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”距離感”問題の捉え方

 対人援助の現場で永遠のテーマともいえるであろう”距離感”問題。被援助者と援助者の間の関係性をどうするかというのは難しく、専門職として関わっているはずの教員ですら、迷い、失敗し、迷走する。非専門職のボランティアベースで行われる学習支援の現場なら、言わずもがなかなと。

 認定NPO法人Kacotam(カコタム)の学習支援もボランティアベースの活動。この活動にボランティアとして3年、職員として1年関わってきた中でも、スタッフと利用者の間の関係性(距離感)にまつわる問題は大小あれども生じて、その度に頭をみんなで悩ませました。

ヤマアラシのジレンマ

 人間の親密さの課題に関する寓話として有名なものとして、ヤマアラシ(ハリネズミ)のジレンマがあります。

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 やまあらしの一群が、冷たい冬のある日、おたがいの体温で凍えることをふせぐために、ぴったりくっつきあった。だが、まもなくおたがいに棘の痛いのが感じられて、また分かれた。温まる必要から、また寄りそうと、第二の禍がくりかえされるのだった。……(後略)……
――『ショーペンハウアー全集 14 哲学小品集(Ⅴ)』「第三一章 比喩、たとえ話、寓話」

 寄せては離れての繰り返しをしながら、お互いの適当な距離感をはかっていくという話ですね。

 いつでも会える。それなら寄せては離れての繰り返しの振れ幅は、大きくてもいいと思いますが、少なくともKacotamの学習支援の現場ではそうではないように思います。

距離感問題の2パターン

 距離感の問題は大きく分けると次の2パターンに大別できるのではないでしょうか。

近づきすぎ問題
近づけない問題

 いろいろなところで、大問題として認識されがちなのは、「近づきすぎ問題」の方な気がしますが、「近づけない問題」についても、同様に対策すべき課題なのだと思います。

 近づきすぎは、支援者と被支援者との良好な関係から、踏み入れすぎてしまい、最悪共依存的な関係性になってしまい、支援という枠組から逸脱してしまうことになることが多く、問題として認識されやすいのでしょう。

 近づけないは、支援という大きな枠組としては失敗ケースに分類されるのでしょうが、チームで行われている支援だと、他の支援者によるカバーで全体としては支援が進むため、問題として認識されにくいのでしょう。支援自体は進んでいくので、問題ないといえばないのでしょうが、その支援者が関われたときに起きたであろう作用は発生せずに進むことになるのが、もったいない気がしないでもありません。

距離感問題は、「問題」なのか?

 この記事のタイトルは、元々「”距離感”問題」という短いものでしたが、下書きを熟成させていく中で、「”距離感”問題の捉え方」へと変化しました。

 支援者として、被支援者に対して、一定の距離感をもつというのは必要なことなのでしょうが、この「一定の距離感」というのをどうやって定めるかの落とし所がとても難しいように感じています。

 過去のアレコレの事案を振り返りながら、「一定の距離感」の正体は一体何なのかについて、思いを巡らせるも、どうもそれらしい解を見いだせずにいます。

 距離感をどの程度とるかということに固執していても、いわゆる「距離感問題」が生じるリスクを低減したり、発生後の後始末をどうするか決めたりすることは難しいようにしか思えません。

 こんな時は少し前提を疑ってみるのです。そして、斉藤が思い至った問いがこれです。

一定の距離感 を定義しなければならないのか?

 そして、この問いに 否 と答えてみることにしました。

「一定の距離感をとる」から「距離感を認識する」へ

 一定の距離感 という正体不明のやつを定義することに必死になる必要はないのではないかと思います。

 「自分と相手の関係性が今はどのようなものなのか?」ということを常に問い続け、(語弊を恐れずに言うなら)支援者たる自分と被支援者たる相手がどういう状況なのかを第三者的視点から考察できている という状態が保てれば、距離感の線引きをどこにするかはあまり重要ではないのかなと思っています。

 特に、教える―教わる という単純な構造ではない Kacotamの活動においては、「一定の距離感をとる」という思考よりも「距離感を認識する」という思考を大切にするのが良いのではないかなと思い始めている今日この頃です。

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 距離感に関わる大前提のルールとして、今、Kacotamで定められていることは、以下の3点。Kacotamの初期からある活動(スタサポ、学ボラ)だと1回の活動が2時間ぐらい、さらに、スタサポは毎回担当が変わるので、大前提のルールでほぼ距離感にまつわる大問題は発生しにくい環境にあった。

〇 活動場所以外では子どもと会うことは原則禁止。
〇 活動場所以外での子どもとの貸し借りは控える。
〇 子どもと連絡先を交換しない。

 しかし、2016年11月にできた 中高生のオープンスペースゆるきち では、長いときでは1回10時間ぐらいの時間を一緒に過ごせるし、多いときには週3回や5日連続開館などがあり、いわゆる距離感近づきすぎ問題が生じやすい環境がある。また、スタサポでも学ボラでも、団体ができて8年が経つと、初めの頃から利用している子と長く活動しているスタッフの間柄は、自然と親密になっていく。
 そういった中で、「一定の距離感をとる」ということにばかり着目していると、よく中の人々が使う「カコタムらしさ」が関わりの中で失われてしまう気がしています。

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