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改シナリオ⑥『空に記す~島根編~』

~放送記録~

2017年12月11日放送 
文化放送「青山二丁目劇場」
≪キャスト≫
矢島寛二 古川登志夫
北川 純 田中秀幸
寺井雅治    宮城志紀人 
松原夕美   伊藤かな恵
松原文江 小山裕香
ナレーター  山下恵理子

~登場人物~

矢島寛二   旅人(元医者) 50代後半    
北川 純   旅人(元弁護士)50代後半   
寺井雅治   神楽面職人   20代後半  
松原夕美   弁護士志望   20代後半
松原文江   農園経営    50代後半
ナレーター


○  島根県県浜田市 ある神社の境内 12月中旬 昼

     お祭りで賑わう中、石見神楽が上演されている。
  石見神楽囃子の笛、鈴、太鼓の音が鳴る。
  客席で寛二と純が、感心しながら見ている。
  娘役の夕美が踊る。
  客席の一番後ろで、雅治も見ている。

 純「ん~素晴らしい」

寛二「ああ」

純「あの娘役、良いね。凛としている」

寛二「確かに、他の演者と違うな」

 蛇胴の口から花火が噴き出す。

 純「ほー、大蛇の口から花火が」

 寛二「おーすごいなー」

  寛二と純、拍手をしながら声を上げる。

 寛二・純「おーーー」

  演目が終わり、雅治が夕美に声をかける。

 雅治「お疲れ様でした」

 夕美「あっ、お疲れ様でした。
   雅治くん、どこで見てたん?」

 雅治「客席の一番後ろ……残念だな、
   しばらくは見られないか」

 夕美「ごめんね。試験が終わるまでは」

 雅治「……試験って来年の5月だっけ?」

 夕美「うん。私も……神楽やりたいんだけど」

 雅治「夕美ちゃん、おれ」

 夕美「ごめん、帰らなきゃ」

 

