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需要を捉えたプロダクト&需要を生んだコミュニケーション6選

こんにちは、鴻上です。
普段は株式会社Icraという会社で主にスタートアップ企業の成長に向けてマーケティングのサポートをしています。

先日のnoteで、需要とは「根本欲求+パラメータ」で成り立っているのではないか、という仮説について書きました。

需要=根本欲求+パラメータ

前回のnoteでは「一人の生活者として、自身の需要を起点にした考察」がメインでしたが、今回のnoteではそれを土台にして「マーケターとしてどのように需要と向き合うか」について書いてみます。

需要に対するアプローチとして、
・プロダクト:どんな需要に対してプロダクトを開発するか
・コミュニケーション:どのように脳内に需要を顕在化できるか

の2つの軸があります。

具体例がある方がわかりやすいと思うので、「需要を捉えたプロダクト」「需要を生んだコミュニケーション」についてそれぞれ「これは素晴らしいな」と感じた事例を3つずつピックアップして考察しつつ、そこから得た学びをどのように活かせるか考えてみたいと思います。

引用:たった一人の分析から事業は成長する 実践 顧客起点マーケティング(MarkeZine BOOKS)

需要を捉えたプロダクト


新商品を開発するときに成否を分ける重要な要素が、「いい需要を捉えられるかどうか」です。

ここでいう「いい需要」の定義は、
1、人数が多い
2、払う金額が高い
3、競合が少ない

という3つの要素を満たす需要だとします。
「1、人数」と「2、金額(単価×頻度)」は売上に直結し、「3、競合の少なさ」は利益率に直結するため、3つを満たす需要を狙えれば高い利益を上げられるのではないかと考えるためです。

例えとして不適切かもしれませんが、釣りで例えるなら「魚が多くいる」し「他の釣り師が少ない」場所で釣りをする方が釣果が高くなりそうですよね。

「ここ他に誰もいないじゃん!ラッキー!」と思ったら、魚がいないことも多いです

「需要=根本欲求+パラメータ」だと考えたときに、「どんな根本欲求 ・どんなパラメータを狙えば、3要素を満たしていて成果を最大化できるか? 」という問いを持って戦略を考えることが重要です。

ではここで、「いい需要」を捉えて成功したプロダクトの事例を見てみましょう。

1、クライナーファイグリング

別名「パリピドリンク」

お酒などの飲料のマーケティングを考えるとき、「お酒を飲みたい」という根本欲求に対して未充足のパラメータを探していくのが一般的ではないかと思います。

それに対してこのクライナーは全く違った根本欲求を狙っています。
それは「パーティー(飲み会)を楽しみたい」という欲求です。

他の需要もあると思いますが、一例です。

人がお酒を飲むシーンを考えたときに、「罰ゲームとしてテキーラをショットで飲む」という瞬間があります。

もしかしたら、この瞬間をメタ認知したマーケターが「あれ?この根本欲求に対してベストな選択ってあるんじゃないの?」と発想して商品アイデアに繋がったのかな?なんて想像してしまいます。

クライナーの業績を調べてみると、2023年度で売上22.9億円、営業利益11億円(営業利益率48%!)。

「お酒を飲みたい」という根本欲求と比べると人数は少なくなってしまいますが、「パーティーを楽しむためのドリンク」としての競合は少なく(実際思いつかない)、結果的に利益率を高く取ることができています。お見事。

2、ACUO

別名「息スッキリガム」

このACUO、勉強会などの人前で話す機会があるとき毎回買っちゃってる自分がいます。

その時の根本欲求としては、「今すぐ息をスッキリさせたい」
別にガム食べたいから買ってるわけではなく、「喋るときに息クサイって思われたくないなー…対策しとかないとなー…」という感じで買ってます。

口臭対策としての根本欲求を狙った商品なので、置かれる棚もお菓子コーナーではなく、「エチケット用品コーナー」なんですよね。

ちなみに調べてみたら「クロレッツ」の方が「息スッキリ」を謳ったコミュニケーションを展開した時期は早かったみたいです。
ただ、私個人の中では「ACUO」の方が需要に対しての第一想起でした。

クロレッツは同じブランドからさまざまな商品展開をしているのに比べて、ACUOはすべての商品が「息をデザインする」というコンセプトで一貫しているのが大きな違いなのかなと思います。

最近ガムの売上が年々減っていると見たことがありますが、新しい根本欲求を狙った商品の開発が必要になっているのかもしれませんね。例えば「集中したい」根本欲求を狙うとか。あったら欲しいかも。

3、檸檬堂

檸檬堂がいかにして生まれたのかは、元コカコーラ社CMO和佐さんが以下の動画で語っているので、これを見るのが一番わかりやすいです。

当時EXILEが居酒屋でレモンサワーをよく飲んでいたことからレモンサワーブームが起こって、居酒屋でレモンサワーを飲む人や、本格的なレモンサワーを出す店が増えていたんだとか。

