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なぜ、P&G式マーケティングではダイレクトマーケティングで成果を出すことができないのか?
こんにちは。
株式会社Icraの鴻上です。
普段は、ダイレクトマーケティングを活用してスタートアップビジネスの成長を支援する会社を経営しています。
これまでの実績としては
・D2Cプロダクトのマーケティング支援を担当し、月間15,000件の新規申込み獲得
・新規事業立ち上げから1年でユニットエコノミクスを合わせて年商5億円規模まで拡大
・制作したYouTube動画広告1本で20,000件の新規申込み獲得(EC初回購入)
と、これまでずーっと「0→100億円規模を目指すスタートアップ企業のマーケティング」を担当してきました。
今では「美容」「健康」「グルメ」「医療」「不動産」「金融」など幅広いカテゴリのダイレクトマーケティングで成果を出せるようになりましたが
正直、ここまでの道のりはかなり大変でした。
というのも、どこを見渡しても
「ダイレクトマーケティングで人がものを買う」
ということについての体系的かつ実践的な理論が存在してなかったからです。
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アカデミックな理論や、具体的なセールスライティングのテクニックなどについてはさまざまな書籍がありますが、
「ダイレクトマーケティングで成果を出すための再現性の高い戦略の考え方」という抽象度で見たときに、参考になるものが見つからない。
「マーケティングといえば、P&Gでしょう!」
ということでP&G式マーケティングフレームワークを活用してみるものの、なかなかうまくいかない。
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だからこそ結局は「自分で作るしかない」ということで今では独自の戦略フレームワークを用いているわけですが、
今回はそんな試行錯誤の中で考えた「P&G式マーケティングでは、ダイレクトマーケティングで成果を出すことが難しい理由」について書いていきたいと思います。
(自分の経験からの持論化であり、ツッコミどころもあると思います。ご容赦ください。)
・年商100億未満のスタートアップ企業
・ダイレクト広告を活用した集客に課題がある
・ダイレクトマーケティングの成果が属人的になっている
という組織の方には何かしらの学びがある内容になっているのではないかと思います。
8,000文字近くとボリューミーな内容になってしまいましたが、ぜひ最後まで読んでみてください。
前提、P&Gのブランドとスタートアップの事業が置かれている状況が違う
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マーケティングについて学び始めた最初はP&Gマーケティングに関する本はとことん読み漁りました。
元P&Gの方が書かれているマーケティング本はほぼすべて読んだと思います。
・消費者の脳内がすべて
・消費者は便益を求めている
・マーケティングの中心はWHY-WHO-WHAT-HOW
など超重要かつ基本となる概念がたくさんありますし、
初めてマーケティングに触れる方は絶対に知っておくべきことばかりで、
役に立つ学びは本当にたくさん得られました。
ただ、学んだことをそのまま使おうと思ってもうまくいかないことが多かったのも事実です。
なぜかというと、自分がこれまで担当してきた事業のマーケティングと、P&Gのブランドマーケティングでは、前提として置かれている状況が全く異なっていたからです。
「前提が異なれば、答えも変わる。」
というのは当然の話ですが、当時はそれに気づけていませんでした。
ここでは大きな前提の違いを3つ挙げてみます。
1. 商品カテゴリの違い: 何度も購入する消費財か、そうでないか
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P&Gの取り扱う商品は、
・ヘアケア
・スキンケア
・洗剤
・紙おむつ
など消費者が日常的に購買している「消費財」カテゴリの商品が多いです。
これらは
・すでに購入経験がある
・一生で何度も購入する
・単価が安い
などの特徴を持つカテゴリです。
特に重要なのは「そのカテゴリの商品に対する欲求が、すでに消費者の中に存在している」というという点。
自分ごとで考えた時に、洗剤が切れそうになったら「あ、洗剤買わなきゃ」と欲求が生まれるのはよくわかると思います。
以前noteで「需要は根本欲求とパラメータで分けられる」と書きましたが、
この概念で考えると「P&Gのマーケティングは、根本欲求がある前提で、重要なパラメータにおいてナンバーワンのポジションを取れるかどうか」ということができそうです。
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逆に私がこれまで担当してきた事業については、
