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【オオカミ少女】(1) 授業で「オオカミ少女」をどう扱うか

私も心理学の授業をやるようになってから長いです。

始めて授業を行ったのはまさに10年前,2014年に神奈川工科大学で「現代社会の心理学」と「心理学」という,心理学概論に当たる2科目を非常勤講師で担当させて頂きました(これは最初の教育歴として,本当にありがたいものでした)。

それから10年。10周年ですね。

現在でも,北里大学で「心理学A」と「心理学B」という心理学概論に当たる2科目を前期・後期で担当しています。その中で,ずっと気になっていましたものがあります。それは,「古典として紹介する研究の真偽」についてです。

近年,「教科書に載っているあの現象は,実は間違いでした」という報告が相次いでいます。ここらで,自分が授業中に紹介している事例の真偽をアップデートしておきましょう。10周年記念(?)ですね。

まずは「オオカミ少女・アマラとカマラ」です。

(ちなみに写真は「狼の乳を飲むロムルスとレムスの銅像」です。ローマを建国したとされる伝説上の兄弟ですね。)


どんな話なのか

授業では,以下のように解説していました。

「1920年頃,インドでオオカミの穴の中にいる2人の子供が発見され,キリスト教の牧師に保護された。発見時の推定年齢はそれぞれ1歳半と8歳で,小さいほうが「アマラ」,大きいほうが「カマラ」と名付けられた」

「アマラは発見の1年後に死亡してしまった。カマラは1929年まで生きた」

「教育後,カマラは1926年までに単語を30覚え,最終的には45語覚え,簡単な文を口にしたとされる」

「ただし,保護者の創作の疑いが強いので,これも逸話の1つとして,話程度で」

どんな文脈で紹介していたのか

私はこの逸話を「学習の臨界期」の文脈で紹介しました。

学習の臨界期とは,ローレンツ博士で有名なヒナの「刷り込み(インプリンティング)」や,生後約3か月,光が与えられないと回復不能の盲目になってしまう猫の例など,生後の限られた期間内に学習を済ませないと,それ以降に学習を行っても学習成果に制限がかかってしまう現象があって,生後からそうした制限がかかり始める前までの時期のことです。

言語の学習は,そうした臨界期に比べれば,学習開始が遅くなっても学習にかかる制限は緩やかなものです。例えば,大人になってから外国語・第二言語を学び始めても,まったく学習できないわけではありません。

しかし外国語や第二言語の学習は,母語・第一言語という基盤があってのものです。母語・第一言語の学習機会が奪われると何が起こるのか。当然ながら科学的な実験は許されませんので,有名な逸話を紹介します,ということで授業に導入しました。

(同時に,「アヴェロンの野生児」と「カスパー・ハウザー」にも触れています。これらについても,また最新知見でアップデートしたいですね。)

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続きます。

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