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【読書の秋2022】AI vs. タイテが読めないオタクたち

※タイトルはパロディですが、タイテの時間通りにライブに来れないオタクは沢山います。

地下アイドルオタクのかべのおくです。


現在、noteでは「読書の秋2022」というお題で投稿を募集しています。

そこで課題図書の中から「AI vs. 教科書が読めない子どもたち」を選びました。著者は「ロボットは東大に入れるのか(通称: 東ロボくん)」のプロジェクトリーダーである新井紀子さんです。僕は一応ながら、理工系学部でAI技術を学んだ経験があり、かつ現役のエンジニアでもあるので、この本は気にならざるを得ません。やはりシンギュラリティは誰もが一度は思い浮かべるロマンですよね。


読んでみた一発目の感想は、「これは困ったなあ」でした。僕が普段書いているnoteのテーマとはあまりにもかけ離れているように感じたからです。また、言っていることがあまりに的確で的を得ているので、感想も何もあったもんじゃないぞ…とも感じました。しかし「僕にしか書けない感想文って何だろう」とモヤモヤ考えつつお風呂に浸かっていたら、おぼろげながら、浮かんできたんです。これだ!というプロットが。

というわけで今回は本の内容を簡単に振り返ったうえで、僕なりに考えたことを述べたいと思います。ぜひ最後まで楽しんでいってください。


本の内容

この本は前半が著者の関わった「東ロボくん」プロジェクトについて、後半はそれを踏まえて著者が行った「全国読解力調査」について書かれています。なので、この2つのパートについて簡単にまとめます。


第1,2章 AI技術と東ロボくん

「ロボットは東大に合格できるのか」(以後、東ロボくん)というプロジェクトが始まった経緯、そして東ロボくんはどこまでのことができて、何ができなかったかについて書かれているのが前半になります。ここで述べられているのは、Deep Mindに端を発した第3次人工知能ブームの中で見えてきたAI技術の生々しいリアルです。筆者が述べている中でも、日本企業があまりにも「AI」に期待を寄せすぎていること、そして東ロボくんの取り組みを経て見えてきたAI技術の限界を事細かに記しているのが印象的でした。

東ロボくんは2011年のプロジェクトスタートから折り返しの5年目である2015年のセンター試験で偏差値57.8を獲得するに至りました。これはいわゆる履歴書に名前が書いてあればそこそこ名の通る大学や、いわゆるMARCHでも一部の学部なら合格できるレベルです。苦手とされていた英語でも、2019年のセンター筆記では偏差値64.1を叩き出しました。しかし、そんな東ロボくんでも「意味を理解する」ことはなし得なかったと著者は述べています。

少し話を脱線させますが、例えば「今日のライブで八木ひなたちゃんがポニーテールしてたんだけど、流石に尊すぎてしんじゃった」という文章があったとします(僕の感想ではありません)。このとき、Googleを使えば「ライブ」「八木ひなた」「ポニーテール」「尊い」「死ぬ」などの言葉については、すぐにでも膨大な情報を集められるでしょう。しかし、「そのライブにおける八木ひなたちゃんがどれくらい可愛くて、それを見たオタクがどれほど嬉しかったか」なんてのはGoogleの知るよしもありませんし、どんなに言葉を尽くしても伝えることはできません。これが「AIは意味を理解できない」ということなんじゃないかなと思います。

話を戻しますと、東ロボくんは東大に入ることが目標ではなくて、「技術者が本気になったらロボットはどれくらい賢くなれるか」ということを明らかにするプロジェクトです。そしてその試みの一部始終は、この本で事細かく述べられていました。そのうえで著者の「スパコンやビッグデータを使っても、東ロボくんが東大に合格できるようになることはない」という主張は、圧倒的な説得力を持って僕に迫ってきました。


第3,4章 教科書が読めない子どもたちと最悪の未来

後半は、著者が作成した「全国読解力調査」で使われたリーディングスキルテスト(RST)の詳細と、その結果についての詳細な分析です。ここでは、想像以上に深刻な現在の中高生の読解力と、それに対する著者の危機感がとても印象的でした。とくに筆者が問題視していたのは、AIにとって代わられないような仕事をこなすための能力が育っていないということです。