全く新しいカテゴリであったり、そもそも生活者の頭の中に欲求が顕在化していないものが多かったです。
この違いは大きく、結果的に「いきなり商品を紹介しても興味を持ってもらえない」ということになってしまい、失敗したことが多々ありました。
例えとして想像するなら「洗剤」と「遺伝子検査キット」の違いと考えるとわかりやすいでしょうか。
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前提2. チャネルの違い: 店頭での購入を前提としているか、WEBメインか
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「違い1」とつながる話ですが、
P&Gの商品はスーパーマーケットやドラッグストアなどの実店舗で購入されるものが多いです。
(実際24年度の決算では売上のEC比率は18%ということでした。)
店舗に来ている人は、基本的にその時点でなんらかの商品カテゴリを購入しようというつもりで来店しています。
そこで、購入候補となる商品群(Evoked set)から選ばれる確率を上げるというのがマーケティングの主戦場となるわけです。
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では私が担当してきた事業がどうかというと、
購入(申込)チャネルとしてはWEB上であることがほとんどでした。
そして、WEB上のECサイトだと店頭と比べ物にならないほど商品数は多く、
後から候補の中で選ばれる確率は店頭の場合と比べてかなり低くなってしまいます。
そんな中でも強く記憶に残るブランドを作り上げるということも大切ですが、「後で購入してもらう」よりもダイレクトマーケティングによって「その場で購入(申込)してもらう」ことの重要度が高くなるというのは間違いありません。(ECビジネスに限らないことだと思います)
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そして店頭での購入を促すマーケティングと、その場での購入を促すダイレクトマーケティングでは、購入態度に大きな違いがあります。
それは「目的買い」と「衝動買い」の違いと言えそうです。
(※リスティング・SEO・ECモールなどはこのメタファーには当てはまりません。)
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前提3. 予算の違い: 大規模な予算をかけられるか、かけられないか
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そもそもの話ですが、予算規模が全然違います。
P&Gのような大企業では売上予測に対して事前に広告費予算が決まることが多いですし、
だからこそ大規模な消費者リサーチと、TV CMなどの大規模なマーケティングコミュニケーションを展開することが可能です。
強いメッセージを作り何度も伝えて意識に刷り込んでいくことで、店頭に来る前に強い記憶(ブランドエクイティ)を形成しておき、勝率を最大化するというゲームです。
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それに対して、
私がこれまで担当してきた事業では、そこまで予算が潤沢でないことも多々ありました(というかそれがほとんどでした)。
戦略というのは、リソースの配分であり、リソース(お金)が少なければ当然戦い方は変わってきます。
後から買ってくれる場所もなく、TV CMを打つような予算もない。
だからこそまずは小予算でクイックに仮説を検証してみる。
そして「このCPA、LTVであれば確実に利益が見込める」という算段がついてから予算を拡大していくことが重要になります。
例えはよくないですが、そこには「大人数での地引網漁」と「個人での一本釣り」のような違いがあります。
(特に初期のスタートアップにおいては)
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ここまでの話をまとめると、以下の通りです。
【前提として考えるべき、P&Gとスタートアップの置かれている違い】
・前提1. 商品カテゴリの違い:
P&Gの商品と異なり、スタートアップの事業ではそもそも需要(根本欲求+パラメータ)が生活者に存在していないことが多い。
→ 「洗剤」と「遺伝子検査キット」の違い
・前提2. チャネルの違い:
P&Gの商品と異なり、スタートアップの事業ではWEBで直接購入(申込)してもらうことの重要度が高い。
→ 「目的買い」と「衝動買い」の違い
・前提3. 予算の違い:
P&Gの商品と異なり、まず小予算で検証してCPAを合わせてから予算を拡大していくことが重要。
→ 「地引網漁」と「一本釣り」の違い
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これらの前提を踏まえた上で、スタートアップ事業がダイレクトマーケティングを行う上で考えなければいけないポイントは何なのか?
