【書評】ブレストでは最高のアイデアは生まれない「THINK BIGGER 『最高の発想』を生む方法」
久しぶりの書評は、今年最初に読んだ、「THINK BIGGER『最高の発想』を生むための思考法」です。
マーケティング施策のアイデア出しに行き詰まって悩んでいる時に、書店でふと見つけて手に取りました。
この本を読めば、天才の特権だと思っていた、最高の"ひらめき"を誰でも生み出す方法を学ぶことが出来ます。
筆者のシーナ・アイエンガーさんはコロンビア大学ビジネススクールの教授で、経営思想界のノーベル賞「Thinkers50」に4度選出されています。前著『選択の科学』はベストセラーとなり、日本でもNHK「コロンビア白熱教室」として番組もされました。
"ひらめき"に関する誤解
あなたは"ひらめき"と聞くと、どんなシーンを想像するでしょうか。
・木から落ちるリンゴを見て万有引力を発見したニュートン
・浮力を発見しお風呂で「ユリイカ!」と叫んだアルキメデス
"ひらめき"と聞くと天才達の頭に突然降ってくるもののようなイメージがありますが、著者はそのようなひらめきを否定し、アイデアに関する様々な通説を否定しています
ブレインストーミングでは最高のアイデアは生まれない
まず、会社でアイデア出しをやるとなった際にまず行うのはブレインストーミングだと思います。チームで様々な意見を出し合い、否定せず、どんどん発想を広げて、アイデアを付箋に貼っていく…
新しいアイデアを生み出すことが出来そうですが、著者はこのブレストの効果を否定しています。ブレストは自分の頭の中にすでにある知識を洗い出しているだけで、新たな発想は生まれないそうです。
また、シャワーの最中や森の中を散歩している時にふとアイデアが浮かんでくるという話も聞いたことがあるかもしれません。
そういった天からの啓示的なアイデアはとても重要に思えてしまいますが、タスクに集中していないときに出てくるアイデアは、その時はすごい発見に思えても後から見るとそんなに役に立たないそうです。
優れたアイデアはどんな時に生まれるか
では、優れたアイデアはどのようにして手に入れることが出来るのでしょうか。
筆者は、イノベーションとは「古いアイデアの新しい組み合わせ」だと定義しています。
ニュートンの万有引力もピカソの画風も、全く新しいアイデアではなく、既にあった他人の理論や作品を組み合わせたものにすぎないと指摘しています。
これは思考系の本の中で古典中の古典である「アイデアのつくり方」と同じことを言っていますね。
既存のアイデアをうまく組み合わせるために必要な事は、好奇心と粘り強さだと筆者は述べています。
自分が関係する領域だけでなく、専門外の分野についても好奇心をもって学び、知識を増やしまくる。
そして解決したい課題に対して熱意をもって、粘り強く様々な組み合わせを組み合わせて、検証を繰り返す。
ひらめきは右脳、知識は左脳で、使う脳が違うと思っていましたが、知識の量がひらめきを助けるというのはとても新鮮な学びでした。
「最高の発想」を生む6つのステップ
「最高の発想」を誰でも生み出すことが出来る型は、以下の6つのステップに分かれています。
課題を選ぶ
課題を分解する
望みを比較する
箱の中と外を探す
選択マップ
第3の眼テスト
1. 課題を選ぶ
まずはステップ①「課題を選ぶ」です。
何かを考える際に、まず解決策に飛びついてしまいがちですが、その前に、解決すべき課題を見つけることが何よりも重要です。
「イシューからはじめよ」でも、”まずすべきは本当に解くべき問題、すなわちイシューを「見極める」ことだ。”とあります。
まずは思いつく課題を紙に書き出してみましょう。僕はよく戦略やコンセプトを考える時、付箋やはがきサイズのカードを買ってきて、まず課題をリストアップしています。
リストアップする中で筋の良い課題を見つけたら、次はその課題の階層を上げ下げして、自分が取り組めるレベルの課題に落とし込みます。
例えば、課題が「仕事の効率性を上げるには?」だとしたら、下記のように階層を上げ下げしていきます。
仕事の成果を高めるには?
