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無名の俳優が魅せた覚悟【インタビュー⑤】

今更感があるが、この記事は筆者が去年(2021年)の夏に出会った魅力的なご近所さんをインタビューしたもので、インタビュー自体は1日で終わっている。

やった事もないインタビューをしてみたいと思い立ち、まず私はボイスレコーダーを購入した。
「インタビューと言えばこれだろう!」と思ったのだが、iPhoneにその機能はついているし、今思えば映像にしていた方が絶対に面白かったと後悔している。

夏に近所の公園で、水に浸かっている男が私の持っていたストロング缶を手に喋っているのだ。

時折その辺の子供たちと戯れたり、知らない親御さん達と雑談したりして、何度も脱線する話をボイスレコーダーから聞き取って文字に起こしている。

仕事は在宅ワークだが、この作業をしている時間の方が勤務時間より長い事は明らかだ。

妻は私の2つ下で田中のことを「あっちゃん」と呼び、田中が私の家に遊びに来た時は妻を下の名前で呼ぶ。

今は私も「あっちゃん」と呼べるほどの仲になったが、この頃のインタビューを聞いていると、田中と同い年の私は田中に対して敬語だし、所々言葉の弱々しさが伺える。

自身の作品を上演する事で、他の出演作品に対しても姿勢が変わったと言う田中。

自分がやると決めた事を形にするため、犠牲にしてきたものはあるのだろうか?


さよなら歌舞伎町

ー飛田
揉めたって、何があったんですか?

ー田中
何かすげー怒っとったよ!笑
で、怒られた!

(ここで田中がコンビニに向かったので一時中断。田中は1kgの氷2つと紙パックの緑茶、鏡月を買って来て、氷の袋の中で緑茶ハイを作り、ひとつを私にくれた。)

ー田中
確かね、一人芝居のポスターに、今まで一人芝居やらせてもらっとったお店の社名を入れたんよ。
協賛?か協力で入れたんかな?
それで怒られた!笑

ー飛田
お店の方にですか?

ー田中
お店の方やね!
なんか東京キネマ倶楽部でやるってなった時に、お店のマネージャーさんに言ったら「ここを土台でやってるんだから、もっとここを使っていいんだよ」って言ってもらえたんよ。
「人だって設備だってあるんだから、何か必要な事が有れば頼めばいい」って事で、デザインを会社の人にやってもらったんよ。
「大きいところでやるんならポスターとかに社名あれば会社としても宣伝になるからOK!」って話だったから、絶対に名前入れ忘れたらいけんと思って入れたんよ!
しかも会社で!会社の事務所でデザインしてもらっとったけん、そこで!

初めて東京キネマ倶楽部で一人芝居公演をした時のポスター

ー飛田
なのに揉めたんですか?

ー田中
揉めてないかも!
むっちゃ怒られたんよ!笑

ー飛田
社名を入れた事がマズかったんですか?

ー田中
みたいよ!
ゴールデン街のお店に何軒かポスターを貼らせてもらったんじゃけどね、それを見た他のマネージャーさんが「何勝手に社名載せてんだ!」って怒ったのよ。

ー飛田
「いいよ」って言ってくれた人と別のマネージャーさんって事ですか?

ー田中
そーそー
そのマネージャーからしたら
「大して店に貢献してない奴が、何勝手にウチの名前出してくれちゃってんの?」って話で「オーナーに許可取ったのか?」とか、まぁ理由はなんでも良かったんじゃ思うけど、ようは嫌いだったんじゃろうね♪

ー飛田
いいよって言ってくれた人は守ってくれなかったんですか?

ー田中
多分その話知らんのんじゃない?
てか「頑張ってギャーギャー騒ぎ立てたのに、実は許可してましたー」ってなったら騒いだ人の顔が立たんし「許可してもらいましたよ」って俺が言うたら、せっかく親身になってくれたのに巻き込む事にもなるじゃん。

ー飛田
てかその会社のマネージメントどうなってんすか!?笑

ー田中
俺がマネージャーの役割を知らんけえ何とも言えんけど、面白い会社だったよ!笑

ー飛田
田中さん的には社名は入れた方が良かったんですか?

ー田中
いやいや「入れといたらいいじゃん」って話じゃったけえ、それが礼儀なんかの思って損得より善悪で、入れる事が善行だと思って入れたよ!笑

ー飛田
名前が入ってると、具体的にどうマズかったんですか?