普段考えていることを4つ書いてみます。
スタートアップがダイレクトマーケティングで特に重要視すべきポイント
ポイント1: 欲求・需要を形成するコミュニケーション
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違い1でも触れた通り、「全く新しいカテゴリ」の事業を展開していく場合は、生活者の頭の中に需要がまだ存在していないことがほとんどです。
その場合、コミュニケーションによって需要を頭の中につくりあげることが必要です。
多くのスタートアップの広告表現などを見ている中で見落とされがちなのがここです。
ほとんどの生活者は自分たちの商品を欲しいと思っていない。
だからこそ、商品を紹介する前に「欲しい状態」をつくるのが大切だ。
ということです。
ちなみに初期のファブリーズはP&Gの中でも特殊で「全く新しいカテゴリ」の商品でした。
実際、そのままメリットである「布のニオイが取れる」という点を中心にしたコミュニケーションでは売上につながらず、
「部屋のニオイは布のニオイが原因である」というコミュニケーションで「需要を新しく作る」ことによって売上が伸びていったようです。
「あなたの事業は、どんな需要を頭の中につくれば買ってくれますか?」
「その需要はどんなコミュニケーションによってつくることができますか?」
これらに対して答えを明確に持った上で、表現物を作っていくことが必要です。
ポイント2: 強いベネフィットの設計
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・新しいカテゴリの商品
・その場でWEB上で購入してもらう
ということを考えた時に重要になるのが、
「強いベネフィット」です。
よく言われますが、ダイレクトマーケティングの広告は
「ナンパ」「テレアポ」「訪問販売」
のような存在で基本的には興味がないし、さらにいうと嫌われています。
そんな中でも「自分にとって大きな価値がありそう」と感じてもらえれば見てもらえるし、むしろ感謝されるものになります。
この「自分にとっての大きな価値」こそがベネフィットです。
もう少し具体的にいうと、「自分の未来にどんないいことがあり、どんなプラスの感情が得られそうかを、リアルな映像で想像できるかどうか」が重要だと考えています。
例えば最近新しく登場してきた「AIボイスレコーダー」。
僕自身、SNS広告で初めて認知したカテゴリでありプロダクトだったのですが、
↓のような動画を見ると
・服にカチッとつけるだけ
・ボタン押すだけで録音→文字起こししてもらえるから会話に集中できる
・会話内容をいろんなテンプレートで要約してくれる
という未来の価値を具体的に想像できました。
言うまでもなく、ベネフィットはダイレクトマーケティングに限らずあらゆるマーケティングで重要なことです。
ポイント3: 強い商品コンセプトの設計
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生活者が初めて触れる商品のマーケティングをする時に、
それについていろんな情報をたくさん伝えていっても、どんなものか理解されないことが多いです。
基本的に人間の脳は一度に多くの情報を処理できるようにはできていません。
たくさんのことを伝えるよりも、シンプルなことばで「これは〇〇なんだ」と内界に商品コンセプトを形作ることが必要になります。
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例えば↓こちらを見てください。
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「跳べるパンプス」という商品名から、
・パンプスがパカパカして歩きにくい
と感じた記憶や、
・足にフィットして歩きやすく疲れにくい
という未来の映像が想像できますよね。
とても秀逸な商品コンセプト設計だなと感心します。
短い商品コンセプトから
・どんな需要にぴったりの商品なのか 「需要」
・どんな未来の価値を得られそうなのか 「ベネフィット」
・他の商品と異なる独自性があるか 「独自性」
これらを想像できるか。
特にダイレクトのように「その場での購入」を目的とするマーケティングにおいては、コミュニケーションを考える前にこの強い商品コンセプトを設計しておくことが大切です。
ポイント4: その場で購入する取引ハードルを超えるオファー
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「欲しい」と思ってもらうことと、その場で買ってもらうことの間には、高い高い壁があります。
ダイレクトマーケティングではその場で「取引ハードル」を超えてくれるオファーを設計できているかどうかが成果に大きくつながります。
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ここでいう「取引ハードル」は金額だけではなく、手間やリスクなど複合的に決まるものです。
具体的に考えるなら、
「今まだ使っている化粧水が家にあるけど、今ここでこの化粧水を買うしかない!」と思ってもらえるかどうか、という感じです。
・お得に感じる
・今買うべき理由がある
・リスクが少ない
オファーを設計して、取引ハードルを超えて購入(申込)に足を踏み入れてもらえるようにしましょう。
ここまでの話をまとめると、以下の通りです。
【スタートアップがダイレクトマーケで成果を出すために考えるべきポイント】
・ポイント1: 欲求・需要を形成するコミュニケーション
→ 商品を紹介する前に「欲しい」状態を作れているか?
・ポイント2: 強いベネフィットの設計
→ 商品を通して得られる未来の体験とそこで得られる感情を映像として想像させられるか?
・ポイント3: 強い商品コンセプトの設計
→ 商品を表す一言に「需要」「ベネフィット」「独自性」が含まれているか?
・ポイント4: その場で購入する取引ハードルを超えるオファー
→ 「お得」「今買うべき」「リスクの少ない」オファーを作れているか?
ダイレクトマーケティングで成果を出す実践的なノウハウは?