〇 居酒屋 夕方

  寛二と純が呑みながら、少し興奮して話している。

 寛二・純「かんぱーい……ん~」

 寛二「温っまる」

 純「もう、熱燗が美味しい季節になったか」

 寛二「日が落ちると、急に冷えたな」

 純「うん」

 寛二「あぁ、のどぐろ美味い!」

 純「どれどれ、うん、脂が乗ってる」

 寛二「東京じゃ、こんなの食えないぞ」

 純「浜田で降りて、正解だったな」

 寛二「今日は、良いもの見れたし」

 純「ああ、石見神楽は初めて見た」

 寛二「俺も、あの大蛇はヤマタノオロチか?」

 純「でも内容が違ったなあ」

 寛二「退治はしたけど相打ちだった」

 純「あんな大きな大蛇をうまいこと動かすもんだ、
  とぐろ巻いてたし」

 寛二「あれに巻き付かれたら、たまったもんじゃない」

 純「あははは、蛇だからひんやりして
  気持ちいいかもしれないぞ」

 寛二「やめろよ、俺は爬虫類苦手だ、純は大丈夫なのか?」

 純「うん、ペットで飼いたいと思ったこともある」

 寛二「え~~」

 純「可愛いぞ」

 寛二「無理だ、ムリムリ! ペットなんてあり得ない、
   飼うならワンコだ。鱗より肉球だ」

 純「あははは」

 寛二「肉球を触ると癒される、ワンコも喜ぶし」

 純「犬も気持ちいいんだ?」

 寛二「ああ、軽く撫でるようにマッサージしてやると、
   目がとろんとしてくる」

 純「蛇も、撫でると喜ぶぞ」

 寛二「もう、蛇の話はよせよ」

 純「寛二はスサノオノミコトにはなれないな」

 寛二「スサノオノミコトは、
   ヤマタノオロチを撫でないだろう」

 純「あははは、いや違う、闘うってこと」

 寛二「ああ、敵前逃亡だ。同じ神話なら、桃太郎がいい、
   ワンコがお供してくれるし」

 純「あれは、神話と違うだろう?」

 寛二「じゃあ、宮本武蔵」

 純「また宮本武蔵か」

 寛二「わかった、ケルベロスで手を打とう」

 純「神話に戻ったが、犬になったか」

 寛二「ヤマタノオロチ対ケルベロス、面白そうだろう?」

 純「桃太郎や宮本武蔵よりマシか」

 寛二「よし、これを映画化するぞ」

 純「無理だろう」

 寛二「ヤマタノオロチ対ケルベロス 近日公開! 
   キャッチコピーは『全米が泣いた!』あははは」

 純「いきなりハリウッドで、感動もの? あははは」

 寛二「ヒットするって、日本神話と西洋の神話の対決は、
   今までにないぞ」

  いきなり、近くの席で呑んでいた雅治が入ってくる。

 雅治「その話、聞かせてください!」

 寛二「えっ」

 雅治「ヤマタノオロチ対ケルベロス、
   是非、作らせてください」

 寛二・純「え~~~」

 N「旅人の矢島寛二と北川純は、
  訳あって二人で日本全国を旅している。
  様々な場所で、様々な人に出会い、
  その数だけドラマがある。
  今回は島根県浜田市に足を踏み入れた寛二と純。
  どんなドラマが待ち受けているやら」

 
〇 県道の歩道

  寛二、純、雅治が酔っぱらって歩いている。

 寛二・純・雅治「あははは」

 寛二「まさかのハリウッド」

 純「驚きましたよ」

 雅治「お二人の横で呑んでいたら
   『ヤマタノオロチ対ケルベロス』聞こえてきて、
   これだって思ったんですよ」

 寛二「雅治さん、いいセンスだ」

 雅治「ありがとうございます。あっ、ここです」

 純「寺井神楽面工房」

 寛二「いいねぇ」

 雅治「どうぞ」

 
〇 雅治の自宅兼工房

  雅治、引き戸を開けて、寛二と純を案内する。

 雅治「すいません、直ぐ暖房入れますけえ」

 寛二「おじゃましまーす」

 純「失礼します」

 雅治「散らかっていて、すいません。
   適当に座ってください」

 純「ここが仕事場ですか」

 雅治「はい、自宅兼仕事場です」

 寛二「おぉ、神楽のお面がたくさんあるなぁ」

 純「これ、全て雅治さんが作ったんですか?」

 雅治「はい」

 純「いろんな種類があるんですね」

 寛二「天狗や般若、恵比寿さんも」

 純「能とは、また違うなぁ」

 寛二「これ、昼間に神社で見たやつだ」

 雅治「ええ、スサノオノミコトです」

 雅治「何呑みますか?」

 純「おかまいなく」

 寛二「熱燗がいいなぁ」

 純「おい、まだ呑むのか」

 寛二「また冷えたから、ちょっとだけ。悪いね、雅治さん」

 雅治「ちょうど、地元の三隅で作ってる
   日本酒がありますけえ」

 寛二「うまそうだな」

 純「地酒ですか、いいですね」

 寛二「へへ、お前も呑むんじゃないか」

 純「呑まないとは言ってない。地元のものなら尚更」

 寛二「ははは、また始まった、素直じゃないね」

 雅治「今日は、とことん呑みましょう!」

  寛二と純、雅治と意気投合し酒がすすむ。

 寛二・純・雅治「あはははは」

 雅治「すいません、あの時興奮しとったもんで」

 純「石見神楽の話だとは」

 雅治「ちょうど、次の創作神楽のネタを探しとったです。
   ケルベロスって発想はなかったなあ」

 純「創作もあるんですね」

 雅治「ええ、いわゆる古典のようなものもありますが、
   結局のところ少しずつ変えてますね」

 寛二「昼間、神社で見たあの神楽、面白かった」

 雅治「ありがとうございます。
   あれは、僕が高校生の時に作ったものです」

 純「そんな頃からやっていたんですか」

 雅治「ええ、神楽は子供神楽もあったり、
   学校でやったりして、馴染みがあるものなんです」

 純「子供の頃から地元の文化を知る、素晴らしい」

 寛二「東京では、あまりないなぁ」

 純「うん」

 雅治「今日の団体は、同級生で作ったものです。
    面を作りながら、創作を担当しています」

 寛二「今日のスサノオノミコトは、
   あれは相打ちだったよね」

 雅治「神話のスサノオノミコトは 野望が強い神ですが、
   僕はより人間に近いものにしたかったんです。
   愛する女の人の為なら自分の命をかける、
   そんな一途なスサノオノミコトに」

