"VRアイドル”から栄養を摂取した話
「私たちは世界一のVRアイドルになります!」
と、そのアイドルは大きなビジョンから高々に声を上げた。
それに対して目の前にいるファンたちは高々とペンライトを上げた。
推しが“その言葉”を言うと、ファンはペンライトを上げる。
これはもう儀式なのかもしれない。
ペンライトを持っていない僕は、購入したグッズのタンバリンを高く上げた。
皆のペンライトは1色なのに
何色かにキラキラ光る自分の右手が少し恥ずかしかったが、
この儀式には参加したかった。
この儀式は1年に1度、僕が必ず参加しようと決めているライブで行われる。
ライブは僕の住む福岡から遠く離れた東京で年末に行われる。
年に1度、飛行機に乗るきっかけのライブ。
奥さんに「仕事でお世話になったから見にいく」と嘘をついて
行くライブ。
そのライブは僕の推しのライブ。
推しだからいくライブ。
世界一のVRアイドルを目指しているアイドルだからいくライブ。
VRアイドル"えのぐ”のライブ。
僕がその「えのぐ」を知ったのは2020年の春。
僕は福岡でテレビディレクターをしている。
世間は圧倒的な新型コロナ禍。
外で収録ができない、そう思った時にYouTubeで知った
"VTuber"を紹介する企画なら室内で収録ができるとVTuberの企画書を書いた。
※VTuberの企画を始めたきっかけの詳細はこちら。
僕が書いたA4用紙1枚の企画書「女性VTuber特集」
その中にはアイドルグループがあり代表として記したのが「えのぐ」だった。
えのぐは4人組のVRアイドル。
彼女たちを知らない人はこちらを見てほしい。
ファンなら知っている、彼女たちの誕生秘話。
元々ASAYANやAKBグループなど、
アイドルの“成長”を見ていくのが好きだったアイドルオタクの僕にとって
”えのぐ”を好きになったきっかけのひとつでもあったが、
それよりも、一生懸命パフォーマンスをしている姿や、
画面から見える底抜けの明るさがまさに僕にとっての理想の「アイドル」だった。
ファンにとって推しは、
生きる上での「必須栄養素」なんて言葉があるが、
僕にとってはまさにそれで。
通勤・仕事の休憩中など時間があればえのぐで「栄養素」を補給している。
それはレッドブルやオロナミンCでは摂取できない、
自分の「表情を明るくしてくれる」栄養素だ。
えのぐの活動拠点は主に東京なので、福岡在住の僕が
その栄養素を生で摂取しようと思うと、
そんなに頻繁に摂取はできない。
なので年に1回年末に行われるライブだけは、
「奥さんに仕事でお世話になったから見にいく」と嘘をつき、
飛行機に乗ってライブ会場へ向かう。
お気に入りのライブTシャツを着て、
えのぐの中で特に推しているメンバーのチェキをリュックに忍ばせ、
東京に向かった。
ライブの会場は豊洲PIT。
福岡在住の僕にとって「豊洲」は市場のイメージ。
市場ってことは海の近くか。
なんて、思いながら飛行機に乗り、
海の近くにあるはずの豊洲PITまで、
ライブの予習を踏まえて曲を聴きまくった。
豊洲駅に着くと想像とは違い高層ビルがたくさん。
「東京だからそりゃそうだよな」と、言い聞かせ、
目的地に向かうと、海がだんだん見えてきた。
「やっぱり海の近くやんけ」と、心の中で言い、
スマホを見ると、充電が20%を切っていた。
予習をしすぎたようだ。
iPhoneのケーブル差し込み口をイヤホンから、
バッテリーを繋ぐケーブルに変えながら歩いていると、
目的地の豊洲PITに到着した。
会場に着くと、すでに大勢のファンがいた。
会場時間より、1時間前についたはずなのに、
僕よりもファンであるファンはもう既に臨戦態勢だった。
会場に着くと、まずはお決まりのフラワースタンドを見学。
(フラワースタンドのことをフラスタと言うことを最近知った。)
自分の気のせいかもしれないが、一昨年行ったライブより、
フラワースタンドの数が多いようにも感じた。
えのぐのファンは通称「えのぐみ」といい、
そのえのぐみが彼女たちに送ったフラワースタンドは
どれも個性的でどれも愛が篭っていて、写真を撮りながらニヤニヤした。
小さくてもいいから自分も出してみたいなとも思った。
フラスタの見学を終えると、ライブのお決まり、
物販の購入。
僕は既にコートの下に前の晩にアイロンしたライブTシャツを着ていたが、
今回のライブのTシャツと光タンバリンを購入した。
新たなライブTシャツに着替えていると、
「お久しぶりです!」とえのぐみさんに声をかけられた。
その「お久しぶり」の意味が僕にはすぐにわかった。
僕がディレクターをしている「エンタテ!区」という番組が主催する
ライブに「えのぐ」には2年連続出演している。
※もちろん僕がファンだから出てもらっているわけではない。
彼女たちのパフォーマンスはリアルのアイドルにも引けを取らない。
その姿をVTuberを知らない人たちに知ってもらいたいという
思いでオファーをしている。
その時にライブを見にきてくれていたファンの方たちだった。
確かその2人は関東から来てくれて僕の「えのぐのどんなところが好き?」のインタビューに協力してくれた方たちだった。
「インタビュー使ってくれてありがとうございます!」と言われたが、
"ありがとうございます"はこちらのセリフだ。
そんなこんなしていると、
カメラを持っている男性に声をかけられた。
えのぐのライブに密着しているテレビ番組のカメラだった。
「えのぐのファンとしてインタビューさせてもらえませんか?
