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暗黙のルール

つづいても、ジムの話。

私が通うジムは、大学のジムだ。なので、もちろん必然的に大学生が多い。90%以上が大学生だ。

大学生ではない私はここではマイノリティーである。冬休みが明けて、大学生が町に戻ってくると、ジムは途端に混み始める。特にウエイトマシンは人気があって、なかなか空いているものを見つけるのは難しい。アメリカ男子の筋肉愛はすごいので。

今までは待つのが面倒なので、空いているものを探してつかっていた。けれど、この前初めて、使用中のマシンの横に立って待ってみた。

マッチョな男子がレッグプレスをしていた。彼は袖と脇がカットされたTシャツを着ていた。もしかして、自分で切ってる?アメリカ筋肉男子がよく着る、あの腕と脇が丸見えのやつだ。

彼は顔をほんのり赤らめ、汗をかきながらレッグプレスをしていた。見ればかなりの重量だ。がっちりした脚がプルプルと震えながら、伸びたり縮んだりするのを目の前で眺めることとなった。時々きまり悪くて、目を逸らす。なんでだ?

そのとき、ふと、彼が横を向き、私に話しかけてきた。急な展開に驚いた私はなんなのかわからず、慌てて、"Excuse me?"と、聞き返す。

「いや、キミ、このマシン使いたいの?」男子が言う。
「えっと、いや、まあ、そうだけど…」私は答える。

「俺、まだあと1セット残ってるけど、俺が休んでる間に使いたい?」

「いやいや、大丈夫です。先に済ませちゃってください。ありがとう」

私は男子にそう言ってから、手でどうぞどうぞとジェスチャーする。

「了解。すぐ終わるから」

男子は爽やかに微笑み、再びレッグプレスをやり始めた。

私は、ああ、こうやってマシンの前で待っている次の人に声掛けするのが、大学生の間では暗黙の了解なんだな、と気がつく。そうやって、気を使ってもらえるのはうれしいものだ。知らなかった。いつからこんなルールができたんだ?

蜘蛛の巣みたいな、見えないルールの網目が目の前をさっと駆け抜けていく。

これまでジムに通っていて、初めて知った事実だった。なので、私自身はそんな声掛けをしたことはない。待っている人に「あと、何セットですか?」と聞かれることはあったのだけど。

暗黙のルール違反でしたね。とほほ、あしからず。



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