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【スパイダーマン:アクロス・ザ・スパイダーバース】マルチバースとウェブと分人
スパイダーマンの新作映画「スパイダーマン:アクロス・ザ・スパイダーバース」観てきました!
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前作「スパイダーマン:スパイダーバース」からさらに進化してますね!!
ここでは、個人的に感じたことを備忘録として書いておきたいと思います。
マルチバースに生きるスパイダーマン(物語の外側)
今回のスパイダーバースシリーズでは「マルチバース」という要素が強く打ち出されていますが、この点については物語の外側(制作都合)が大きく絡んでいるように感じています。
そもそもスパイダーマンは、沢山のシリーズがあります。ソニー・ピクチャーズが映画化しただけでも以下の通り。
●『スパイダーマン』シリーズ/監督:サム・ライミ
・スパイダーマン(2002年)
・スパイダーマン2(2004年)
・スパイダーマン3(2007年)
●『アメイジング・スパイダーマン』シリーズ/監督:マーク・ウェブ
・アメイジング・スパイダーマン(2012年)
・アメイジング・スパイダーマン2(2014年)
●マーベル・シネマティック・ユニバース/監督:ジョン・ワッツ
・スパイダーマン:ホームカミング(2017年)
・スパイダーマン:ファー・フロム・ホーム(2019年)
・スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム(2021年)
●スパイダーバース
・スパイダーマン:スパイダーバース(2018年)
・スパイダーマ:アクロス・ザ・スパイダーバース(2023年)
・スパイダーマン:ビヨンド・ザ・スパイダーバース(2024年予定)
これだけの映画化が必要な理由として「ソニー・ピクチャーズは5年9カ月ごとに新作を制作しないと、マーベルから買い取った映画化権を喪失してしまう」という背景があります。
"Sony has owned the film rights to Spider-Man and 900 related Marvel Comics characters since 1998, and can keep them if it releases a new "Spider-Man" movie every five years and nine months."
"ソニーは1998年以来、スパイダーマンと900のマーベル・コミック関連キャラクターの映画化権を所有しており、5年9ヶ月ごとに『スパイダーマン』の新作を公開すれば、その権利を維持することができる"。
マーベルは既にディズニーに買収されているため、一度でも映画化権がディズニーに渡れば、再び戻ることはないでしょう。
そのため、ソニー・ピクチャーズとしては、定期的にスパイダーマンを映画化する必要があるわけです。
2010年、サム・ライミ監督の3作品が終わった後に続編の制作方針で揉めて、ソニー・ピクチャーズはリブート(フィクション作品において、シリーズにおける連続性を捨て、新たに一から仕切り直す)の決断をします。
リブートを進める中で、2013年11月にソニー・ピクチャーズ幹部のマイケル・リントンは以下のように語っています。
We do very much have the ambition about creating a bigger universe around Spider-Man. There are a number of scripts in the works
我々にはスパイダーマンの周りに大きな世界を作り上げる野心がある。作品のスクリプトがいくつかある
制作体制の都合などで、1つのシリーズを背負ったスパイダーマンが終わったとしても、新たなスパイダーマンを作り続けなければいけない。
こうした大人の事情と「マルチバースには様々なスパイダーマンがいる」という世界観は相性がいいと言えます。
また、マルチバースにすることによって、様々な立場を描きやすくなり、多様性を担保しやすくなるという効果もある気がします。
ウェブに生きるスパイダーマン(物語の内側)
ここからは物語の内側について書いていきます。
今回のスパイダーバースシリーズを観ていて、スパイダーマンと「ウェブ」の関係性が面白いなー!と思いました。
「ウェブ」は、インターネット上の情報閲覧システムであると同時に、「クモの巣」という意味を持ちます。そしてインターネットの本質は「遠くにあるものを繋げて価値を生む」部分です。時間も距離も精神的な繋がりにおいても。
スパイダーマンはFriendly Neighborhood(親愛なる隣人)というキャッチコピーをもつ一方で、ヒーローにしか分からない志や苦悩という「マイノリティ性」も帯びています。
今回の映画では、そんな志や苦悩を持ったスパイダーマンたちが、ウェブ(クモの巣)によって繋がる表現が見られました。
ウェブは「志」を持って能動的に対峙したときに、まったく異なる相貌を私たちに見せるものである。「志」さえ持てば、ウェブは「人生のインフラ」として「個」を大いに助けてくれる。
(ウェブ時代をゆく ─いかに働き、いかに学ぶか p.241)
遠くにいる自分と似た人と繋がれる。まさにインターネットが出た時の喜びに通ずるものがあるかと思いました。
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さらに今回の作品では、繋がれる喜びだけではなく、同じスパイダーマン同士にもかかわらず立場の違いによって争うシーンも見られます。
繋がれる喜びを経て、過剰に繋がりすぎたウェブの中で、自分たちはどう生きていくのか。いかに手を放していくのか。そういった現在進行形の問題まで考えさせられました。
分人として生きるスパイダーマン(登場人物の内面)
最後に登場人物の内面について。
スパイダーマンシリーズにおいては、常に「スパイダーマンとしての自分」と「スパイダーマンではない自分」の葛藤が描かれています。
スパイダーマンとして過ごすことで、自分の人生が少なからず変容していく。そして自分自身の成長が、スパイダーマンの強さに影響を及ぼす。
今回も、スパイダーウーマンであるグウェンが、警察官である父親に「あなたは警察官のバッチが似合う。自分にとってはこのマスクがバッチである」と言うシーンがあります。
今の自分とは異なる分人としてのスパイダーマンによって、自己を獲得していく成長譚が描かれているわけです。
色々書いてきましたが、一旦以上です!
ここに書いたこと以外にも、表現の美しさやテーマ性で素晴らしい部分沢山あるのでぜひご鑑賞ください!
引用資料/参考文献まとめ
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