それに対して、その当時売れていた缶酎ハイのラインナップとしては、「氷結」「ほろよい」「ストロングゼロ」など。

そんな背景から、「より本格的なレモンサワーを家でも飲みたい人が多いんじゃないか?」と思ったことが開発のきっかけになったそうな。

「居酒屋感」「本格的」という求められているパラメータに対して、「居酒屋が作ったこだわりレモンサワー」というコンセプトですべての表現を一貫して作り込んでいます。

結果的に、2019年に全国販売開始して2020年には年間200億円売ってシェアNo. 1に。えげつない。

引用:https://topics.tbs.co.jp/article/detail/?id=13749

需要を生んだコミュニケーション


上記3つの事例については、「すでに顕在化している需要」であり、その場合はストレートに商品コンセプトを伝えるだけで買ってくれる人が多いです。

需要が脳内に顕在化している場合

しかし、あるプロダクトについてのマーケティングを考えるときに、「すでに需要が顕在化している状態」「需要がまだ顕在化していない状態」の2パターンがあります。

後者の「需要が顕在化していない状態」の場合は、商品コンセプトを伝えてもそれだけでは買ってくれません。

そんな時は諦めるのか?いや、まだチャンスが眠っているかもしれません。

前回の記事で、「根本欲求とパラメータはそれぞれ知覚から生まれる」と書きましたが、需要が顕在化していない場合は、商品について伝える前に、何らかの新情報の知覚(教育)によって需要を顕在化させられる可能性があります。

需要が顕在化していない場合のコミュニケーションフロー

リスティング広告以外のダイレクトレスポンス広告の場合は、それに触れる時点では需要が顕在化していないことが多いため、この「需要を顕在化させるコミュニケーション」が非常に重要になると考えています。

こちらも3つの事例をご紹介します。

1、ファブリーズ

いまや定番商品ですが、発売初期は違いました

ファブリーズ発売初期のCMがYouTubeにありました。
まずはこちらを見てみてください。

当時から「消臭剤」の市場はあり、「部屋のニオイを取りたい」という欲求を持っている人はたくさんいたものの、リサーチをしても「布のニオイを取りたい」と考えている人は多くなかったんだとか。

そこに対して、「カーペット・ソファ・スーツなどの家でカンタンに洗えない布が、実は汗や汚れを吸い込んでニオイを発している」という事実を知覚させることで、「布のニオイを取りたい」という欲求の顕在化を狙ったことがうかがえます。

「自宅で簡単に布のニオイを取りたい」という需要に対して、解決策となるのはファブリーズしか存在していなかったので、圧倒的第一想起をとることができ、100億円規模の売り上げに成長させることができたんだとか。

需要の起点となる「根本欲求」自体を新しく顕在化させることで、新たな市場を生み出した素晴らしい事例です。

2、ベリーベスト法律事務所(B型肝炎訴訟)

これも動画を先に見てもらえばそれだけで分かると思います。

子供の頃の予防接種が原因でB型肝炎になった方は、国から最大3,600万円の給付金が受けられる可能性があります。

元々この事実を知っていれば、もしB型肝炎になってしまった時に「給付金が欲しい」となりますが、知らなかったらもちろんそんな欲求は生まれません。

この事実を初めて知覚した時、多くの当事者の方は「給付金が欲しい」という欲求が生まれたのではないでしょうか。

アディーレ法律事務所の「債務整理・過払い金請求」のCMも同じコミュニケーション構造ですね。
こちらの方が2011年頃で時期が早いですが、当時のCMを見つけられず、今回は「B型肝炎訴訟」の方でご紹介しました。

3、ダイソン

「吸引力の変わらないただ一つの掃除機」というコンセプトで売れたと言われるダイソン。

ただ、初期のコミュニケーションを見ると、コンセプトを伝えただけで売れたわけではなく、「吸引力が変わらないものがいい」というパラメータを頑張って付与しようとしていたのではないかと推測できます。

これまた古いですが、こちらのCMを見てみてください。

紙パック式掃除機は、紙パックを変えたばかりでも繊維のスキマにゴミは詰まり、吸引力が急激に落ちていく。
それは、目詰まりで空気の流れを堰き止めてしまうから。

「新しい掃除機が欲しいな」という根本欲求を持って商品を検討している時にこの情報を聞くと、「吸引力が変わらない掃除機がいいな」というパラメータが加わる人が多いのではないでしょうか。

これらのコミュニケーションを継続していった結果、「ダイソン=吸引力がすごい」という認知を持つ人が増え、今ではわざわざ紙パック式との対比などの教育せずとも買ってもらえる状態を作れています。

人の認知は新しい知覚(経験・知識)によって変容していくので、現時点の認知・需要を適切に捉えてコミュニケーションを設計することが大切ですね。

最後に


今回は「需要」についての実践編ということで「需要を捉えたプロダクト」「需要を生んだコミュニケーション」について事例を挙げて考えてみました。

事業のマーケティングを考えるときに、どんな需要(根本欲求+パラメータ)に対して価値を提供するのかを考えることは非常に重要ですが、すでに顕在化している需要について考えるだけでなく、「コミュニケーションによって生まれる需要がないか?」も含めて戦略を考えるべきです。
ここが理解できれば戦略設計の幅がとても広がりを持つと思います。

ぜひみなさんも「需要=根本欲求+パラメータ」というフレームワークに基づいて、プロダクトやコミュニケーションの成功事例について考えてみてください。


最後の最後に補足ですが、
個人的には「需要との向き合い方には、倫理観が問われる」と考えています。

「情報の付与によって需要を生み出せる」とするならば、「自分たちの目的達成だけのために恐怖を煽って無理やり需要を作り出す」ということも理論的には可能になります。
ただそんなことが増えると、一生活者としてはかなり生きづらい世界だなぁ…と感じます。

社会に生きる一人のマーケターとして、
自社とクライアントだけでなく、あらゆるステークホルダーの視点で愛と想像力を持って需要を取り扱う倫理観を持ち続けたいところです。

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