気まぐれ作話裏話①~鬼と天狗
出来れば年末年始の休みに「針道の富豪」を書き上げたかったのですが、諸事詰め込んだのと、カクヨムコン用の短編「詐欺師」の執筆に追われていて、脳みそが追いつきませんでした(笑)。
針道の富豪
ところで今回の小話のキーマンである「宗形善蔵」氏。私が知る限りですが、二本松藩関連の作品でがっつり取り上げるのは当作が初めてだと思います。
ですが、彼は鳴海のあるエピソードで必要不可欠な人物であり、最初から登場予定でした。
そして、彼を描くためのリサーチを進めるうちに、従来の二本松藩における「武士と商人」の関係性についても、大きく見直すきっかけとなった人物です。
二本松藩に限らず、多くの幕末作品では「武士は商人を見下すもの」という印象があったのではないでしょうか。私もその先入観があり、「郷士」と言っても身分が低く、城下の武士から見下されていたのだろうと思っていました。
ですが、残されている鳴海の書簡は、善蔵に対していやに丁寧な物言いですし、第一、人の情として、見下されていたら善蔵氏がぽんぽんとお金を出すわけがありません。
武士から尊重された商人・郷士
ここで、「武士と商人の関係」を見直すきっかけになったのは、東和町史に載っていた「菊池家家譜」でした。
菊池家の場合
二本松藩における「武士と商人(郷士)の関係性」。実は、従来の市史などの解説に違和感や疑問がありました。
そこで注目したのが、同じく幕末の二本松藩を扱った「直違の紋に誓って」の主人公、武谷剛介の末息子の嫁である「菊池家」の息女です。
個人的な興味から菊池家を調べていたのですが、簡単に述べると、菊池家は南北朝の動乱の頃から当地に移住してきた古豪。
そして、代々命脈を繫いできたのですが、23代目の顕綱(あきつな。多分)のときに、伊達政宗の「小手森城の撫で斬り」により、菊池一族が殲滅されました。
ですが、その息子の一人が母の実家である「津島村の紺野氏」によって保護されて成人し、以後、幕末まで「紺野」の姓を名乗るようになります。
紺野氏も江戸時代に入ってから木幡村の長として、二本松藩から領民管理を委ねられていました。
紺野氏は度々藩から褒賞を受けており、後から入部してきた丹羽氏も、地元の古豪に対して尊重してきた様子が、菊池家家譜からは伺えます。
この事実をつらつら考えるに、「庄屋クラスの商人・郷士」らは、案外藩からも頼りにされ、財政面などから積極的に二本松藩を支えてきたのではないか?
……という推論です。
彼らは彼らで、「古豪としてのプライド」があり、二本松藩は、そのプライドを非常に尊重していたのではないでしょうか。
大胆といえば大胆な仮説ですが、鳴海が当主を勤める彦十郎家からは、三春藩の郷士(春山家)に娘の一人を嫁がせています。
何度か書いているように、彦十郎家は時には家老も勤める二本松藩の名家。にも関わらず、割と気軽に隣藩の郷士に嫁がせているんですよね。
ひょっとすると、この縁組を取り持った人物として考えられるのは、あちこちに伝手を持つ「商人」だったのではないでしょうか。
→商人は商人同士の独自のネットワークがあり、よく遠方にも娘を嫁がせています。
浦井家の場合
武士と商人の組み合わせを裏付けるかのようなもう一つのモデルケースは、「浦井家」。
こちらは、「白露」の主人公、笠間市之進の妻の実家です。
浦井家は二本松藩家中ではかなり新しい家柄なのですが、元を辿ると、本宮の大商家です。
その財政貢献により正式に「藩士」に昇格したのが、二本松浦井家。おそらく、市之進の妻(作中では「妙」の名で登場)はその関係もあって、藩士である市之進の妻となったのだと思うのですが、武士✕商人という縁組や伝手は、案外二本松藩では珍しくないようです。
浦井家では、大谷治部右衛門(やはり大谷家の一族)を婿として迎えていますし、あまり身分に煩くないという実態が浮かび上がってくるのです。
藩の規模による違い
従来は、「江戸時代の身分制度は厳格だった」と言われてきました。ですが、このように、従来の説は二本松藩には当てはまらないというのが、私の実感です。
その一方で隣藩の会津藩は、武士同士ですら「身分によって羽織の色が違う」という身分の差別化を行っていますから、同じ福島でもかなり状況が異なります。
つらつら考えるに、これは「藩の規模」の違いも影響しているのかもしれません。
会津藩(23万石)を始め、薩摩藩(77万石)、土佐藩(約21万石)、水戸藩(24万石)など大藩は、割と身分差別にうるさい・厳格だった話が多いようです。
藩の規模が大きくなれば、ある程度身分秩序を厳格にしないと統制が取れない面もあったのでしょうし、それに不満を持つ人々のエネルギーが、幕末の尊皇攘夷・倒幕への布石になっていった面もあるかもしれません。
あるいは、徳川幕府初期にあちこちに入部した藩主らの「性格」も影響しているのか……。
いずれにせよ、この「身分なんて気にしない」二本松藩の姿勢は、二本松藩の美点の一つだなあ~なんて、個人的には感じている次第です。
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