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『キドナプキディング』感想文

序文

 最近、西尾維新『キドナプキディング』を読了しました。

 こんにちは、揺井です。

 揺井の読書感想文を読みたいという奇特な鶴の一声で筆を執っております。

 非常に残念ながら、ご期待に添う自信はありません。
 何故なら、『キドナプキディング』は所謂ファン向け作品であるからです。
 デビュー作『クビキリサイクル』に連なる戯言シリーズの後日談。20周年のボーナストラックです。

 余談ですが、西尾維新が商業作家歴20年にも関わらず40代前半である事に対して失笑した事があるファンは私だけじゃないと思う、と言わせてください。
 天才は天才ですね。

 閑話休題(言いたいだけです)。

 ですから、ストーリーを楽しむというよりは、西尾維新節を楽しむ作品です。
 そういうタイプの作品に対する感想って、結局、「西尾維新ってこういうトコあるよね〜!」というあるある列挙になってしまうのです。

 そんな内容でよろしければ、酒のアテにでもしてやってください。

 * * * * * *

 ここでブラウザバックする方へ。
 なんの収穫も無いのもなんなので、私のおすすめ戯言シリーズ手描きmadでも見て潤っていってください。知っている方も多いとは思いますが、未視聴であれば是非。最高です。
https://nico.ms/sm35116642

 * * * * * *

 さて、それでは、奇特な方のみお楽しみください。
 まあ、以下の文章は、なんの誇張もなく、

 戯言だけどね。

 ……これ、マジで言ってんだけど。

※※※ここから先は、『キドナプキディング』のネタバレを含みます。未読の方はご注意ください※※※

本文

 導入の恥ずかしさに悶え死んでいます。揺井です。これを毎回言えるいーくんの心臓に敬礼。

 まず、『キドナプキディング』を読み終えた直後の自分のツイートを、覚書として振り返ってみようと思います。

・久々に読んだ西尾維新作品であるところの『キドナプキディング』ですが、エナジードリンクを期待して読んだら清涼飲料水、というような感覚になりました。学生時代を思い出します。そうだった、思い返せばあの頃も、西尾維新の読後感はこうだった。

・私の中で「西尾維新か森見登美彦を読むとその後一週間くらい筆が良く乗る」というジンクスがあり、そのドーピング的効果を狙ってこんな週半ばの夜時間を使って読了してしまった訳ですが、西尾維新はティーンが主役の作品では爽やかな読後感をもたらしてくれる作家であることを思い出せただけでした。

・少し読もうと思ったら全部読んでいました。面白かったです。西尾維新はトリッキーな言葉選びをする癖にフランクな一人称だからサラサラ読めてしまう。お茶漬けくらいサラサラでした。話のトリックが面白いとか面白くないとかがどうでも良くなるくらいキャラの魅せ方が上手いので満足感が約束されている。

 ……はい。
 ここで、作中で玖渚盾が言い連ねる『パパの戯言シリーズ』に倣ってみようと思います。

 西尾維新あるある、その1。
 なんやかんや良い話に持っていくのが上手い。

 いや、そんなありきたりな事敢えて言わなくても、と思われそうですが、西尾維新が上手いのってここだよなと思うんです。

 終わってみたら呆気ない、ありきたりな良い話。でもそこに至るまで膨大な設定と伏線と言葉遊びで殴られ疲れているので、あっさりしたオチが心地良いんですよね。
 ここが自分の感じたスポドリみだったんだと思います。
 過程は相変わらず、刺激物と糖分たっぷりのエナドリなんですけど……。

 西尾維新の型破り・荒唐無稽はデビュー直後からずっとそうなんですが、戯言シリーズについては、型を破りつつ現代異能バトルの王道ラインをきちんと踏んでいた作品だと思っています。
 というか、西尾維新の作品はどれも軸足で王道を踏みながら文章と設定で暴れまわっている印象です(『ニンギョウガニンギョウ』とか『りぽぐら!』みたいな実験小説を除けば)。