 寛二「なるほど」

 雅治「愛って奪いとるもんじゃなく、
   捧げるもんじゃと思うんです」

 寛二「うん、うん、わかる、その気持ちわかるな~」

 雅治「ですよね~」

 寛二「愛っていうのは、犠牲だ」

 雅治「あっ、さすが寛二さん、いいこと言うな~」

 寛二「愛は背中で語るもんだ」

 雅治「わ~~~その言葉も沁みるわ~」

 寛二「沁みるか」

 雅治「はい、寛二さん、師匠と呼ばせてください!」

 寛二「よせよ」(まんざらでもない)

 雅治「僕にとって寛二さんは、恋愛の師匠です!」

 寛二「そこまで言うなら、あははは」

 純「いやな予感がする」

 寛二「いいか、愛っていうものは!」

 

〇 松原家 自宅 翌朝 5時半位

  夕美、慌ただしく準備をしている。

 夕美「じゃあ、お母さん行ってくるね、
   このジャムを持って行けばいい?」

 文江「うん、夕美、悪いねえ」

 夕美「良いから、薬飲んで寝てて」

 文江「お前、昨日もお祭りで
   勉強出来んかったんじゃないんかね?」

 夕美「帰ってからやってたよ」

 文江「そうなん、皆さんによろしゅう言うといてね」

 夕美「うん」

 文江「夕美」

 夕美「なに?」

 文江「無理せんようにね」

 夕美「大丈夫だって」

  夕美、ドアを閉めて出ていき、自転車にまたがる。
 愛犬のテツに声をかける。

 夕美「テツ、おはよう」

 テツ「ワン」

 夕美「ごめんね、帰ってきたら散歩行こうね」

 テツ「ワンワン」

  夕美、自転車をこぐ。

 夕美「ふー、寒いなぁ」

 

〇 漁港 朝市 

  純、朝市散策している。

 純「ほほう、これが朝市か、賑わってるなぁ。
  魚だけじゃないんだ。野菜もある。
  何か買って帰るか。そうだ」

  純、寛二に電話する。

 〇 雅治の自宅兼工房

  雅治と寛二、寝ている。
 雅治は、着信音で起きる。

 雅治「ん~~。寛二さん、寛二さん」

  寛二、寝ぼけている。

 寛二「●△□×#%たくやくん、あけてくれよ~」

 雅治「電話が鳴ってますよ」

 寛二「ん、わかった」

  寛二、電話に出る。

 寛二「もしもし」

 純(電話)「もしもし、起きたか?」

 寛二「ん? 何聞こえない?」

 純(電話)「起きたか?」

 寛二「ん? もう一回」

 純(電話)「起きたか?」

 寛二「バカヤロウ~おれは沖田総司じゃねー
   みやもとむさしだ●△□×#%」

  寛二、電話を切る。

 純「は?」

 雅治「誰だったんですか?」

 寛二「ん、ささきこじろう。ずっと待ってろ、まったく」

  寛二、電話を切って寝てしまう。

〇 漁港

純「切りやがった。適当に買って帰るか」

 夕美「いらっしゃいませ、いかがですか」

 純「イチジクのジャムですか」

 夕美「はい、うちで獲れたものを使ってます」

 純「美味しそうですね、じゃあ、頂こうかな」

 夕美「ありがとうございます」

 純「この辺、パン屋さんはありますか?」

 夕美「ええ、駅の方へ行く途中に。
   よろしければ、ご案内します」

 純「いや、でもまだお仕事が」

 夕美「お客さんで完売になったので、店じまいです。
   それに私もパンを買って帰るので」

 純「ではお言葉に甘えて」

 

