
マリー・ウィンザー主演 地獄の銃火 1949
スタンリー・キューブリックのフィルム・ノワール作品、「現金に体を張れ」で強烈な印象を残したマリー・ウィンザー。
リチャード・フライシャーが低予算で撮ったB級フィルム・ノワール映画の
「その女を殺せ 」は出来栄えが秀逸で、内容的にはB級どころかA級フィルム・ノワールと呼ぶに相応しい。これにも、マリー・ウィンザーは出ている。
マリー・ウィンザーは、日本では知名度もさほど高くないが、当時B級映画の女王と呼ばれ、数多くの映画に主演、出演している。アメリカでは人気、知名度共にかなり高かったのだろう。
美貌だがくせのある顔つきでファム・ファタール役が多く、175cmと長身でグラマラスな身体の持ち主。当時、ファンも多かったのは理解できる。
ただ、ハリウッドのいわゆる正統派の美人女優たちとはタイプが違うのでB級映画中心になったのかもしれない。客観的にみれば、かなりの美貌なのだが。
メジャーでは、キューブリック以外ではジョン・フォードに脇役で数本出ているくらいだ。
日本では彼女の映画をなかなか観る機会はないが、最近アマゾンプライムなどのサブスク映画が急速に充実してきていて、彼女の映画もかなり観ることができる。
試しにこの「地獄の銃火」を観てみたら面白くて、他にも数本手を伸ばしてみたらちょっとハマりかかっている。
彼女も勿論いいのだが、それ以上に当時のB級映画は気取りがない分、観客を楽しませてひきつけることにひたすら徹底している。レベルも決して低くない。
当時のB級映画、おそるべしだ。沼地にはまりそう。
さてこの「地獄の銃火」、やはりB級西部劇に出演が多かったワイルド・ビル・エリオットも主演。
放浪ギャンブラーのゼブ・スミス(エリオット)は、自分の命を救ってくれた瀕死の牧師に、教会を建てるという牧師の生涯の目標をかなえると約束する。
女性無法者ドール・ブラウン(マリー・ウィンザー)には5,000ドルの賞金がかかっている。
二人はひょんなことから出会い、ドールの逃亡旅にゼブもつきあうことに。
ゼブの友人である連邦保安官のバッキー・マクリーン(フォレスト・タッカー)が彼女を追っていて...
無法者のエリオットがいきなり信仰にはいるのも唐突だし、ウィンザーの女性ガンマン設定も、二人旅でウィンザーをエリオットが信仰に熱心に誘うのもちと強引。キリスト教信仰を妙な形で勧めるいかにもB級映画。
二人の珍道中になるのだが、エリオットもウィンザーもいい味を出している。
全般的にストーリーがかなり無理筋なので下手するととんでもない駄作になりかねない。
だが、ウィンザーとエリオットとタッカーの個性が明確で、役者としてもしっかりしているので、なぜかちゃんと見せてしまう。
マリー・ウィンザーは男装のカウボーイ役が実にかっこいい。これをやらせたかったのだろうね。長身でスタイルが良いので映える。
連邦保安官のタッカーが追ってきたのを誤魔化す為に、ウィンザーはいきなりうるわしい女性姿に変身する。
イングマール・ベルイマンの「魔術師」で、イングリッド・チューリンが男装で登場するが、途中で髪をほどいて見事な女性の姿に変身するように。
ウィンザーが変身した初登場シーンには目が奪われる。かくのごとく、B級映画は作品の厳密性よりも、観客を楽しませることだけ考えているので楽しいのだ。
ウィンザーは生き別れになっている実の妹を探している。それとネタバレにならない程度に言うと、連邦保安官のタッカーの存在が密接に関係している。
それを知る為に、ウィンザーはタッカーに色仕掛けめいたことを行う。酒場で肌も露わな衣装で歌も歌う。
ただ一人真相を知っていて、二人を見ていてヤキモキするエリオット。三人の奇妙な三角関係。
どうです、なんだかよく分からないけれど面白そうでしょう?実際面白いのです。
クライマックスでのマリー・ウィンザーの演技なども迫真で泣かせる。
客観的にふとさめてストーリーを考えるとB級なのだが、役者の魅力と娯楽性に徹する姿勢で、どんどん映画に引き込まれるのだ。いわゆるA級映画には絶対出せないB級映画の味わいと意地。
現在、アマゾンプライムで視聴可能。
いやぁ、B級映画ってほんとうにいいものですね(水野晴郎)。
