たこい⭐︎きよし

本を読む。ビールを造る。

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マガジン

  • 科学者になろう

    なりゆきで博士(農学)まで取得した経験から、科学/研究についてブックガイドを切り口にいろいろ紹介。あなたも科学者になれる、かもしれない?

  • あのころの、こどもまんが

    こどものころに読んだ懐しいまんがと、そのころの思い出をつらつらを書く極私的エッセイ。自我は読んできたまんがでできている、かもしれない!?

  • ブックスタンドは引かれ合う

    「スタンド使いが引かれ合う」かの如く、耳にした時事ネタから引かれ合うように連想した本のことをランダムに綴るエッセイ。次は何の話題か、自分でもわかりません(笑)。

最近の記事

【14】ふたつの甲州プロジェクト

 日本でワイン造りに連綿と使われてきたブドウ品種「甲州」が、一説によると「行基という奈良時代の高僧が日本に伝えたとされている」というトリビアは川原泉『美貌の果実』で知った。  その「甲州」は、日本古来の品種で食用にもされてきたのだが、遺伝子的には欧州のワイン用ブドウが属するVitis vinifera種に近く、7割以上はVitis viniferaであることが近年の研究で明らかになった。 (学名は正式にはイタリック表記。本稿中、以下も同じ)  最初は「甲州の遺伝子を調べて

    • 【13】レイズ・ザ・シャンパーニュ!?

       けっこう前にニュースになったと思うが、バルト海で沈没していた船から、170年前のシャンパーニュが見つかった。  おそらくロシアあたりに向けた交易品だったのだろうが、海の底にあったので、人の手に渡るのが170年も遅れてしまった、ということになる。遅刻するにもほどがある(笑)。 シャンパーニュの海底熟成!? 先のコラムと、『世界の名酒事典 2018年版』のカラー写真入りのトピック記事の中に、この発見をきっかけに計画されたという、瓶詰のシャンパーニュを海底で熟成させてみよう、と

      • 【12】麹は「破精(はぜ)」たら役に立つ

         「【5】論文を書こう」の回では『動物のお医者さん』を取り上げたが、博士課程在籍学生の論文投稿のリアル、なんてマニアックな要素はさておき、チョビをはじめとする動物たちとハムテルたちのキテレツで楽しそうな様子に人気が出ることで、連載当時は獣医学部の志望者がだいぶ増えたという。 (2024年現在、小学館ビッグコミックスに移籍して毎月一冊刊行中なので、新しい読者も生まれているとうれしい)  同様に『もやしもん』ブームは全国の大学の農学部志望者をだいぶ増やしたものだった(雑誌連載は

        • 【11】白ワインのあの香り

           シャトーメルシャンに「甲州きいろ香」(現在は「玉諸甲州きいろ香」)というワインがあるが、その名前の由来はこの本『きいろの香り:ボルドーワインの研究生活と小鳥たち』で知ることができる。  前回(【10】官能検査をしよう)紹介したこの『アロマパレットで遊ぶ』の著者であり、ボルドー大学でワインの研究をされていたリサーチエンジニアの故・富永敬俊博士の初めての著書はこの『きいろの香り』だった。  ボルドー大学での研究生活の傍ら、拾った小鳥を「きいろ」と名づけて可愛がっていた富永博

        【14】ふたつの甲州プロジェクト

        マガジン

        • 科学者になろう
          13本
        • あのころの、こどもまんが
          3本
        • ブックスタンドは引かれ合う
          5本

        記事

          【10】官能検査をしよう

           「官能検査」という言葉を使うと、「官能」という言葉の字面から微妙な反応をされることがあるが(笑)、そういう意味(笑)ではない。  ありていに言って、「分析」の一手段であって「人間を測定機器として活用する」手法の総称だと思ってもらえばよいかと思う。  科学が進歩している現代、なんでも機械で測れるんじゃないの、と思っている人もいるかもしれないが、「分析」というのは地道なもので、例えば、ワインをある測定機器で「分析」しようといった場合、ワインそのものをそのまま機械の中に通して

          【10】官能検査をしよう

          【9】観察をしよう

           すごいものを見てしまった。  …というのが、まず第一印象。  「微隕石」とは字面の通り、微小サイズの隕石のことだが、そういった隕石は小さすぎて人間の生活圏ではサイズの近いさまざまな塵芥にまぎれて見つけられない、ということで、そういった「微隕石」を極地で収集する試みはこれまでにも行なわれてきた。  著者は、その研究手法上の「定説」に挑戦し、顕微鏡での膨大な観察の結果、人間の生活圏から「微隕石」を見つけられるようになった。  そのサイズはおおよそ0.2~0.5mm程度(!)

          【9】観察をしよう

          時間SF初体験?

           記録をひもといてみると、『ドラえもん』の小学館学習雑誌での開始は1970年1月号から、だったようだ(※1)。  自分が小学校に入学したのは1971年4月なので、本当の連載開始からは1年ちょっと経っていたことになるが、記憶の中では、ちゃんとドラえもんが未来からやってくる話から読み始めて、未来に帰る話まで読み、しみじみとしていたら、翌月、あっさり帰ってきちゃったところまでがひと続きになっている。 ……なっていたのだが(笑)、こどもの頃の記憶なんてものはだいぶいい加減なので(

          時間SF初体験?

