結果的父娘合作エッセイ/吉本隆明『開店。休業』
吉本隆明生前最後のdancyu連載ミニコラム…というだけなら、内容的に単なるお年寄りの想い出話(しかも間違い、勘違い多し)で、おそらくなんてことないエッセイ集になっていた……かもしれない。
そうしたところに、長女にしてマンガ家のハルノ宵子が全エッセイ(1回4ページ)に見開き2ページの注釈コラムを入れることで、本編エッセイにおいて吉本隆明ご本人は意識していないところで「老い」が浮き彫りになるとともに、「間違い」「勘違い」が正される。このあたりは一種の掛け合い漫才的ですらある。
また、同じ家庭の出来事が視点人物の違いで異なる様相を呈するのだが、これは最初から企画しては得られなかった類の効果だろう。
さらには、複雑な想いで親の「老い」を見守る視線までもが付加され、予想外に興味深い内容に化けている。
ここでまた、ハルノ宵子のエッセイそのものも父親とは異なる個性や生活観の味わいがあるのがさらにいい。
けだし、結果的父娘合作エッセイの妙と言える一冊。
……と、これは2023年10月にひっそりと閉鎖された書評サイト「シミルボン」に投稿していたミニ・ブック・レビュウ。
移転先を探していて、このたびnoteに登録してみて、まずは短いものから移植してみようと思ったところ、ちょうど本日(2023/12/12)、ハルノ宵子のこんな新刊が出ているのを見つけた。
こういうのをシンクロニシティというのか(笑)。
機会があればこちらも読んでみたい。
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