ー田中
わからんのんよ!!!笑
キネマ倶楽部の企画は自分でやったけど、一人芝居自体自分で始めたもんでもないしさ、その時まだ働いとったけえね。
元々お店の企画でやらせてもらっとるもんを、会場が大きくなったけえって自分一人の手柄にするのって行儀悪くない??
許可出した人が上に報告する義務でもあったんかね?

ー飛田
本格的に嫌われてるじゃないですか!

ー田中
いやいや!
きっと正当な理由があるはずだって!!!
俺が理解出来とらんけえそう聞こえるだけよ!

ー飛田
それで許してもらえたんですか?

ー田中
それがね、なんか夜中に呼び出されたんじゃけど「名前を消せ!」とも「中止しろ!」とも言われんで、ただただ俺のダメなところを延々と説明されただけじゃったけえ謝るようなタイミングも別になかったのよ!

ー飛田
その怒ってるマネージャーさんにですか?

ー田中
が、連れて来たまた別のマネージャーさん。笑

ー飛田
ん?「名前入れときなよ」って教えてくれた人とはまた別の人??

ー田中
変だね!!!!笑

ー飛田
ですよね!笑
で、そのマネージャーさんも怒ってたんですか?

ー田中
その人は目の前で「怒って」って言われた内容をそのまま俺に伝える役だったよ!

ー飛田
どう言うシステムなんですか?

ー田中
そのシステムわかっとったら怒られとらんかったんかなぁ?

ー飛田
いまいち理屈が理解出来ないですね。

ー田中
理屈じゃないんじゃない?
やる事が違うんじゃけえこっちの理屈だけでやってもいけんじゃろ。
あっちの理屈で怒っとるんなら、それ理解しとらにゃギャーギャー言うても平行線じゃろう。

ー飛田
むちゃくちゃ冷静なんですね。

ー田中
今じゃけえそう思うとるだけよ!
その時は「なんでや!」言うて、酒も入っとったし泣き叫んどったよ!笑
でも当の本人は、連れて来た別のマネージャーに喋らせるばっかしで全然こっちの言い分なんか聞いてくれんわけ!笑
でも何じゃ言うても一番は「その人にも観て欲しい」ってのがあったけんマジでお願いしたんじゃけど、そんな死相が出とる奴の芝居なんか誰も観たくないよね。笑

ー飛田
こっち側の話しか聞いてないですけど、もどかしいですね〜。
なんでそんなに食い違っちゃったんだろ?

ー田中
ちょっとエモい事言っていい?
その初めて東京キネマ倶楽部でやった作品はさ、一年間歌舞伎町でロングラン公演をやらせてもらったトトロを、演出家さんと一緒に作り直して「東京に来てからの話」と「過去の自分」って要素を足して新作にしたんじゃけどね「ゴールデン街最後の日」ってシーンを足したのよ。笑
ゴールデン街のブライアンBARってとこに当時入っとったんじゃけど、会場のバーカウンターをブライアンのカウンターに見立てて、会場のお客さんを、お世話になったお店の最終日に足を運んでくれた最後のお客さんにしてね。
締め作業の最後はゴミを捨てたらおしまいなんじゃけどさ、朝になってお客さんが帰って一人で締め作業しながらゴミ袋に色んなもんを詰め込むのよ。
店を出て、ゴミ捨て場にその袋詰めにしたゴミをドサっと置くとき、演出家から「大切なもんだから乱暴に置かないでね」って言われとったんじゃけど、本番の時はそのゴミ捨ててからずーっとゴミ袋を見つめてからしばらく動けんかったね。
ゴミ袋エアーなのに!笑

ー飛田
それ観てないんでわからないですけど、聞いた感じ相当エモいっすね。

ー田中
ホンマに色んな気持ちが込み上げて来るもんでね、実際何人かゴールデン街の人たちも観に来てくれとったし「お世話になりました!」っていうか「俺、これからこれでいきます!」って気持ちでやっとったんかなぁ?

東京キネマ倶楽部で一人芝居をする田中

ー飛田
それ観て欲しかったですね〜

ー田中
やっぱお店でやっとらんけえ意味なかったんかね?笑
まぁそんなエモさをもって、この公演を最後の出勤日にしたわけ!
今考えたら、それが劇場で直にご本人さん達に伝わっとったら相当恥ずい事んなっとったなと思うけえ、観に来てなくて良かったかもよ!笑

居場所

ー飛田
ちょっと後味悪い終わり方でしたね。

ー田中
そのくらいがいいんじゃない?
その方が「絶対やっちゃるけえ見とれえよ!」言う気持ちで頑張れるじゃん!

