#6.双極性障害とは?
「うつ病や双極性障害などメンタルの不調全般を、診断書には感情障害とか気分障害と書くんですよ」
とは尾長先生の談。
診断書の病名について聞いてはみたものの、いまいち要領が得られない。うつ病とか、双極性障害……?
「僕の場合はどっちなんでしょう?」
「うつ病の場合、気分が落ち込んで上がらなくなるけど、カバネさんは落ち込む時もあればそうでない時も多いでしょ」
ふむ、あまり自覚は薄いけれど……そうなのでしょうか。
「うつが酷いと会話も出来なくなるのよ。でも、会話とかプレゼンとかはいつも通り出来たでしょ? だから双極性障害の方かなって」
「双極性障害ですか」
「昔で言う『躁うつ病』やね。休む前も、頭が回るときもあれば、全く働かないときもあったって言ってたしね」
「そうですね」
「うつ病とはちょっと違う。だから、双極性障害の疑いが強いとみています」
ふむ……聞いてはみたものの、やっぱり分かったような、分からなかったような。
流石に自分の病気は気になるわけで、ちょっと調べたくなりました。と言ってもWebサイトにある情報を寄せ集めてのものなので、信憑性には疑問符をつけて。
調べてみたところ、うつ病と双極性障害に共通するのは『うつ症状』だそうです。
気分がひどく落ち込んで身体も悲鳴を上げてしまい、遂には自殺も図る地獄の症状。僕もそうでしたが、この状態で初めて心療内科に足を運ぶケースも多いらしい。
違いは『躁』の状態があるかどうか。
個人差はあれど『躁』が強い時は万能感や全能感、実感としてはすこぶる調子が良くて、元気があれば何でもできる! そんな気持ちになるのだと。
単にテンションが上がる、或いは元気になるというだけなら問題ないのだけれど、これは重大な危険性をはらんでいるらしいのです。
具体的には支払い能力を超えてクレジットカードで散財したり、睡眠時間が激減したり、出来もしない事を約束・契約したりと、まるでスターをゲットしたマリオの如く活動的になるのだとか。
そんな『うつ』と『躁』の状態を繰り返す、或いは混合するといった双極性障害。
また、なぜ病気ではなく障害と呼ぶのか。それは慢性的な症状で、長期にわたって治らないような病気だから。一説では再発率90%、しかも再発する度に症状が悪化するといった情報も。いや90%ってマジか。えっマジで?
そしてもう一つ、双極性障害の怖いところ。
しばらくすると、うつ状態は軽くなるらしいのです。それどころか元気になって気分もハイになる(と感じる)ため『うつ病が治った』『もう大丈夫だ』と錯覚してしまう。
実際には躁症状が出ているだけで何も治っていないのだけれど、気分も高揚しているので通院を止め、あれやこれやと活動的になり、そしてまたうつ症状がぶり返してダウン。
そうして再発を繰り返し症状が悪化し、自分はなんてダメなんだと自己嫌悪に陥り、やがて完成される負のループ。あまり考えたくない内容だけれど、患者自身が躁状態を自覚することはほぼ不可能という話もありました。
また、『うつ』と『双極性障害』では治療方法も大きく異なり、双極性障害の方にうつ病の治療薬を処方すると異常にハイになったり、かえって症状が悪化してしまうなんてことも。
と、ここまで調べたところで、これは何かの間違いでは? 双極性障害ではなくて単にうつ病じゃないの? とか思いたくなりました。
というのも、例によって僕には躁状態の自覚が全然なかったの。そんな無敵マリオな状態はなかったと思うの。
だから自分は違うんじゃないかなぁ……そんな疑問が顔に出ていたのでしょう。診察時、先生に『それ、躁のエピソードやで』と言われたものがありました。
「前も言ったけど、寝ずに働いたりもあったでしょ?」
「まぁ忙しいときは確かに」
「うつ病の人はそうは行かない。そもそも、布団から起きれず会社にも行けないし」
ふむふむ。
「あとカバネ君が言ってた話だけど、朝まで飲むことも多かったでしょ? テンション上がって来たら次の日が仕事でも」
「そうですね……」
「飲み会に限らず楽しくなっちゃうと、どんなに疲れててもトコトン行っちゃうでしょ?」
「は、はい」
「普通は自分の体調や明日のこと考えて切り上げるもん。カバネ君ほど体調悪くてもやっちゃうって、明らかにやり過ぎよね」
「お、おぉ」
返す言葉もございません。
他にも色々と話はあったのだけれど、10代の頃から楽しいとやり過ぎちゃう他、テンション高い・低いの差が激しい子だったりだとか、その素養は大分と前から持っていた様子。
後になれば双極性障害の自覚も増えるのだけれど、当時の理解はこんな感じで。そっか~きっとそうなんだろうなぁみたいな。
「元気になっても気を抜いたらアカンよ。物足りない、もう少しやりたい、まだできる……そのレベルで抑えること。余力を残すとか今まで考えたこともなかったでしょ? だから重々、気をつけてね」