東ロボくんの取り組みから、AIは意味を理解することが苦手だということが明らかにされたのは先述したとおりです。ところがRSTを実施した結果、人間の中にも文章の意味までは理解できていない人が一定数見られることが分かったと述べられていました。これはAIに仕事を奪われたうえに、AIにできない仕事に就くこともできないかもしれない人がいるということです。ちまたでは、「創造性の高い職業はAIに取って代わられない!クリエイティブな仕事をしよう!」という論調を見かけますが、実はそもそもこれが能力的に困難な人がいるんじゃないの?というのがこの本での示唆かと思います。

この本を通して言えることとして、著者はAI技術とそれによって訪れるそう遠くない社会に対して無知であることに警鐘を鳴らしているように思われました。そして多少なりともテクノロジーに関わっている人間として、数学や物理の応用である科学技術に対して可能な限り実直・素直でありたいという思いを新たにしました。


感想

ここからは、この本を受けて僕が考えたことを話します。

AIへの期待と説教オタクの共通点

AIは何でもできると勘違いしている人が、とくに日本ではいかに多いのかということはこの本でも語られていた通りです。具体的なデータが示されていたわけではありませんが、そのようなAIに対して無知な人が、「シンギュラリティ」という言葉の流布に一躍買っているように感じることは、企業の中で働いても感じます。

このように無知であることが過度な期待につながってしまう現象は、世の中のありとあらゆるところにあります。僕が思い浮かぶのは「説教オタク」と呼ばれるタイプのオタクです。握手会や特典会などでメンバーのだめなところを指摘して説教をして回る、とくに平均年齢が高めのオタクによく見られる現象です。シンギュラリティ信奉と説教オタクは、原因が似通っているように思われてなりません。


なぜ技術者がAIの実力を過信してしまういえば、それは正しく実態の理解がなされていないからでしょう。ディープラーニングを成立させている技術であるニューラルネットワークは、人間の脳をもとにして作られたモデルであり、人間の脳をそっくりそのまま表しているわけではありませんし、そもそも脳の仕組みすら完璧に解明されているわけではありません。しかし、それを知らない人からすれば、「脳と同じ仕組みで動くのだから、いつか人間を越えるロボットだって作られてもおかしくない」と早合点してしまうわけです。

同じように、アイドルやアイドル運営の実態を正しく理解していれば、指摘こそすれ説教できないと思います。アイドルや、アイドルを志している人は、ときには貴重な10代の時間を投げうって、ときには就職や進学を諦めてまで、沢山の時間を注いでいることがほとんどです。周りの大人だってプロデュースしているぶんできうる手立てはすべて打っているでしょう。その上でさらに「もっとこうすれば良くなるはず!!」なんて上から目線な発言をしてしまうのは自己満足としか思えません。

もちろんオタクはお客様としてお金を払っている範囲内では楽しませてほしいとは思います。しかしあくまでも消費する側としての立場を違えてはいけないですし、よりオタクを楽しむために推しメンのことを正しく理解する努力が求められているのではないでしょうか。


四国4県が書けないアイドルたち

この本において著者は、「中学を卒業するまでに教科書が読めるようになる教育を」と主張していますが、アイドル活動は読解力の低下に影を落としているように思われてなりません。

アイドルとして活動しているのは、10代後半~20代前半くらいがマス層かと思います。いきなりアイドルになれるわけではありませんから、実際は10代前半くらいからアイドルになるためのオーディションを受けるために奔走することになります。やっと合格してアイドルになれたかと思うと、休みなくライブとレッスン、特典会を繰り返す日々が待っています。そしてこれは、読解力を身につけるべき時期にちょうど重なります。深夜までアイドル活動し、朝から学校に通ったところで果たして教科書が読める読解力は身につくのでしょうか。

「四国地方にある都道府県を4つ書きなさい」という問題はクイズ企画の定番ですが、おそらく推しメンが正解できるか自信のないオタクは結構多いのではないでしょうか。これはつまり、AIにできない仕事に就けないアイドルが少なからずいることを示しています。グループを卒業して一度アイドル活動に区切りをつけてから、別のグループに加入する例は枚挙に暇がありません。これがポジティブな選択なら良いのですが、なかには「能力的にアイドル以外の職業で働けない」という、ネガティブで消去法的な選択で、アイドルに出戻ってきた事例もあるのではないでしょうか。


