爺さん達の病気自慢
我らが大君、徳川家康公が天下統一をされたお陰で、長きにわたり「浮世床」「浮世風呂」なる、大変にありがたい伝統を生むことと相成りました。この「浮世風呂」こそ、日々に身に振り来たる世のチリを洗い流し、日本人独特の優しさと諧謔(かいぎゃく)とを育んでこられたのでしょう。
我が県は温泉大国であると、声を大にして言える。県の西部は少ないが、概ね何処を掘っても源泉が湧き、各地に日帰り温泉施設が出来ている。
むかし地方創生事業とかで税金がばらまかれ、使い道も解らず、手っ取り早いところ温泉を掘ることが流行ったようだ。多すぎて施設運営に困る事にも成ったが、さすが公共事業の御力を発揮し、コロナ禍でも消えてしまうことは無かったようだ。
昨日は近くの日帰り温泉に行ってきた。平日の日中にもかかわらず、さすがに高齢者が多い。広い露天風呂の縁に腰掛け、8人くらいが面白い話を始めた。
一人が腰の痛みで整形外科に行き、帰りには心臓と高血圧で〇〇病院に行った。毎月6万円は薬代にかかってるとのこと。医者に掛かったところで全く良くならない。でもまあ、家でゴロゴロしてるよりも外に出た方が良いからさ、だって。
それを聞いてた一人が、何とか言う病気で月に60万円もかかってると自慢を始めた。全部で5種類の病名だったようだが、病気の割に見た目は元気。
それを聞いた次の人が、健康のためには毎日ゴルフの打ちっ放しが良い。3時間で千円だから、月に3万円程度ですむ。実際には2時間も出来ないし、何処へ飛ぼうとあそこなら構わないしなぁ。ゴルフの帰りにここに寄って一っ風呂あびてさ・・・って、ずいぶんと豊かな生活のご様子で。
話を遮って更にスゴい病気自慢が出てきた。保険の利かない治療を続けてるので、月に350万円は掛かってると言うジイさんも出てきた。しだいに金額が上がって、このジイさん達、少々ボケてるのかって思えてきた。
端で聞いてると実に面白い。だいたい後期高齢者の医療保険では、保険適応が1割の負担だ。まして60万円もかかるはずはなく、高額医療費の負担は6万円以上は掛からない。高齢者医療の場合は、各病院が黙っていても高額医療費の手続きに入るはず。保険適応にならない特殊な治療としては、ガンなどの免疫療法もあるが、大方は生死に直結する症状が多い。こんな所で大きな声で、我負けじと病気自慢など出来るはずなどない。
どう見ても一回り以上は歳が上だ。こんな歳になってまで、病気のことでさえ張り合っているのだろう。若干、高齢者福祉や医療費に関して勉強もしたので、この人達の話には疑問点や矛盾が多い。少し突っ込みを入れて構ってやろうかと思ったが、しだいに熱がこもって声が大きくなってきたので、トボトボと内湯に移動した。
あれはどう見ても病気など無い。同じ老人として、医療費の無駄遣いに思えてきた。
高齢者、80歳代の義父母と暮らしていて、気晴らしで働いてるという人が居た。山を越えると、70歳・80歳という区切りを超えられると、何故か次の山の数年前まで、突然元気になってしまうと言ってた。
そして山の数年前になると病気がちになり、病院通いが始まり、ご主人は仕事で手伝わずに、奥さんが老人の面倒を一人でみるようになる。今年はいよいよ山だから、これでやっと楽になれると思うと、80歳と同時にまた元気になってしまうそうだ。
元気になるのは良いが、身の周りの面倒をみてもらうのが当たり前になり、ますます苛立ちが強くなるとか。
ジイさん達は病気自慢と医療費自慢だが、日帰り温泉の奥さん達の話題は、こういうジイさん達や夫の無関心さへの愚痴話になる。することが無いから病院通いではもったいない。あれほど元気に大声で言い争えるなら、老人専門の職場を用意すれば良いのに。始業時間だけは決めて、後は疲れたら互いに休むとか。
しかしまあ、「浮世風呂」はいつ行っても面白い話題ばかりで飽くる事がない。ロシアのウクライナ侵攻の陰が薄くなるほど、今度はガザ地区での空爆がニュースになってる。銃の発砲たてこもり事件や、不法移民の騒ぎやら、そんな事は何処吹く風、これぞ浮世風呂の世界だ。
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