遅刻して先生に感謝された日
ルールとたったひとりの人間と。どちらが重たいのか。心から考えさせられたエピソード。
学校に行きづらいBくん
私の息子は小学校6年生。5年生の冬、同級生Bくんが学校に行きにくくなってることを知った。
Bくんは発達の凸凹(でこぼこ)があり授業についていけず、支援学級で過ごすことも多い。
Bくんママ「Bは学校に行くのを嫌がって嫌がって、ほんっとに大変なの…こっちも参るわ…」
息子とBくんの約束
私は、息子にこの実情を伝えることにした。息子とBくんは少年サッカーのチームメイトで仲は良い方だった。
私「Bくん、学校が嫌で朝がなかなか大変なんだって。」
息子「ふーん。じゃ、僕Bのことむかえに行くわ。」
それ以来、息子は通学路から少しだけ外れたBくんの家に毎朝迎えに行き、一緒に登校することにした。
そして迎えた初日。
息子が迎えに行くと、Bくんは既に学校の用意を完璧に済ませて、玄関で待っていた。
息子が迎えに来てくれるのが嬉しかったらしく、それからBくんは嫌がることなく、毎日学校に行けるようになった。
Bくんママ「私や先生がいくら努力しても無理だったのに。やっぱり友達の力ってすごい。」
やることが遅く、朝の用意もなかなかスムーズにいかなかった我が息子も、「Bを迎えに行かないと」と、以前よりもテキパキと行動できるようになった。
そして事件が…
数ヶ月前、コロナによる休校明け。
久しぶりのBくんが学校に行けるか心配だったが、息子が迎えに行くと、「行こう!」とBくんは元気よく登校することができた。
それから数週間たったある日の朝。息子がいつも通りBくんを迎えに行ってから登校すると、息子の学年を担当する男性教員Yが校門に待ち伏せするように立っていた。
「君の通学路はこっちじゃない。勝手に通学路を変えたらいけません。6年生がそんなことをすると低学年の子たちが……」
と怒られた。理由は聞かれなかった。
学校から帰宅した息子は私に、
「明日からBのこと迎えに行くのやめるわ。先生に怒られたし。」
と、寂しそうに伝えてきた。しばらくの思考停止の後、脳内の薄っぺらい辞書をめくってみたが、私には彼の心を埋め合わせるどんな言葉も見つからなかった。
先生との対話とルール変更
翌日、私は職場の上司に経過を伝えて時間休をもらい、校長と担任との話し合いの場を設けた。
担任「息子さんが違う通学路から登校されていたので指導させていただきました。通学路を変更するなら保護者から変更届を出してください。」
私「ルールは大切。破ったら子にも親にも当然指導してほしい。でも、そのことでBくんが学校に来れるようになったことはどうでもいいの?Bくんの前で突然息子を怒ると、罪悪感を感じたBくんはまた不登校になるかもしれない。それに、息子が自発的にやってきた行動は彼の中で全て"悪いこと"になってしまった。」
私「ルールも大切だけど、たったひとりの子どもの存在と、その子を支える友情の力を、同じくらい大切にしてほしい。」
支援学級の先生以外は、息子がBくんのことを迎えに行っていたことを誰も知らなかったらしい。
ある日突然学校に来れるようになったBくんの変化にもっと関心をもってほしかったこと、頭ごなしに否定せずになぜ違う通学路から来ているのか一言質問してほしかったこと、の2点をあわせて伝えて帰宅した。
翌日、校長から、学校側が息子の行動を把握(共有)していなかったこと、教員が理由を聞かずに注意したことを詫びるとともに、息子の行動が教員にはできない大切な支援だった、ということが、息子と私に伝えられた。
この日から、正式に通学路の変更が認められた。変更届は、必要なかった。
Bくんの不調と息子の初めての遅刻
それからさらに数ヶ月たった先日、出勤途中の私の携帯が突然鳴った。
相手はBくんのママだった。
「最近はずっと学校に行けてたのに、今日はBが嫌だ嫌だと泣いて、特に調子が悪かったんです。遅刻するから(息子)くんだけ先に行って!と何度も言ったけど、『大丈夫、ぼく待つよ』と、泣きじゃくるBの横で何も言わずに静かに待ってくれていたんです。するとBが少しずつ落ち着いてきて…。その時、突然(息子)くんが、『さ、行こっか』って。Bはあんなに嫌がってたのに、急にニコニコして用意を始めたんです。周りが急かしたりイライラすると絶対無理なので、(息子)くんの関わり方に本当に助けられた…それで時間がかかり、2人とも今から家を出るんです…」
これまで何度も何度も叱ってきた息子ののんびりマイペースが、初めて誇らしく思えた。
電話を切り、ふと時計を見た。8時25分だった。息子が通う小学校の登校時間は8時10分。
私の心を満たそうとしていた暖かいものがサーっと流れ出し、胸が突然ざわめき出した。
6年間で初めての遅刻。
息子の行動は正しかったのか…。先生は息子に何と言うのだろうか…。
その夜、帰宅した息子に聞いた。
「ありがとう」
30分近く遅刻し登校した息子に対し、担任の先生がかけたのは…意外にも「感謝」の言葉だった。
「(息子)くん、Bくんはどんな様子だった?今日はBくんに寄り添って、学校に連れてきてくれてありがとう。」
先生の話はさらに続く。
「でもね、遅刻することは良くないことだから、これが(息子)くんの中で毎回当たり前になってほしくない。これからは、何分までなら待つけど、何分になったら先に行くね、というルールを2人の間で話し合ってみたらどう?」
2つの命題への解
たったひとりの人間を大切にする。
ルールを守る。
両方を尊重し、新たな「ルール」を提案することで相反する二つの命題を成り立たせてくれた先生に感謝したい。
そして、私たち大人に対してそんな豊かな問いを与えてくれたBくんと息子にも。
ありがとう。
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お読みいただきありがとうございます。ほかにも優しさでほっこりする記事を書いていますので、読んでいただけたら嬉しいです♪
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