「そんなこと言っても、アイドルがAIになることなんて無くない?」と思われるかも知れませんが、僕はそんなことはないと考えています。これは最近熱を帯びてきたメタバースが大きく影響しています。大きな動きでは、AKB48の選抜メンバーで結成されたVRユニット「AKB48 SURREAL」が、XR WorldというVR空間でライブを行っています。

また地下アイドル業界でもVRアイドルグループ「えのぐ」がTIF2022に初出場、アイドル総選挙でも並み居るグループをおさえて4位に食い込むなど、新しい風を吹かせる存在になりつつあります。

アイドルがVR空間にいれば、その先に人間がいるかAIがいるのかはもはや見分けがつきません。もちろん完全なAIに代替できないこそあれど「特典会で話すのは苦手だからチャットボットに任せる」「振り付けの細かいところはCGで補正して揃える」みたいなVRアイドルが現れても全然不思議では無いでしょう。


じゃあアイドルがAIで代替されうる未来に向けてどんな対策が考えられるかというと、一つはアイドルも読解力を身につけることです。今でも、大学や高校を卒業してからアイドル活動を始めて、基本的かそれ以上の読解力を持っているアイドルも沢山います。たとえば僕が以前noteで取り上げたアサギさんは早稲田大学の4年生在学時にアイドルを始めているので、それまではしっかり勉学に励まれていたと推察されます。

それに最近はアイドルもブログやnoteなどで文章を書いて発信する人が増えてきて、多少の文章力が求められてきたように感じます。それは上手く文章を書く能力だけではなく、オタクが求めている情報を正しいタイミングで伝える能力も含まれます。ネット上で「見つけて」もらうためには今の世界で起こっていることを正しく理解して、自分が生き抜ける隙間を見つける必要があるということだと思います。


もう一つは、AIでは代替され得ない人間らしいアイドルになることだと思います。本の中で筆者は「なぜその商品が『そこに在るのか』というストーリーに消費者は魅かれるのです」と述べていますが、これは明らかにアイドルの得意分野です。数多くの人々によって編み上げられた連綿としたアイドルのストーリーは、現代社会に疲れて乾いたオタクの心を掴んで離しません。

これはもしかしたら最近では「感動マーケティング」と揶揄されるのかもしれません。しかし、アイドル一人ひとりが持つ人間らしさ、アイドルらしさ、活動していく中で貫かれるその人自身の生き方というのは、現時点のAIには真似できないものであると僕は考えています。


AIに「大切なお知らせ」の意味が分かるのか?

じゃあ自分を省みたとき、アイドルオタクにそういった「替わりの効かないアイドル」を見極める力は果たして育っているのでしょうか?僕はオタ活をしていると賢い消費者になれる可能性はかなり高いと思います。これはアイドル現場では情報の表面だけでなく意味を推し量る場面が多く存在するからです。


たとえば、「今日のライブでは大切なおしらせがあります」というアナウンスがあったとすると、これはオタクにとってはただごとではありません。「大切なお知らせ」というのは、卒業や解散などと言った良くない知らせであると相場が決まっているからです。したがって、何があっても駆けつけたほうが良いライブということになります。

他にも、「遠征ツアーのライブは日曜の夜に行います」という情報があった場合、その土日はまるまる空けておいた方が良いということになるかもしれません。大抵の場合ツアーは単独公演だけではなく、遠征先での対バンに出演したり、ミニライブやオフ会があったりと何かしらの企画が用意されているからです。オタクはこうした情報に敏感になると、よりオタ活を楽しむことができるでしょう。

ただし、オタクであることによって磨かれる力はあくまでも「オタクとして消費する能力」でしかありません。これは、上に挙げた例が極めて特殊なシチュエーションであることから分かるでしょう。また、そもそもオタクというのはその存在自体が非合理なものでもあります。賢く消費するのがオタクの目的ではないということは認識したうえで、より楽しむためのムーブを模索するのが醍醐味と言えるのかもしれませんね。


おわりに

まとめます。

好きになった推しが、たまたまAIだったら少し怖い。

以上です。

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