ー飛田
なるほど!
それは確かに頑張れそうです!!!
お店には顔を出したりするんですか?

ー田中
それがね、しばらくしてゴールデン街のブライアンBARはなくなったんよ。
初めて一人芝居をやらせてもらった歌舞伎町のJimushono1kaiも更地にんったんじゃけど、働き始めたきっかけがブライアンじゃったけえ「戻って来るとこがなくなっちゃった」って思ったね。
また働くって意味じゃなくて、なんか実家が取り壊されるような感じで寂しかったね。
じゃけえその店の最後の営業日は、本番前じゃったけど稽古終わってからそのままゴールデン街行ったんよ。

ー飛田
どのくらいぶりだったんですか?

ー田中
覚えとらんけど、そんなに経ってなかったと思うよ?笑
半年もなかったんじゃない?笑

ー飛田
ちょっと早過ぎましたね!笑
古巣に帰って来た感が薄いなぁ〜

ー田中
なかなかドラマチックにはいかんもんなんよ!笑
でもさ、ゆうてもやっぱ啖呵切って出てった感あるじゃん?
ほいじゃけえなんぼ最後の日じゃ言うても俺が行ってええもんなんかわからんかったけえ無茶苦茶気ぃ張って行ったよ!
追い返されたりするんかなぁ〜って!笑
まぁそれだったら大分愛されとるよね。笑
でもやっぱお世話になった場所の最後に立ち会いたかったんよね。

ー飛田
どうだったんですか?

ー田中
それがね、受け入れてもらえたのよ!!!
一番怒っとったマネージャーさんがさ「あつゆきーーー」って泣きながら!
その前に、ゴールデン街入った瞬間に俺が一緒に働こって声かけた女優さんに見つかって、その子にビンタぶちかまされた後に旦那さんの目の前でブチュっとされとって、それでも気ぃ張って店に向かって歩いてったら、今度は同じ仲間で大親友の奴が「来るって思ってたよ」って、それだけで結構熱くなったんじゃけどさ、やっぱすげー怖いわけ!笑
で、店入ったらそれじゃん?
店に初めて来た日に「ここで働きなよ」って言ってくれたんがそのマネージャーさんだったんじゃけどさ、店入った瞬間抱き合ってもう緊張の糸がパーンと切れて周りが引くくらい泣いた!わんわん泣いて気持ち悪かったと思うよ。いいおっさんが!笑

最後の営業日の写真が欲しいと伝えると、載せていい写真がこれしかないと言って一枚くれた。ベレー帽を被っているのが田中。

ー飛田
それヤバイですね!
全然思ってた展開と違う!
何かわかんないですけど、多分理屈じゃないって事なんですね!

ー田中
その理屈は俺もわからんよ!笑
実際その時何でそうなるんかわからんかったけど、「この人にはホンマに敵わん」と思ったよ!笑
何か言葉とかじゃなくて、自分をストレートにぶつける人じゃけえさ、理屈じゃないんだろね。
もうガーっと持ってかれて、わけわからんくらい嬉しかったのよ。
店が無くなるって皆、お客さんとか来てくれとんのに、一人だけそれが嬉しくて馬鹿みたいに泣いて全然空気読んでないよね!!!

ー飛田
確かに周りからだいぶ浮いてますね!!!笑

ー田中
きっしょいし、すげー自己中よね!
なんかゴールデン街って凄い自分にとって特別なとこでさ、ブライアンBARで働いて色んな人に世話になって育ててもらったとこだったのよ。
18歳で実家を出とんじゃけど、何かそんな感じの自分にとって大切な場所に、今戻らにゃ一生失ってしまうと思ったんじゃろうね。
確か次の日が劇場入りの日とかだったと思うんじゃけど、久々にカウンターにも入って結局朝までやったんよ。
場所は無くなったけど、失いたくないと思える人たちに出会えた事は凄い大きいね!

ー飛田
なんか凄い良い話聞きました!!!

ー田中
いい話っぽく喋ったけえねぇ。


インタビュー初日はここで終わった。

飲むほどに話すスピードが上がるのが田中惇之だ。のべつ幕なしに喋り倒す。

しかし、こちらの様子や田中の声が届く範囲の人の反応を察知しては話しの調子を変える。

そして突如ふざけはじめる。インタビューなのにこちらに話を振ったり、その辺の子ども達と遊んだりして話を脱線させる。

途中で田中惇之と言う男は恥ずかしがり屋なんだと気付き、これは田中の照れ隠しなんだと思いながら、田中の作ってくれた緑茶ハイを飲む。

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