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タイトルの付け方が独特な2つのホラー作品について
読んだ本について、特に深い考察もなく、感じたままに書くだけの緩い記事です。今回は去年『近畿地方のある場所について』で鮮烈なデビューを飾った背筋さんの新作2作を読んでみました。緩い感想なので、特に何の知見が得られるものでもありませんが……。
『穢れた聖地巡礼について』
背筋
2024年9月3日
心霊系YouTuberの池田(チャンイケ)、フリー編集者の小林、オカルトライターで神社の娘で「見える人」の宝条は、YouTuberのファンブックを作るという企画を実現するため、今までにチャンイケが潜入した心霊スポットで再生回数が多かった場所について考証し、嘘でもなんでも読者が面白がってくれればいいというスタンスで、それらしい怪談をでっちあげようとする……というのが本筋で、ほとんど三人の会話で進みます。
そこに昔の記事やネットの掲示板で拾った実話系怪談、別の心霊系YouTuberの体験談、さらにそうした心霊スポットにまつわる人間のドロドロしたエピソードも差しはさまれ、読者を飽きさせない工夫がされていると感じました。
第零章から第八章までの短編という構成で、チャンイケのYouTubeチャンネル「オカルトヤンキーch」の中で特に人気の心霊スポットについて追加取材(というか資料集め)をして考証していきます。若いチャンイケと中年の小林がオカルト考証をしていくところは、三津田信三の『どこの家にも怖いものはいる』へのオマージュの意味もあるのでしょうか。
個人的に好きなのは以下の章です。
「第一章 変態小屋」
ある山奥に立つプレハブ小屋には、なぜか大量の写真が捨てられている。写真の多くは(変態が)盗撮したもののようだったが、その中に、あるイベントで公開されたいわくつきの写真を見つけた小林は、この小屋の本当の目的を探り始める……。まずは「変態小屋」って!(笑)絶対に笑わせにきてますよね。でもここに差しはさまれる複数の証言や(特に「人形屋敷」の話が気持ち悪かった!)、いわくつきの写真の背景にあるドロドロした話はとても怖いし、そういう人の不幸をビジネスに利用しようとしてる3人もとても嫌な感じ。
「第二章 天国病院」
死んだ人に会えるという噂の廃病院にまつわるお話で、ここではある少女と祖母の物語をベースに、ネットの個人ブログや怪談スレから拾った肝試しなどの体験談が差しはさまれ、それを三人で考証していきます。体験談はたしかにどこかで聞いたことがあるようなものが多いですが、それでも安定の怖さです。第一章でもそうでしたが、変なところで終わるのでよけいに気持ち悪いんですよね……。
「第三章 愚かな三人」
YouTuberの池田、フリー編集者の小林、オカルトライターの宝条の過去が語られ、3人それぞれがある種の罪悪感を抱えて生きてきたことがわかります。それにしても、小林の侘しい暮らしぶり(1Kのアパート、汚れた一口コンロ、年季の入ったデスク、安物の椅子、動作の遅いノートPC……)と、池田のキラキラした暮らしぶり(小綺麗なマンション、2LDKの広いリビング、窓際に置かれた海外製のデスク、その上のiMac、ハイバックチェア……)とのコントラストが強すぎました。小林も出版社時代はやり手で活躍したはずなのになんで……?
「第四章 輪廻ラブホ」
見ると呪われる絵とか、廃ラブホにまつわるうわさのくだりはとても面白かったです。そうそう、これら三か所の心霊スポットの写真が巻頭に掲載されていて、リアリティ満点!
廃ラブホの話とは別に、ここでは敬一という男性とその元彼女のエピソードが描かれていて、タイトルにある輪廻というのが本書のもう一つのテーマなのかと思われますが、途中から正直よくわからなくなってしまいました。その後に続く短編は、小林と宝条の思惑など種明かし的な流れになっていて、ちょっと意外な結末に。
『近畿地方のある場所について』の感想でも、「肝心の謎は、へ~って感じだったけど、そこに行くまでのひとつひとつの話が不気味でとても良かった」と書きましたが、今回もちょっとそんな印象を受けました。
『このホラーがすごい!2024年版』での梨さんや雨穴さんとの対談の中で、背筋さんは「怖くなくなることを納得したうえで(謎・怪異の)種明かしをしている、怖くないけど面白かったというのはある種の褒め言葉」だとおっしゃっているので、謎のままで終わらせないというのが基本スタンスだとは思いますが、今作の終わり方はまだ謎が残ったままです。つまり、またいつか続編が出るということでしょうか? そして頭の大きい人は結局何だったのでしょう? そして最後の写真……。また笑わせようとして!
作者の背筋さん、大ヒットした『近畿地方のある場所について』とはまた違ったアプローチでとてもおもしろいホラーを書いてくれました。一作目が話題になりすぎて、プレッシャーも半端じゃなかったと思いますが、それを見事にはねのけ、期待を裏切らない作品に仕上がっています。
贅沢を言わせてもらえれば、「変態小屋」「天国病院」のテイストであと何編か書いてほしかったなぁと思います。でも今回作者が本当に描きたかったのはそこじゃなかったのかもしれません。
『口に関するアンケート』
背筋
2024/9/4
山奥の霊園に肝試しに行った大学生グループに起きたことを、それぞれの視点で語る形式。
アンケート?と思って読んでいくと、確かに最後はアンケートになっていて……。
背筋さん、なぜこれを出したのか、ちょっとよくわかりません。あまりに短いし、ちょっと弱いかなぁ。オチはびっくりしたし、面白くなかったわけではないんだけど……。セコイこと言いたくないのですが、これで605円(2024/09/06時点)は高いような。思わせぶりなタイトルにも、「やられた」感が残ります。最後はアンケートの形でぞっとさせるというアイデアは斬新だし、内容も面白いことは面白いので、もう少しふくらませるか、オムニバスの中の一編だったらもっと良かったと思います。要するにもっと読みたかった。
まあ、この作品は箸休めみたいなものとして、また次回作を期待してます!
『穢れた聖地巡礼について』の心霊YouTuberというテーマがすごく良かったし、あの大きい頭の人の続きが気になって仕方ないので、続編を待っています。
(文責:岡田ウェンディ)