〇 雅治の自宅兼工房

  寛二、階段を降りてくる。

 寛二「おはよう、ふわ~」

 雅治「おはようございます」

 寛二「あぁ、良く寝た。悪いねぇ、泊めてもらって」

 雅治「いえいえ」

 寛二「あれ、純は?」

 雅治「朝市に行くってメモがありました」

 寛二「朝市?」

 雅治「あっ、あの電話、純さんだったんじゃないですか?」

 寛二「電話?」

 雅治「あれ、覚えてないんですか?」

 寛二「いつ?」

 雅治「6時半くらい」

 寛二「え? 俺電話してたの?」

 雅治「はい」

 寛二「覚えてない」

 雅治「佐々木小次郎って言ってましたけど」

 寛二「佐々木小次郎? なんだそれ。
   まぁ、いいや。じゃあ行くか?」

 雅治「えっ、どこへですか?」

 寛二「夕美ちゃんのところへ」

 雅治「えっ、なんで、
   夕美ちゃんのこと知っとるんですか?」

 寛二「昨日言ってただろう、好きな子がいるって」

 雅治「えっ、えっ、僕そんなこと言ったんですか」

 寛二「うん」

 雅治「覚えとらん」

 寛二「俺はしっかり、覚えている。
   長年の思いを告白するから、見届けてくださいって」

 雅治「え~~~~」

 寛二「だから、おい、行くぞ」

 雅治「いやいやいや、朝からそんな」

 寛二「あれ?昨日確か、俺のことを師匠って呼んでたな。
   師匠のいうことは聞くもんだぞ」

 

〇 県道

  夕美、自転車を押しながら純と歩いている。

 夕美「え~~、そうなんですか。凄い偶然ですね」

 純「はい」

 夕美「わー恥ずかしい、昨日の神楽を見られたのか」

 純「いいものを見せて頂きました。
  まさかあの娘役が夕美さんだったとは」

 夕美「お面をつけていましたから、分かりませんよね」

 純「本当に良かったですよ、
  雅治さんが書いた本は素晴らしい」

 夕美「はい、私もあの話好きです。
   高校生の時、初めてあの役をやったんですけど、
   お面の下で、涙が止まらなくて。
   刺し違えてでも、守ってくれるなんて、
   究極の愛ですよ。雅治くんは、すごく純粋なんです」

 純「わかる気がします」

 夕美「お面も評判いいんですよ」

 純「工房でも見せて頂きました」

 夕美「良いでしょう」

 純「ええ、躍動感もあるし、
  なんか落ちつきも感じられるんですよ。
  真っ直ぐなにかを見据えているというか。
  きっと雅治さんは、
  何事にもぶれない性格なんでしょうね」

 夕美「はい、私もそう思います」

 
〇 雅治の自宅兼工房の近所

   寛二と雅治が歩いている。

 雅治「やっぱり、帰りましょうよ」

 寛二「そんなぶれた気持ちでどうする!」

 雅治「いや、だって」

 寛二「昨日は、バシっと決めてやるって、
   言ってただろう?」

 雅治「酔ってたからあんまり覚えてなくて、なんとなく、
   そんなことを言ったような気がしますけど」

 寛二「いいか、恋愛はタイミングが大事だ。よし、いくぞ」

 雅治「ちょっと、待ってください」

 

〇 パン屋の前

 純「ありがとうございました、このパン美味しそうですね」

 夕美「はい、モチモチしてますよ。
   一緒に帰りましょうか、
   私ん家、雅治くんの近所なんです」

 純「ずっと一緒に神楽をやっているんですか?」

 夕美「いえ、私、大学が大阪で卒業しても、
   向こうの法律事務所で働いていました。
   私、弁護士を目指しているんです」

 純「弁護士ですか」

 夕美「はい、でも母が体を悪くしたので
   3年前に帰ってきたんです。
   勉強はこっちでも出来ますから」

 純「なるほど、しかしなぜ弁護士を目指そうと」

 夕美「勝ちたいんです、法律を武器にしたいんです」

 純「武器ですか」

 夕美「ええ、私の父は信頼している人に騙されて、
   全てを失いました。裁判にもなったんですけど、
   騙した人が法律に詳しかったんです。
   結局、借金を抱えて、
   そのまま家を出て行ってそれっきり。
   母は、生活費や私を育てるために苦労しました。
   さらに大学までいかせてもらいました」

 純「いいお母さんですね」

 夕美「はい。だから、弁護士になって
   母を楽にさせてあげたいし、
   法律を知らない人の為に戦いたいんです。
   来年こそは、司法試験に受からないと」

 純「頑張って下さい」

 夕美「ありがとうございます」

 純「夕美さん、ひとつ聞いていいですか?」

 夕美「はい」

 純「夕美さんは、どんな弁護士になりたいんですか?」

 夕美「えっ、だからお母さんのためにも」

 純「はい、聞きました。
  それと法律を知らない人のために戦うことも、
  そして『法律を武器にする』ってことも」

 夕美「ええ」

 純「私が聞きたいのは、夕美さん、あなた自身が
  どんな弁護士になりたいかということです」

 夕美「純さん」

 純「厳しいようですが、
  今のあなたが国家試験に受かっても、
  いい弁護士になれると思いません。
  確かに法律を知っておいた方が良いです。
  武器になるかも知れない。
  でも、その武器が役に立たなかったら、
  夕美さん、どうするんですか?」

