだけの時間自分に向き合えて、周りの優しさに気づけて、一人ではないことを再確認できた日々を私はもう既に懐かしく、愛おしく感じているし、もうあの頃の生活に戻れないことをどうしようもなく寂しいとさえ感じている。
久しぶりに画面越しに顔を合わせた元上司は髪を切って少しさっぱりしたからか、それとも夏バテのせいなのか、心なしか以前よりほっそりして見えた。
「何か陽キャに伝えたいことはある?」の部長の問いかけに、
「とにかくごめんね。それだけです。気づけなくて、うまくできなくて、ごめんね。」
少し気まずそうに、でもまっすぐに放たれた言葉は、私の心の深いところにずしんと届いた。
「仕事を途中で丸投げして、全て任せて、迷惑をかけてしまってごめんなさい」
だから私も、少しぎこちないけれど、色々思うこともあるけれど、でもずっと直接伝えたかった言葉を伝えることができた。
元上司との面談が終わり、復職初日の私に課された全ミッションが終了した。
解放感とすさまじい疲労感に呆けている私に、部長が一言、
「よし、これで儀式は終了。頑張ったね、お疲れさん」
いやいや、おつかれさんて。復職初日の人間に対して今日1日通してハードモードすぎるだろ!と(心の中で)盛大にツッコミを入れたけど、でも確かに面談の前と後では気持ちの軽さが変わっていて。
復職初日に通過儀礼としての儀式を終えることができたからか、先ほどまで感じていた負目とか、気まずさみたいな感情は不思議と薄まっていた。
正真正銘陽キャの部長らしい荒療治で、一歩間違えれば大問題になっていた気がしなくもないけれど、えいやーで突っ込んでいけばなんとかなるものなんだなと変に関心してしまった。
何より色々中途半端な状態で仕事を投げ出してしまった私の復帰を喜び、暖かく出迎えてくれる人たちがいてくれたんだという事実が、やっぱり、とっても、嬉しかった。
時短勤務とはいえ相当疲れた久しぶり出勤。家に着くなりあまりの疲労感と安堵にそれはそれはでっかいため息をついた私は、荷物を置くと真っ先にトイレに直行し、このざわざわと浮き足だった気持ちを落ち着けるべく、便器はもちろん床から壁までぴっかぴかに磨き上げた。
どうせ社会人に成るのなら美しく成りたい!トイレの神様マジお願い!
そんな邪(すぎる)な想いを秘めて掃除したことは、すごいと言うマシンと化してきている旦那にはもちろん内緒だ。
明日も明後日も出社は続く。
初日に負けず劣らずしんどいこともきっとたくさん起きるだろう。その度にこのnoteを見返して、私は今慣(成)れようと頑張っているんだということを思い出していきたいと思う。