幻のマンガ家・橋本みつる
このところ場外乱闘(?)の続くマンガ原作のドラマ化に絡んで、とんでもない爆弾(?)が炸裂した。
コバルト文庫時代から書き継がれてきた若木未生『グラスハート』、まさかの実写ドラマ化!?
ドラマでは大学生になるらしい、ヒロインの西条朱音(高校生)が、突然天才ミュージシャンに見込まれてドラマーになるところから始まる物語。
音の聴こえない小説で、「音楽」をどう感じさせるのか?
そういう普遍的な疑問へのひとつの答えなんじゃないか、と思うくらい、登場するバンドの「音楽」が脳内で響くような、ひりひりとした小説だと、コバルト文庫当時、読んで思った。
現在はバーズノベルズからの出版で、読者のイメージは花とゆめ出身のマンガ家、藤田貴美のイラストが主流かもしれない。
あるいはコバルト文庫時代でも後半部を担当された羽海野チカのイラストのイメージで思い浮かべるファンもいるかもしれない。
それでも、自分の中の脳内イメージは、やっぱり今も、初代のイラストレーター、藤田貴美と同じく花とゆめ出身のマンガ家、橋本みつるの描くキャラクターたちだ。
(因みに、世代が近く交流があったようで、藤田貴美のコミックスには他のマンガ家といっしょに、橋本みつるも出版記念のコメントとイラストを寄せていた)
花とゆめでデビュー後、本誌から主に増刊を発表舞台にしていながら、コミックスはほぼ出ていなかった橋本みつるの絵が出版物の表紙になったのは、ご本人のマンガではなく、この『グラスハート』だった。
書影の通り、目がなんだかぐるぐるする不安定な描線の独特の画風と、青春期の感情の揺れを生々しく描く独特の作風で、このイラストを見た時も、本文のひりひり感とマッチしている、と思ったものだった。
白泉社からは今は絶版だが、一冊だけコミックスが出ている。花とゆめではなく、ジェッツコミックスの編集者がファンで、活躍舞台が白泉社から離れた後、編集者からのオファーがあって実現したコミックスだったらしい。
(この表題作は、おそらく最高傑作の短編だ。編集者さんナイスジョブ)
花とゆめの後、今では会社自体が存在しないソニーマガジンズの雑誌「きみとぼく」に移籍(?)した時期には、ようやくコミックスが出た……ものの、出版社がなくなり、すぐに入手困難に。
その後、数年沈黙が続いたものの、意外な形で活動を再開した。
なんと新書館ウィングスの新人賞に応募して入賞!? 審査員だったマンガ家のお一人が「わたしが審査するなんて」みたいなコメントをしていたくらい異色のキャリア転換だった。
それから、ウィングスにもあまり作品が載らなくなったと思っていたところ、同じ新書館のピュア百合アンソロジー「ひらり、」に短編がぽつぽつ発表されるようになった。
それが『さらば友よ』としてコミックスにまとめられた(この媒体でもコミックス未収録作はまだまだある)。出版時の帯には、同じく花とゆめ出身で新書館で今も活躍中の那州雪絵からの献辞もあった。
残念ながら、この一冊が最後のコミックスになっているが、電子書籍で唯一読める橋本みつる作品だ。
「ひらり、」の後は小説ウィングスに(小説ではなくマンガの)『いじわるマヤの記憶』を連載した2015年を最後に、現在に至るまで、残念ながら新作は描かれていない。コミックスの出る気配ももちろんない。
一応、過去の既刊、未収録作品を含め復刊リクエストは出しているものの、期待は薄かもしれない。
『グラスハート』で思い出して、橋本みつるの書影を一堂に見れるポストにしてみた。なんのことはない、自分が眺めたかっただけです、すみません(笑)。
<参考>
個人的に作成している作品リスト。