↑ 階層アップ
仕事の効率性を上げるには?
↓ 階層ダウン
仕事中の集中力を上げるには?
このようにして、これなら解決できる!と思えるレベルの課題を特定していきます。
2. 課題を分解する
続いて2つ目のステップが「課題を分解する」です。
①で設定した課題をメイン課題とし、それを分解してサブ課題とする事で、まず取り組むべき具体的な課題を炙り出します。
先ほどの例で考えると、
メイン課題:仕事の効率性を上げるには?
サブ課題1:作業を早くするには?
サブ課題2:無駄な仕事を減らすには?
サブ課題3:仕事の優先順位を上手くつけるには?
といったような形です。こうすることで、サブ課題を考えていく過程の中ですでに存在する解決策が見え始めてくるそうです。
3. 望みを比較する
サブ課題をリストアップして、重要だと思える5つのサブ課題を特定出来たら、3つ目のステップである③「望みを比較する」に進みます。
このステップを通じて、「そもそも本当に自分はこれがやりたいのか?熱意を失わず最後までできるのか?」や、「これを解決して周りの人にベネフィットがあるのか?独りよがりになってないか?」などを確認し、解決策を最終的に選ぶ基準を作ります。
このステップでは、「解決策を考えるあなた」・「解決策のターゲット」「競合や協力者などの第三者」それぞれが望んでいる事を比較します。
伊藤忠の三方よし的な感じですね。
4. 箱の中と外を探す
次は、4つ目の④「箱の中と外を探す」です。
この4つ目のステップでは、ステップ②で考えたサブ課題について、先行事例を探索していきます。
この先行事例を探すときにとても重要なのが、領域内だけでなく、領域外からも事例を探してくることです。
イノベーションに必要な「好奇心」の出番です。
領域外の多様な戦術を取り入れることで、アイデアをより強力なものにすることが出来ると筆者は述べています。
本書では、領域外の事例を元に成功を収めた例として、ネットフリックスが挙げられています。
ネットフリックスの創業者は、レンタルビデオの延滞金が家で映画を楽しむ際の障壁の一つになっていると感じ、スポーツジムの月額会員制という領域外のアイデアに目をつけ、組み合わせたことによってネットフリックスの仕組みを確立したそうです。
僕の会社でも、よく「Steal with pride」という言葉が出てきます。盗作やパクりというネガティブな意味ではなく、いいアイデアを見つけたら、積極的に模倣しろ!という意味です。
5. 選択マップ
参考に出来そうな先行事例を見つけたら、ステップ5の⑤「選択マップ」へと進みます。
ここでは、ステップ④で探した戦術同士を組み合わせて、最強の組み合わせを探していきます。
まずはタテに②で挙げたサブ課題、ヨコに領域外の事例を一つずつ並べて対戦表のようにします。
そして、それぞれのサブ課題と事例同士を組み合わせて、その課題の解決策を一行コンセプトのような形で考えます。最終的に、3つくらいの解決策に絞ります。
6. 第3の眼テスト
これまでのステップを踏んで解決策を考えたら、最後はステップ⑥「第3の眼テスト」です。
ステップ5までは、基本的に自分一人で取り組んでいましたが、最後のステップではそれが他人の目にどう映るのか確認していきます。
このステップの目的は、アイデアの良し悪しをジャッジしてもらう事ではなく、他人がアイデアをどう解釈するのかを理解し、アイデアをさらにブラッシュアップさせる事です。
まとめ
それぞれのステップは、課題を見つける、ブレイクダウンする等、他の書籍等でも見聞きしたことがあることでしたが、このように型として整理されたおかげで、とても取り組みやすいなと思いました。
MECEやロジックツリーなどのコンサル的なアプローチだけでなく、こういったアート的な要素もたまに取り入れることで、新たな発見が生まれるかもしれません。
自分も近々、ブランドの3か年戦略を策定する大きなミーティングがあるので、早速このTHINK BIGGERの型を使って戦略づくりに役立てたいと思います。
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