 夕美「それは、もっと勉強して」

 純「確かにそうでしょう。でも、ずっとそうやって、
  新しい強力な武器を探し続けるんですか? 
  その前に自分じゃないでしょうか? 
  一番大事なのは、『自分が何をしたいのか』
  ということです。」

 夕美「自分が何をしたいか」

 純「昨日のスサノオノミコトと同じです」

 
〇 松原家の前の道

 寛二「雅治さんの気持ちはわかった。
   でもせっかく来たんだから、挨拶ぐらいしたら」

 雅治「実は黙っとったことがあるんです」

 寛二「なに?」

 雅治「ここに来るのが嫌だったのは、苦手なものが」

 テツ「ウーーー、ワン、ワン」

 寛二「ワンコ?」

 雅治「ケルベロス、番犬です」

 寛二「ワンコが怖いの?」

 雅治「はい」

 寛二「なんだ、そんなことか。俺に任せて、
   肉球をマッサージしてやれば、イチコロよ。
   名前は?」

 雅治「テツです」

 寛二「番犬って感じの名前だな、よし、テツ」

 テツ「ワンワンワンワン」

 寛二「おぉ、元気いいね」

 雅治「寛二さん、危ないですよ」

 寛二「大丈夫ほら、リードにも繋がれて……いない!」

 テツ「ワンワンワン!」

 雅治「寛二さん、逃げて! 
   テツに噛まれた人は何人もおるけー」

 寛二「ひえ~~~それ、早く言ってよ」

  寛二、テツに追いかけられる。

 寛二「テツ、待て、落ち着け」

 テツ「ワンワンワン」

 寛二「話せばわかる、俺は愛犬家だ」

 テツ「ワンワンワン」

  夕美と純が帰ってくる。

 純「雅治さんと家近いんですね」

 夕美「はい」

  テツの鳴き声が聞こえてくる。

 夕美「あれ、テツ? 誰かと遊んでる?」

 純「寛二?」

 夕美「え?」

  寛二、走ってくる。

 寛二「おぉ、純」

 純「寛二、こんなところで何をやってるんだ」

 寛二「お前も逃げろ」

 純「なんで俺が」

 テツ「ワンワンワン」

 夕美「こら、テツ」

 テツ「ワンワンワン」

 純「わーー」

 夕美「テツは人見知りするんです」

 寛二・純「わ~~~~」

  寛二と純、逃げていく。

 純「はっはっ、なんで、俺たちは、
  よく走ることになるんだ」

 寛二「はっ、はっ、知らん、俺に聞くな、
   どうせ走るならバイクで走りたいよ」

 純「同感だ」

 テツ「ワンワンワン」

 夕美「行っちゃった」

 雅治「行っちゃったね」

 夕美「テツ、興奮してるから、しばらくあのままだ」

 雅治「えっ、そうなん?」

 夕美「うん、雅治くん、なんか用があったの?」

 雅治「えっ、うん。
   寛二さんと散歩していて……夕美ちゃん」

 夕美「ん?」

 雅治「散歩行かない?」

 夕美「え?」

 雅治「いや、テツを探しに行こうや」

 夕美「う、うん」

  文江、家から出てくる。

 文江「あら、雅治くん」

 雅治「おばさん、お久しぶりです」

 夕美「お母さん、起きて大丈夫?」

 文江「うん、だいぶ良うなったわ。
   それにテツが吠えとるけえ、何事かあ思って」

 夕美「雅治くん、ちょっと待って、荷物おいてくる」

 雅治「うん」

  夕美、自転車を止めて、家に入っていく。

 文江「ふふふ、なんか、あの子楽しそう」

 雅治「テツを探してきます」

 文江「あれ、そう言えば、
   雅治くんはテツに吠えられんかった?」

 雅治「あっ、本当だ」

 文江「もう認められたいうこと」

 雅治「そうなんですかね」

 文江「テツは夕美を守る番犬なんよ。
   うちの人がおらんようになって、
   吠えるようになったんよ、優しい子なんよ本当は。
   これからは、あなたが番犬になってくれんかねえ?」