街録(街頭インタビュー)を大変さわかりますよね?」
と、言われた。
えのぐのスタッフさんが僕のことを伝えたのだろう。
もちろんOKだ。
インタビューの詳細は伏せるがとにかく"なぜえのぐなのか?"は
自分なりに話せたと思う。
ただ、インタビューを受ける側になると、ここまで緊張するものなのか。
これからはより一層、インタビューに答えてくれる人には、
「ありがとうございます。」をより気持ちを伝えようと思った。
一度、仕事モードになった気持ちを推しモードに切り替え、会場内に入った。
僕の席は、会場は中列の右。
ファンの姿も4人が映るビジョンも生バンドも、
全部が見渡せる最高の席だった。
僕の左の席がスタンド席でそこでのファンの会話が聞こえた。
「スタンドの方が暴れられる!」
「逆にスタンドの方が良かった。」
「暴れる?逆に?」この言葉の意味がよくわからなかったけど、
とにかくこの2人には注目しておこうと思った。
僕の隣の隣の席は男性で、
とても眠そうだった。
僕も睡眠時間は少なかったが、アドレナリンが出ていて、
全然眠くなかった。
「ライブ前に眠い…って大丈夫か?」と、この人にも注目しておこうと思った。
ステージはまるで海賊船のようなセットで中央の大きな舵輪が目を引く。
そうこうしている内にライブが始まる時間になった。
光タンバリンンを右手にもち、左手で購入したコーラを一気に飲みした。
生バンドの演奏が始まり、
大きなビジョンに「VRアイドルえのぐ」の姿が映った。
「1年分の栄養素を摂取する」ライブの始まりだ。
彼女たちのライブは、生バンドの演奏に合わせて
ビジョンに映る彼女たちがパフォーマンスを行う。
これが主流。
これがえのぐ流。
彼女たちのパフォーマンスは録画ではない。
彼女たちのショーが始まり、スタンド席を見渡すと、
「暴れる」と豪語していたファンが
飛び跳ねていた。
大袈裟な表現ではなく
あのマサイ族のジャンプだ。
豊洲にマサイ族。そんな言葉を思いつき、
さらに右に目をやると、
先ほど眠たそうにしていたお兄さんが
キマっていた。
慣れた手つきでペンライトを振り回し、
先ほど眠そうにしていた人とは思えない。
これがアイドルの力。
これがVRアイドルの力。
栄養素の力。
↓1月末までアーカイブありますので!!!
えのぐのライブは1度見たらハマってしまう要素がとにかく多い。
1:前述した収録ではない生パフォーマンス
2:歌う曲の演奏が生バンド
※ステージには演奏者・その上のビジョンにはVRアイドル。
普通のアイドルでは見られない空間
3:VRアイドルによるバンド紹介。
※ステージにいるバンドをその上のビジョンにいるVRアイドルが自己紹介。
上からマリコじゃないが、上からバンド紹介。
最初見たときはその異様な空間に笑ってしまったことを覚えている。
4:パフォーマンス能力
そもそもどういう技術で遅延がなく
リアルタイムでパフォーマンスをしているのだろう…。
素人目でもわかるキレあるダンスは勿論。
特に驚きなのが歌唱力。
これまで色々なVTuberのライブを見てきたが、
正直、初めて聴く曲の場合、何と歌っているのかが
わからないVTuberが多かった。
曲調にもよるとは思うが、えのぐの4人は初めて聴く曲でも、
なんと歌っているのかが、明瞭だ。
それは4人の歌唱力が高いからだと思う。
僕は音符も読めないほど音楽知識がないので、
参考にはならないが、
2度言う素人目でも彼女たちのパフォーマンス能力は高い。
そしてライブは2時間余りで、あっという間だった。
表現としては下手中のベタだけど、
あっという間。
それくらい「時間を忘れる」時間だったからだ。
その時間の中で特に印象的に残っているのが、
鈴木あんずさんの口から何度も出た
「世界一のVRアイドルになる」と言う言葉。
この言葉は常々彼女たちが口にしていた言葉なのだが、
えのぐにとって「世界一のVRアイドル」とは
なんだろう。
ファンになって2年。
この目標が何を指しているのかは僕はまだわからない。
まだ見ぬ秘宝「世界一のVRアイドル」を目指して、
船の上でパフォーマンスをしている彼女たちを見て
僕はライブ中そんなことを考えていた。
えのぐにとって「世界一のVRアイドル」とはなんだろう。
この航海はまだとてつもなく長く険しい道のりだろうが、
僕はファンとして、
えのぐを応援していきたい。
そんな中、メンバーの夏目ハルさんが
去年いっぱいで卒業をすることになった。
苗字に「夏と春」
ふたつも季節が入って欲張りだな。
というのが最初の印象だ。
長い手足を使ったダンスに、
綺麗な高い声。
彼女の勇姿を焼き付けることができて本当に良かった。
同じ7月24日生まれ。
VTuber eレコ大の時に、
オリジナルの歌詞を入れて歌ってくれた時は
本当にうれしかった。
本当にお疲れ様でした。
僕はえのぐのファンになってまもなく、
所謂。
ガチ勢ではないが、
彼女たちの姿に救われたことが何度もある。
なので、えのぐみを自称していいですよね。
この文章を書きながら、
もうひとつのモニターで栄養素を摂取している。
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