          年に一度のお年玉

           夏休みと冬休みに帰省していた母の実家は、自分が小学3年生の時に普通の木造家屋に建て替えられたのだが、もとは土蔵に住居スペースをつけたような、今にして思えば不思議な建物だった。  祖父が漆職人で、二階部分にはその仕事部屋があったのだが、まあ、それだけが理由でもないだろう。土壁の古い家屋。お便所は屋外でほぼ土を掘ったところに溜め込むだけ、といった風情だった。  閑話休題。  その古い方の実家で、一度だけ『ルパン三世』を観たことが、強烈に記憶に残っていた。  内容はちょっとエッ

          年に一度のお年玉

          あのころのリアリティ

           幼少期の思い出には母方の実家のウェイトが大きい。  母の兄弟は兄が二人、姉が二人で、母は五人目の末っ子だったが、それぞれの一家が、お盆や正月には祖父母のいる実家を訪ねて、夜は大宴会。  他の伯父伯母は同じ市内に居を構えているので、うちの家族だけが、帰省の期間は泊めてもらっていた。  そんな帰省の期間内に、りぼんで読んだ千明初美「いちじくの恋」は、同じように、田舎に、休みごとに親戚の集まる話で、他人事とは思えないリアリティがあった。  ついでながら、続編の「七夕」では、

          あのころのリアリティ

          新世紀のビールの教科書

           日本ではアルコールが1%を超える酒類を製造するには免許が必要だが、欧米では自家消費程度なら認められている。ということで、いわゆるホームブルーイングはけっこう盛んのようだ。  英国でホームブルーイングをしていてコンテストで入賞歴もあるという著者の書かれたこちらの本などは、使う設備から工程ごとの注意点などをきめ細かく図解してくれていて、ちょっとやってみたくなる(やっちゃいけません)。  ただし、それなりのスペースや設備は必要なので、酒税法で禁止されていなくても日本の一般的な家

          新世紀のビールの教科書

          【8】研究をしよう

           さて、ここまで学会発表、や論文投稿にまつわる話をいくつかしてきたけど、当然ながら、肝心の「研究」がなくてはどちらもすることができない。  それでは、そもそも、科学者はなぜ「研究」なんてことをしているのか。 (もちろん、科学だけが「研究」ではないが、ここは話の流れということで、ひとつ)  人によって答えはたくさんあるとは思うが、いきなり、「人類の英知の殻を広げたい」などと高尚かつ崇高な使命感に燃えて「研究」を始める人はいないだろう。(そういう方もいるかもしれないが…)

          【8】研究をしよう

          【7】(高校生でも)学会へ行こう

           ……と、これは岩波ジュニア新書の一冊。  編者を含む11人の女流研究者が、自分が研究者になったきっかけや研究内容、その面白さについて語る。  読んでみると、執筆者としては最大限くだけた文章をこころがけているんだろうなあ、とは思いつつも、脚注などなしにさらっと出てくる専門用語もあったりして、もしかすると本来のターゲットの中高生が読むとそういうところで「??」と引っかかってしまうかもしれない。  とはいえ、いろいろな進路があり得ることを中高生に語りかける点では、こういう本は

          【7】(高校生でも)学会へ行こう

          【6】日本語と英語のあいだ

           さて、「研究」をしていくと、いつかは必要になるのが「英語」だ。  まず、自分の分野の「人類の英知の殻」までたどり着くには、「論文」を読まなくてはならない。  そして、その殻をちょっとだけ押し出すためには、自分の「研究」を、世界中の人が読めるように「論文」にする。  そのためには多くの人に通用する公用語で読んだり書いたりすることになる。  非ネイティブの使う英語を「イングリッシュ」ならぬ「グロービッシュ」なんて呼ぶこともあったようだが、世界の公用語といえば、要は「英語」

          【6】日本語と英語のあいだ

          【5】論文を書こう

           さて、「学会発表」で自分の研究をアピールしたら、次のステップは「論文投稿」だ。  前回、「学会発表」は会員になれば誰でもできる、と書いたが、多くの場合、ここまでは発表内容の是非を問うような審査のプロセスがない(なので、中には怪しげな発表もある(笑))。  そして、発表は基本、その場限りのものなので、後にも残らない。  後に残らないと、せっかくの発見も、「人類の英知の殻」を広げることができない。  そこで必要になるのが「論文」、いわゆる「査読つきの論文」「原著論文」という

          【5】論文を書こう

          幻の(だった)マンガ家・岩泉舞

           1989年、就職してからしばらく、週刊少年ジャンプを買っていた。  お目当てだった『ジョジョの奇妙な冒険』は第三部が始まったくらい。『ドラゴンボール』『聖闘士星矢』などの人気も高く、発行部数が600万部とかいっていたあたりの時期だ。  年が明けて1990年、そのジャンプ本誌に絵柄がちょっと高橋留美子っぽい、印象的な短編が掲載された。岩泉舞「たとえ火の中…」だ。  鎌倉時代を背景に、高貴な生まれだったが政争を避けて尼僧になっていたヒロインと、超常の力を持つ鬼の生まれであること

          幻の(だった)マンガ家・岩泉舞

          幻のマンガ家・橋本みつる

           このところ場外乱闘(?)の続くマンガ原作のドラマ化に絡んで、とんでもない爆弾(?)が炸裂した。  コバルト文庫時代から書き継がれてきた若木未生『グラスハート』、まさかの実写ドラマ化!?  ドラマでは大学生になるらしい、ヒロインの西条朱音(高校生)が、突然天才ミュージシャンに見込まれてドラマーになるところから始まる物語。  音の聴こえない小説で、「音楽」をどう感じさせるのか?  そういう普遍的な疑問へのひとつの答えなんじゃないか、と思うくらい、登場するバンドの「音楽」が脳

          幻のマンガ家・橋本みつる