 雅治「え?」

 文江「あの子、神楽が好きなのよ。
   高校生のときにやったあのお面、
   部屋に飾ってあるんよ」

 雅治「あのお面、なくなったって」

 文江「欲しかったみたい、どうしても」

  夕美、戻ってくる。

 夕美「お待たせ、お母さんお腹すいたら、
   パン食べてテーブルの上においといたから」

 文江「わかった、ごゆっくりね。
   邪魔もんは消えるわ、ほほほ」

 夕美「もう、何言うんよ、行こう」

 雅治「うん」

 〇 県道

  寛二と純、テツが走っている。

 テツ「ワンワンワン」

 寛二「おい、まだ追いかけてくるぞ」

 純「走るのは遅いけど、しつこいな」

 寛二「わかった、純」

 純「なんだ」

 寛二「お前手に持っているのは、なんだ」

 純「パンとジャムだ」

 寛二「それだ、それを狙ってるんだ。それをやれ」

 純「わかった、よし、美味しいパンだぞ、それ」

 テツ「ウ~~ワンワンワン」

 純「ダメじゃないか」

 寛二「逃げろ!」

 純「またか~~」

 

〇  海岸

 雅治「勉強、大丈夫なん?」

 夕美「うん、ちょっと散歩したかったし」

 雅治「そうか」

 夕美「さっきの人が寛二さん?」

 雅治「うん」

 夕美「面白そうな人ね」

 雅治「うん、昨日会ったばかりだけど、
   なんか親しみやすくて、スッと入ってくる人なんだ。 
   次の創作神楽のアイディアを聞いて」

 夕美「あははは、純さんから聞いた。
   ヤマタノオロチ対ケルベロスでしょう?」

 雅治「うん、テツに出てもらおうかな」

 夕美「あははは」

 雅治「またここでやりたいなぁ」

 夕美「ここ?」

 雅治「うん、高校生の時に初めてあの創作をやったん、
   ここだった」

 夕美「あっ、そうだった」

 雅治「夕焼けに合わせて、幻想的で綺麗だった」

 夕美「うん」

 雅治「夕美ちゃん、ありがとう」

 夕美「え?」

 雅治「お面、持っててくれて」

 夕美「え? あっ、ヤダお母さん」

 雅治「うん、聞いちゃった」

 夕美「あれは、あとから見つかって、それで……」

 雅治「実は、夕美ちゃんにもろうて欲しかったんよ、
   俺が初めて作った面だったけえ」

 夕美「雅治くん」

 雅治「俺のスサノオノミコトは、
   相手を倒したいんじゃない、
   愛する人を守りたいんだ。
   俺は夕美ちゃんを守りたい」

 夕美「え?」

 雅治「ずっと、好きだったんだ。俺、ここで待っとるよ。
   来年試験終わったら、また一緒にやろう、
   その次の年も、その次も、ずっと」

 夕美「ありがとう」(涙ぐむ)

  テツの鳴き

夕美「あれ、テツ?」

雅治「寛二さんと純さんも」

  寛二と純、テツが遠くから走ってくる。

純「夕美さん~」

寛二「雅治さん~」

夕美「ヤダ、まだ追いかけている」

雅治「あははは」

寛二「はっ、はっ、もう勘弁してくれよ」

テツ「ワンワンワン」

純「はっ、はっ、砂浜って、
  なんでこんなに走りにくいんだ」

寛二「知らん、俺に聞くな。
   次は、鳥取砂丘へ行きたかったけど、もういいや」

純「ああ、違うところへ行こう」

テツ「ワンワンワン」

寛二「テツもついてくるのか」

純「それは大変だ」

  BGM『ハイウェイ』くるり

 N「寛二と純の旅はまだまだ続きそうである。
  うむ、しかしながらこの二人は
  なぜ旅をしているのか気になるところ。
  まぁ、長い旅になりそうなので、その話はまた来年に。
  さてこれから先はどんなドラマが
  二人を待ち受けているやら。
  もしかしたら、次はあなたの町へ。
  もし二人を見かけたら、どうぞお付き合いを。
  なにか楽しい事があるかもしれませんよ」

 

寛二N「わが旅は」

純N「ひとつの空の下」

寛二N「今日は東から西へ」

純N「明日は北から南へ」

寛二N「行き行きて、道がある限り」

純N「行き行きて、人がいる限り」

寛二・純N「空に記す、わが息吹」

                                (了)

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