6.大文字山から京都を見下ろす。ホルンフェルスと桜石を求めて。
京都盆地の3大地質であるチャート、花崗岩、そしてホルンフェルス。これらが理解できれば、京都の達人に近づきますよ。きっと。
比叡山と大文字山の間は花崗岩地帯で、長年の風化侵食作用で窪んだ形をしています。その両側は、約9800万年前にマグマが貫入したことで熱変性作用を受けてホルンフェルスという硬い岩石になった場所。ホルンフェルスは浸食作用に耐えて比叡山と大文字山となって残っているのです。ちなみに、約9800万年前というのは、まだ日本列島が存在していない頃の出来事です。
上の図は花崗岩とホルンフェルスの概念図です。ネンバン(粘板)岩とは泥質の岩石のこと。大文字山は粘板岩ホルンフェルスといわれる硬い岩石で構成されています。
上の動画は大文字山まで歩いたGPSデータをスーパー地形で3D化したものです。コースと所要時間のご参考に。地質を見ながら歩いていますのでかなりスローペースです。
尾根筋にあるホルンフェルスと桜石を求めて。
大文字山に登る前にチェックしてもらいたい場所が、通り道でもある銀閣寺の山門前です。
銀閣寺の山門前の敷石にはホルンフェルスが使われています。その中で探してもらいたいのが白い班点模様がついた石。
この白い班点が菫青石《きんせいせき》といいます。菫青石とは、泥質岩が熱によって変成作用を受けた時にできた鉱物で、桜の花びらの形をしたものもあります。それが桜石といわれるものです。桜石に関しては後半に詳しく解説します。
銀閣寺の北側にある川沿いの道を歩いていきます。
この橋を渡ると登山道です。矢印の標識がわかりやすいのでありがたい。初めてでも迷うことなく登れると思います。
足元が悪い場所がありますので、履き慣れた歩きやすい靴がいいと思います。
千人塚です。戦時中に軍がこの辺りを掘ったところ応仁の乱の頃と思われる人骨が多数出土したことから、供養のために石碑が建てられたそうです。
ちょっとしんどいですがこれを登ると火床《ひどこ》です。
ここが京都盆地を一望できる大文字山の火床。正面奥の森が御所、その手前が吉田山、その左手前がくろ谷の金戒光明寺の森です。
火床の最上部がここ。できることなら天気がいい日がお勧め。雲の影がかからない日は見晴らしが最高です。
火床から尾根筋に向かう途中にゴツゴツした硬い岩が現れました。かなり硬い堆積岩です。割れ目も鋭く粘板岩でしょうか。
尾根筋はこのような道ですので歩きやすいです。足元にも気を配ってみてください。ホルンフェルスの石を見つけることができます。
黒っぽくてツルツルしている岩がホルンフェルス。途中にあった堆積岩とは色も質感も異なります。
これもホルンフェルス 。表面が白っぽく見えますが、水に濡らすと黒っぽくてツルツルしています。
これは少しざらざらしていますがホルンフェルスです。穴は菫青石《きんせいせき》が風化して凹んでいるのだと思います。
上のホルンフェルスにも水をかけてみました。よく見ると下のほうにある白っぽい窪みはわずかに桜の花びらのような形をしています。
さて、大文字山の山頂にたどり着きました。
正面奥には東山三十六峰南端の稲荷山が見えます。右手に京都タワーが小さく写っています。左の平野は山科盆地です。
手前にあるのが三角点。ここまで下からゆっくり石を見ながら歩いて2時間程度です。ここでお弁当を食べている方も多かったですが私もここで腹ごしらえを。
帰りは途中から違う道で下山しました。法然院方面へ向かいます。
目的はもちろん菫青石探し。こちらの菫青石は花っぽい模様をわずかに感じます。
これも菫青石です。大柄な模様です。右側の石は風化した部分が窪んでいます。泥質の岩は全てが同じものではないので風化に対する抵抗が石によって異なるのかもしれません。
ちょうど法然院の境内の裏側に降りてきましたので、ちょっと立ち寄りました。
山門を入ると両側に白い盛り砂がありますが白砂壇《びゃくさだん》といいます。白川砂を使っているのでしょう。敷石も印象的ですね。
こちらで探す石ももちろんホルンフェルスと菫青石です。よく見ると菫青石の部分が盛り上がって周囲が凹んでいます。風化にもいろんな形があるようですね。
菫青石の桜石を求めて亀岡へ
大文字山では桜の形をした菫青石を見つけることができませんでした。そのフラストレーションを解消するために桜石で有名な亀岡市の桜天満宮に行ってきました。
かつての境内では桜石がすぐに見つかったようですが、いまでは見つけるのがなかなり困難です。
なぜ境内から桜石が見つかるかというと、右手の斜面の上から転がってくるのだと思います。
境内をいろいろ探してみたのですが大きめの岩石に菫青石が風化した跡があるのも見つけました。
さらにこんな石も。桜の花びらとは違う形ですが菫青石です。周囲にも小さめの白い菫青石はわずかに残っています。
亀岡市の桜石は大正11年に国の天然記念物に指定されました。現在の産出場所は柵で厳重に守られています。かなり荒らされたと聞きました。
天然記念物 稗田野村菫青石仮晶《ひえだのむらきんせいせきかしょう》の石碑。落ち葉で隠れて分かりませんでしたが、桜石が産出する露頭があるのでしょう。
柵の外側を探してみましたが、ひとつだけ見つけました。中央の白っぽい石が桜石です。
実は山の麓で林道の工事をしている場所に転がっている石にも花びらの形をした菫青石を見つけました。山の広範囲で見つけられるのかもしれません。
亀岡市文化資料館に展示されている桜石です。桜石は花崗岩と粘板岩との接触面に、アルミナ・マグネシア・けい素などが結晶してできた六角柱状透入三連晶であると記されています。
周囲の岩の質にもよるのでしょうが、この六角柱の結晶のみがポロンと剥がれたものが石碑があった産出場所や桜天満宮の境内に落ちていたのだと思います。
よく見ると六角でもいろんな形をしていることがわかります。ホルンフェルスを見かけることがありましたら、菫青石もぜひ探してみてはいかがでしょうか。