“おまいら”と過ごした平成のインターネットをゆるーく振り返る本『平成ネット史 永遠のベータ版』
平成最後の2019年の1月。NHK Eテレにて2夜連続で放送された特別番組『平成ネット史(仮)』を知っているだろうか。
Windows95の発売から始まり、電話回線でつながっていたインターネット黎明期を経て、テキストサイト、ブログ、2ちゃんねる、iモード、mixi、YouTube、ニコニコ動画、ボーカロイド、LINEなどを紹介。日本のインターネット史に名を刻むサービスと、ネットカルチャーを振り返る番組だ。
そもそもこの企画、放送前の2018年秋頃にはすでにネット上で話題になっていた。公式Twitterにてインターネットにまつわるエピソードを視聴者から募集したところ、あっという間に十人十色の思い出が呟かれる事態に。いわゆる“インターネット老人会”的な盛り上がりの様相を呈していた。
さらに番組の放送だけでは終わらず、1月中旬には東京で、4月下旬には大阪で、特別展『平成ネット史(仮)展』を開催。
デカデカと展示されたインターネットの「年表」を前に、さまざまな世代の人たちが“老人会”的なやり取りを楽しそうに交わしている様子を実際に目の当たりにして、なんだか嬉しい気持ちになったことを覚えている。
いつかどこかのネットの海ですれ違ったかもしれない“おまいら”は、今もこうして暮らしているんだな──なんて。
そんなネット民ホイホイの企画を書籍化したのが、本書『平成ネット史 永遠のベータ版』だ。番組では取り上げられなかった取材成果も盛りこみつつ、改めて「平成のインターネット」を振り返る内容となっている。
インターネットの「これまで」に思いを馳せつつ、「これから」を考える1冊。今も昔もインターネットとネットカルチャーが大好きな“おまいら”にこそ読んでほしいので、ざっくり紹介していきます。
番組企画「平成ネット史(仮)」を再構成
「平成ネット史(仮)」という番組名がタイトルに入っている本書だが、テレビで放送された内容をそのまま書き起こしているわけではない。
番組で取り上げたいくつかのテーマ別に章を立てて解説しつつ、ゲストのトークやインタビューを合間合間に挿入した構成となっている。元ネタである番組「平成ネット史(仮)」を主軸としつつも、番組外で実施された特別展・インタビュー・取材などを盛りこみ、再構成した内容と言えるだろう。
具体的にどのようなテーマを取り扱っているかについては、目次を見てもらったほうが早そうだ。
目次を見てもわかるとおり、本書が取り扱っているのは必ずしも「ネットカルチャー史」ではない。「そもそもインターネットとはなんぞや?」という問いから始まり、国内でどのように普及にしていったのか、その過程を解説。通信環境の変化や、モバイル事情などについても説明している。
なので、「俺は往年のネットコンテンツの話をもっと聞きたいんだ!」という人には、もしかしたら少し物足りなく感じるかもしれない。本書が扱うのはあくまでも「ネット史」であり、ネットカルチャーも含めた「平成のインターネット」全体の流れを追っていくものだからだ。
一方で、そういう人にぜひとも見てほしいのが、本書の巻末に収録されている「年表」だ。こちらは特別展で展示されたあれやこれやをコンパクトにまとめた内容となっており、まさに「往年のネットコンテンツ」が多数掲載されている。実際の展示と比べると物足りないかもしれないが、懐かしい単語も多く、きっと楽しめるはずだ。
現在進行系でアップデートされ続ける「(仮)」の歴史
実際問題として、いろいろな要因が複雑に絡み合っているはずの「インターネット」の変遷を、本書は非常にわかりやすく整理し、噛み砕いて説明してくれている。
たとえば、「高速通信が実現したことでFLASH黄金時代を迎え、やがて動画コンテンツの隆盛へとつながった」「震災をきっかけにSNSが広く普及し、その使い方も変化した」といった、要点を抑えた説明。このような説明であれば、当事者でなかった人もイメージしやすいのではないだろうか。
もちろん、実際のところは他にもさまざまな要因が関わっているのだろうし、本気で「歴史」として記録しようとするのなら、情報が不十分だと感じる読者も多いかもしれない。
しかし、本書は「平成ネット史(仮)」である。ここで言う「歴史」とは、遥か過去の人物や出来事を記録したものではなく、今を生きる僕ら一人ひとりが形作っているものだ。平成が終わっても現在進行形で続いているものであり、立場や年齢、見方によって、十人十色の捉え方ができてしまう。
ゆえにこの歴史は、未完成の「永遠のベータ版」である。
本書の冒頭では、このように説明されている。ここで紐解かれる「ネット史」とは、いくつかの要点に絞り、全体を俯瞰して概説したものでしかない。でもだからこそ、現代を生きる一人ひとりがアップデートし続ける必要がある。
そう考えると、十人十色の「ネット史」がもっともっと語られてもいいように思えるし、むしろ本書がそれを推奨しているようにすら感じられる。令和の今、自分が過ごしてきた「平成のインターネット」を振り返る取っ掛かりとして、この「ベータ版」を手に取って読んでみてはどうだろうか。
「インターネットだけが、平成を語れる」
本書の冒頭では、番組ゲストの1人である評論家・宇野常寛さんの「インターネットだけが、平成を語れる」という一言を取り上げて、次のように書いている。
平成に生まれ、平成の世で育った自分個人の感覚としても、この指摘には共感できる。「最近の若者はけしからん」「これだからゆとり世代は」「あの頃はよかった」などとテレビで語る大人たちの言葉を聞くよりも、ネットで“おまいら”と好きなことの話をしているほうが楽しかった。
けれど、なればこそ、こうして「あの頃」を懐かしむだけで終わってしまってはいけないとも思う。「テレビ」と「ネット」、あるいは「リアル」と「ネット」と区別すること自体が今となっては意味を成していないように感じるし、ネットの存在が加速させた負の側面もある。
現在進行形で問題視されているフェイクニュースはもちろん、00年代の掲示板文化だって全部が全部「良いものだった」とは断言できない。あそこから生まれた魅力的なカルチャーやコンテンツも多いものの、一方では「無法地帯のような場所だった」と言われれば、「それはそう」と頷く人も多いのではないだろうか。
平成のインターネットの光と闇の両側面を振り返りつつ、これからも続いていくだろうインターネット社会を生き抜くためのヒントとする──。
本書の「使い方」をひとつ挙げるなら、まずはこのような用途が示せそうだ。カジュアルな読み物として楽しみつつ、「これから」のインターネットに思いを馳せるきっかけとしてみてはどうだろうか。
──なーんて真面目に書いてきましたが、読み物としてもシンプルにおもしろかったです、はい。
「前略プロフィール」の文字が出てきたときには「ウッ」ってなったし、「マトリックスオフ会」なんて単語が目に入って「あったあった~!」なんて声を出しそうになったし、「PPAP」にももはや懐かしさを覚えるしで、とにかく読んでて楽しい1冊でした。
それと、先ほどもちょろっとふれた巻末の「年表」は必見。東京と大阪で開催された特別展を訪れた人たちが、みんな近くまで寄って眺めながら、あーだこーだと楽しそうに話していた、あのインターネット年表。特に00年代をインターネットで過ごした人は、きっと懐かしく感じるんじゃないかしら。
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元記事:https://blog.gururimichi.com/entry/bookreview/heisei-nethistory
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