 だから、どうしても、味付けが似てくる。

 毎回新鮮味だけを求める相手としては、20年で100作以上書いてきた多筆作家は不適切ですね。
 むしろいつもの味を求めて読むんですね。
 安定感があります。

『キドナプキディング』について、自分の超絶勝手な感想を言うなら、

「西尾維新のパッチワーク」

みたいな印象でした。

「分かる、分かるぞ……! これもこれも、維新研ゼミで見た……!」

 みたいな。

 唐突な暴力は刀語の味。
 人象衛星・玖渚のスケール感は伝説シリーズの味。
 犯人の動機はトリプルプレイ助悪郎の味。
 キャラクターの境遇の無情さは少女不十分の味。

 みたいな。

 戯言シリーズの味は無いのか、と問われると、

 戯言シリーズは西尾維新のベースになる味で構成されているので「ここから戯言シリーズの味がします!」と指差すのが難しい、

と返答せざるを得ません。

 胸焼けするくらい盛り込まれた言葉遊びと奇天烈設定、架空なのが一発でわかるキャラの名前と砕けた文体。

 THE 西尾維新。

 どうしてもそう感じます。THE 戯言シリーズ、とは感じませんでした。

 戯言シリーズの味は、これまで出版されてきた戯言シリーズ作中のキャラクターであり設定でありフレーズであり物語展開です。
 テイストというより具体的なポイント、味覚というより視覚って感じです。
 展開や設定の雰囲気ではなく、単語単語に個性がある感じ。

 伝わるかな〜……自分が感覚的に捉えているものなので難しいですね……。

 そんな訳で、パーツ毎に西尾維新味を感じながらも、トータルとしてはやっぱり戯言シリーズでした。

 とかく、懐かしいワードが沢山出てきます。

 十三階段とか玖渚機関とか忌み名とか呪い名とか。

 ただ、懐かしいワードが沢山出てきたにも関わらず、懐かしい人はほとんど出てきませんでした。
 名前だけならこれでもかとねじ込まれていましたが、実際出てきて喋ったのは二人だけ。

 哀川潤。玖渚直。

 玖渚盾の名前の元ネタ(音だけではあるが)の人類最強請負人と、玖渚友のシスコン兄。
 この二人はめちゃくちゃ喋ります。

 いーくんも玖渚友も出てきませんでした。

 当たり前ではあります。出てきたら野暮です。西尾維新はそんな野暮天ではない。
 出さずに噂や伝聞を詰め込みまくって外郭を作るのが西尾維新です。
 戯言シリーズはとりわけそう。本名が1回も出ない、いーくんが主人公ですものね。

 語り部の盾を含む、登場人物たちが語る戯言遣いと青色サヴァンを楽しめるのも本作の良い所です。

 戯言遣いの特異性と青色サヴァンの天才性、それぞれを失った二人の現在が、主に盾の語りから見えてくる。

 あの人の現在! とかって、噂話で聞くくらいがちょうどいい節があります。

 ついでに言えば、盾は二人の子供感が薄いです。
 西尾維新の子供って感じがします。
 阿良々木暦に近いかもしれません。
 普通サイコー、という理念の普通の女の子です。吸血鬼に見初められたりしたわけでもなく、親が武勇伝とネームバリューに満ち満ちているだけの、普通の女子高生。

 つまり、西尾維新の普通観が楽しめます。

 凡人主人公の時は大抵そう。客観的に凡人のあるあるを並べる感じが好きです。西尾維新、そういうところある。

 普通の女子高生視点で、戯言シリーズネタ満載でお送りされる『キドナプキディング』。冗談(キディング)みたいな誘拐(キドナプ)の話。

 言えることも少なくなってきたので、これにてお開きにさせていただきます。

 西尾維新の言葉遊びで胸焼けしたくなりたい人、戯言シリーズに郷愁を感じたい人、普通( )の女子高生が大怪我したり中学生女子といちゃいちゃしたり殺人事件の探偵役をやってみたりするところが見たい人は、是非ご一読を。

2023/04/12 揺井かごめ

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