ここまでのポイントについて、
要素としては当然知ってるという人も多いと思います。
結局大事なのは、「実践で役に立って成果につながるか」ですよね。
実際、私がマーケティングのコンサルに入っている会社からも
「大切なポイントはわかっている」
「けどそれらを体系的にまとめ上げられてない」
「属人性が高く、形式知にできていないため教えられていない」
と相談をいただきました。
そこで、
・マーケティング活動を体系的に整理しつつ
・ダイレクトマーケですぐに活かせるフレームワークとノウハウに落とし込む
ということを狙って作ったのが、私が運営しているマーケティング教育カリキュラム
「マーケティングOSブートキャンプ」です。
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これ、最初はコンサル先の教育のために作り上げたカリキュラムなんですがこれまでの7年間の学びを再構築するのに100時間くらいかかってしまいまして…
これまで繋がりのある何社かに実施したところ、ありがたいことに感謝の声をたくさんいただき、さらに
・参加後1ヶ月で、daily新規獲得数が10倍に
・1年間で、WEB広告のみで月間集客数が7.9倍に
・参加メンバーがCMOとして事業の中心に成長
と多くの会社で実績に繋がっていることもあり
本腰入れて展開していくことにしました。
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プログラムの概要としては
・2時間×5日間の講義
・各講義の間で課題実施
というもので、マーケティング勉強会としてのポイントは以下の3つです。
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ポイント1: 重要な概念を体系的に、解像度高く理解できる
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「人はなぜモノを買うのか?」という大きな問いを解きほぐして、
マーケティングの本質とマーケティング活動の全体像という大局的な視点から、体系的に重要な概念を理解してもらいます。
「欲求」「需要」「コンセプト」「ベネフィット」
などの、当たり前のように使われているけどいざ「説明しろ」と言われると人によって異なる概念を、実際の自分の購買行動と紐付けたり具体←→抽象を行ったり来たりしながら解像度高く理解することができます。
ポイント2: 戦略フレームワークをインストールできる
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「学んで終わり」ではなく、すぐに実践に使えるように戦略フレームワークに落とし込み、その使い方からインストールしてもらいます。
実際の私自身のマーケティング事例を上げながら、フレームワークをもとに「どのように考えて作られたのか」を解説します。
ポイント3: 課題を通してカリキュラム中に「売れる戦略」を作る
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戦略策定のために「何をどういう手順でリサーチして戦略にするのか」というリサーチプロセスも体系化していて、これも具体的に自分が担当したプロジェクトを参考にしながらお話しします。
さらに実践課題として、学んだフレームワークを元に自社案件の戦略を考えてもらい、それに対して私からフィードバックをしてブラッシュアップすることで、受講期間中に「売れる戦略」を作り上げてもらいます。
参考として、これまでに参加いただいた方の声をいくつかご紹介します。
2024年No.1の体験でした!
戦略を描く中で、新規事業のセンターピンと気をつける点にも気づけて非常に良かったです。
今まで顧客解像度70%止まりだったのが、今回のブートキャンプで100%まで上げられる方法が見えた感じです。
当然、事業のHIT率にも影響してくると思うので今後が楽しみです。
戦略を立てて、コミュニケーションまで一貫した施策をどう作るのか、本当に解像度が上がって本当に有益な時間でした!!
もっと早く受けたかったです。笑
全マーケター必須の講義だと思います。
もっと早く受けておけばよかった!と思いました笑
今までは車の仕組みを知らないまま車に乗っていたようなものだなと思いました。
仕組みを知ったことで、今後はもっと楽しく、もっと確度高く、マーケティングに取り組めると感じました!
マーケの全体像を丁寧に教えていただけて最高でした!
今まで読書で学んだり自分なりにフレームワークを作って案件の立ち上げをしていましたが、実用できると言えるレベルではなかったので、今回の内容とフレームワークは使いやすさと質の両方がピカイチで衝撃を受けました!
参加してみると本当に脳のOSが入れ替わった感覚がありました。
自分がなぜ商品を買うのか、世の中の商品がなぜ買われるのか、日常からもっと思考し、深みを増していきたいです!
あなたも、10時間でダイレクトマーケに必要な思考法(OS)をインストールしませんか?
後半は勉強会のPRをさせていただきましたが、
結局「学び」において重要なのって、
「その学びによって行動が変化して、成果が変わるかどうか」
だと思います。
本や今回のようなnoteからのインプットで変化を起こせればいいですが、やはり実践学習を通して起こる変化が一番大きいなと最近感じています。
もし実践的な学びを得て成果にインパクトを出したいという方は、マーケティングOSブートキャンプにご参加ください!
これまでの私自身の経験とそこから得た学びをそっくりそのままお渡しするので、それによって思考法(OS)を書き換えてもらえると嬉しいです。
参加していただいた方には特典として、
・カリキュラムの資料すべて
・リサーチ・戦略フレームワーク
・顧客インタビューシート
・マーケティング戦略戦術チェックリスト
をすべてプレゼントします。
あなたからの申し込みを心からお待ちしています!
【マーケティングOSブートキャンプ】
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※各回上限人数15名までとなっております。定員を超えた場合はご参加いただけないこともございますのでご了承ください。
「マーケティングOSブートキャンプ」に関する詳細は、以下をご確認ください。
最後までお読みいただきありがとうございました!
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