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仕事を休んでしまうときもある

仕事で一番大変なことと言ったらなんだろう。
めんどくさい人間関係?忙しさで目が回るような月初の作業?
いや違う。仕事で一番大変なのは出勤である。

仕事にはやっぱり行きたくない。
書店員という自分の好きな仕事に就いてみても、この気持ちは消えなかった。
仕事に行ってみれば案外平気なのだが、朝起きて準備をし家を出るまでが苦行でしかない。
よくもまあ、毎朝こんなにも新鮮に「仕事に行きたくない」という感情が生まれるものだ、と自分でも感心するほどに。

そして、その気持ちが頂点に達するのが、仕事で理不尽に遭遇したときである。
例えば、売上げ目標を達成したにも関わらず、上司に嫌みを言われたときことがある。
こんなにがんばって目標を達成したのに、褒められるならまだしもどうして嫌みを言われなければいけないのか。
そんな思考が頭の中をぐるぐるしてしまい、それでどうにもしんどくなって休んでしまう。

私は仕事を休むことを悪いことだとは思っていない。
確かに同僚には迷惑をかけるが、それでも自分を守るためには必要なことだからだ。
休んだ一日でなんとか気持ちの整理をつければ、翌日には仕事に行けるようになる。
具体的に言うと、私の場合は思っていることをすべてノートに書き出すようにしている。
ノートに書くことで自分がどうして傷ついたのかを改めて受け止められるし、これからどのような対応を取ればいいかという前向きなことも考えられるようになってくる。
悩みが深いほど書く量は多くなり、10ページ以上書き続けることもある。
理不尽に直面したときは、荒れ狂う自分の気持ちと向き合う時間が必要なのだ。

ただ、仕事を休んだ日はいいのだが、つらいのはその翌日である。
同僚に迷惑をかけてしまったことで、職場に行きづらいのだ。
これはもう本当にいたたまれなくて、一日休んだだけで自分の居場所がなくなったように感じてしまい、朝同僚に会ってもどうすればいいかわからない。
一日休んだだけで「昨日は休んですいません」と挨拶回りをするのも重いと思ってしまうし、かといって何も言わなければ相手からは触れてこず、ギクシャクした空気が流れてしまう。
しかもメンタルがしんどいという理由なので、これまた相手に話しづらい。
身体面の不調なら「熱が38度も出てしまって」などと言えば簡単に相手に伝わるのだが、「メンタルがしんどくて」というのはなかなかわかってもらえないし、相手によってはサボりだと思われてしまう。

だから、最近はできるだけ仕事を休まないように努力をしている。
その方法というのが、「行きたくない」という気持ちと「行かない」という行動を分けるということだ。
出勤前にどんなに行きたくないと思っても、出勤してみたら意外と大丈夫だということがある。
もし本当にダメだったら早退すればいい、そう思うと少し気が楽になる。
仕事に行きたくない、それはわかった。それでも私は行くのだ。

先日もメンタルがしんどくて、休む旨の文章を作成し、あとはメッセージアプリで送信ボタンを押すだけというところまでいったのだが、なんとか踏みとどまって仕事に行った。
出勤直後はさすがに調子が悪かったが、夕方にまでなると「ああ、休まずに来てよかった」と感じられるまでに回復した。
逆に休んでしまっていたら、そもそもの理不尽への怒りに加え、休んだ罪悪感が上乗せされ、家の中で一日中鬱々とすることになっていたかもしれない。
そう思うと、出勤して何も考えずに仕事をする方がマシなようにも思える。

ただ一方で、「行きたくない」という気持ちを無視しすぎるのもやはりよくないのだ。
その無理が積もり積もって会社を辞めたという過去が私にはある。
やはり大事なのは自分の気持ちを受け入れて理解することなんだと思う。
「行きたくない」ならまだ会社に行ってもいいけど、その気持ちが「行けない」まできたら、たとえ同僚に迷惑がかかっても休むべきなのだろう。
それは自分が生活をするために仕事をしているからで、その仕事のせいで生活の方が壊れてしまっては本末転倒というものだ。

理不尽なことがあって、怒り狂っているときにいつも読むエッセイがある。
それは田口ランディさんの書いた「できればムカつかずに生きたい」というエッセイで、怒りをうまく処理できない葛藤がこれでもかと言語化されており、それを読むと「ああ、怒りに捕らわれているのは自分だけじゃないんだ」と思えて落ち着く。
その中でも特に好きなのがこの文章だ。

いくら動じたっていいんだ。落ち込んだっていいんだ。びろーーんって自分に戻って来れば。考えたらこれって、子供たちが日常的にやってる事だ。嫌なことがあっても、立ち直って自分に戻る。ただ、その戻る時間が早いか遅いかだ。自分に戻るのに一〇分しかかからない人もいれば一〇年かかる人もいる。

『できればムカつかずに生きたい』

仕事という理不尽の嵐の中で動じないのは難しいし、落ち込まないのはどうにも無理をしている。
でも「嫌なことがあっても、立ち直って自分に戻る」ならできる気がする。
自分の気持ちを受け入れ理解して、そして忘れる。
そのために必要なのが、私にとっては仕事を休む一日なのだろう。

学校では皆勤賞が設けられ、仕事でも休まない人が評価されがちな世の中である。
でも私は仕事を休まない強さもあれば、きちんとしたタイミングで仕事を休める強さもあると思う。
私はたまに仕事を休んでしまうが、でも逆に言えばそのおかげで仕事を続けられているのだ。
雨にも負けず、風にも負けず、でも理不尽なことにはたまに負け、寝込んでまた立ち上がるくらいがちょうどいいと私は思う。

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