無名の俳優が魅せた覚悟【インタビュー②】
俳優 田中惇之が2021年12月に一人芝居を上演。
年末の本番に向けて稽古中の2021年夏に、その心境をインタビューしてみた。
「無名の俳優」である彼の生き様を通して、その魅力を紐解いてみようと思う。
前回からの続きで、初めて一人芝居と言うジャンルに足を踏み入れた時の話だ。
生まれた価値
ー飛田
MCを頼まれたイベントで一人芝居をやる事になったわけですが、そもそもどんな経緯で歌舞伎町のイベントでMCをやる事になったんですか?
ー田中
そのイベントを企画したり開催したりしていたお店ってのが、当時僕がバイトをしていたお店で、まだオープンしたばかりだったからコンセプトも何も「これから皆んなで創って行こう!」と言う感じだった。
ゴールデン街の系列店に入ってたんだけど、その仲間と一緒にお店をやったりイベントを創ったりするのがむちゃくちゃ楽しかったから「辞める」と言う選択肢を考えた事はなかった。
舞台の稽古やら本番やらで年間のスケジュールがてんやわんやだったから、ほとんどバイトには入ってなかったんだけどね。
ー飛田
じゃあイベントも時給だったんですか?
ー田中
でもね、2日目のイベント後にオーナが「時給じゃなくて、ここで一人芝居やって稼げばいいじゃん」って言ってくれた。
ー飛田
出演料が支払われるようになったんですね!
ー田中
そうじゃなくて「一人芝居の企画立ち上げちゃえよ!」って事だったと思うよ。
「ここを、お前のパフォーマンスが観られる場所にしたらいいじゃん」って。
これは自分の人生で何番目かに入るくらい嬉しい言葉だった。俳優としての自分にようやく価値が生まれたと思った瞬間だったね!
俳優と仕事
ー飛田
実際に観た人から発展するのはかなり嬉しいですね!
ー田中
「初めてちゃんとお金の匂いがした」って言われた!笑
確かに普段は作品の中の役としての評価だから、その舞台や映像作品を企画したり創った人の作品の中での評価だけど、自分で書いて自分でやってるから、個人が評価されたような気になって嬉しかったよ!
で、今は更地になったんだけど、歌舞伎町にJimushono1kai ってお店があって、そこで一人芝居を一年間上演させて頂ける事になったんよ。
ー飛田
俳優の仕事ってそんな感じで決まるもんなんですか!?
だいぶアツいですね!!!!
ー田中
そんな感じなんかな?笑
でも自分で脚本書いて自分でやった作品を、実際パフォーマンスを観て、気に入ってくれた人が与えてくれた機会を、ホンマに大切にしたいと思ったね!
そしたら急に得体の知れないプレッシャーが生まれたのよ!笑
あのとてつもない恐怖の正体は何だったのかね!?
ー飛田
あ〜、なんか責任感みたいなのが出て来たんですかね?
気に入ってくれた人をガッカリさせたくないとか?
ー田中
じゃあそれで!笑
確かに、初めて上演した時は「ウケるかどうか」と「出来るかどうか」しかなかったから、もうとにかく「やる」しかなかった。笑
普段は「誰かが企画した公演」の「誰かが書いた作品」に出演している自分が、これからは「自分で企画」して「自分の作品」を「上演」する。
更に「自分で値段をつけて」そこに自分でお客さんを呼ばなければならない。つまり作品がおもんなくても、下手クソって言われても、なーんにも逃げ道はないし、お客さんが呼べなかったら自分が食えんだけじゃろ?
「芝居で飯を食う」と言う駆け出しの頃からの目標が目の前に突如現れたのに、同時に全責任がドカっと現れた瞬間ビビってしまって、一人芝居もロングラン公演も全然やりたくなくなったんよ。笑
岡本太郎と3000円
ー飛田
すごく意外なんですけど、結構繊細なんですね!笑
ー田中
やってみ!むっちゃ怖いよ!!!笑
もし俺が岡本太郎だったら、そんな責任感なんて何も感じずやりたい放題やっていたんだろなぁ〜
…はっ!!!
岡本太郎…!!!!!
「怖かったら怖いほど、逆にそこに飛び込むんだ」
彼はこんな言葉を残している。
俺は今、ビビっている!
自分で書いた作品を自分で演って、そんなものに値段をつけてお客さんを呼ぶと言うのが怖くてたまらないわけだ!!!値段だ!一番のネックはそこだ!!と思ったわけ。笑
ー飛田
急に一人芝居始めますね。笑
ー田中
上映時間40分に時間を割くお客さんの一日のプランニングの事を考えたら、安けりゃいいって事でもないじゃない!そんなものに時間は割けない!おいおい!そんなもん芝居で大満足させたらえかろう!?いやいや、そんな力がわしにあるんか?ほいじゃあどうやってこれで生活していくんや?そりゃバイトで…
こらっ!店にお客さん呼んで、お芝居観てもろおて、それで生活するんじゃないんかいっ!?
ー飛田
笑
ー田中
3000円。
これは俺がリスペクトする俳優さんがご自身の団体で、どれだけ劇場が大きくなっても、これ以上お客さんからは貰わないと頑なに決めている値段だ。俺は自分の芝居に3000円の値段をつけた。
ー飛田
戻ってきましたね。笑笑
ありがとうございます!笑
チケット代の相場ってよく知らないんですけど、どのくらいするもんなんですか?
ー田中
ピンキリじゃけど、3000円だと一般的な小劇場のチケット代より少し安いくらい!
つまり、自分の一人芝居を観に来て下さるお客さんに対して「このくらいのクオリティは必ず保証します」と宣言するわけ。笑
そしたら余計に一人で舞台に立つのが恐ろしくなってね、まさに「怖かったら怖いほど、逆にそこに飛び込むんだ」状態になったわけよ!笑
逆境と反響
ー飛田
自ら岡本太郎状態に追い込んだんですね!!!
ー田中
うん、でも本番前はそのプレッシャーで毎回ゲボ吐いてた。
ー飛田
リアルでですか?
ー田中
まごう事なき本物のゲボ。
ー飛田
ゲボ吐きながらも、一年間の一人芝居が始まったんですね!笑
反響とかあったんですか?
ー田中
ゲボの反響?
お客さんは連日満員御礼だったよ!笑
口コミで広がったし、演劇人やら飲み友達が沢山来てくれて、まだオープンしたてで、店のコンセプトとかも定まってなかったけど、お店のお客さんが芝居観てくれて、芝居観に来た人がお店を知ってくれて、なんかこのまま広がってったら素敵だなぁ〜って。
無名であるはずの俳優が一年間、舞台の本番と稽古でバイトが出来ないほどスケジュールが埋まっていると言うのに驚いたが、俳優と言う仕事の形態が少し垣間見えたような気がする。
次回のインタビューでは、その業務形態から生まれた軋轢が、一人芝居への思いを熱くする。