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公園の天使

公園に光はあふれていた
ベンチでランチを広げる人
走り回る子どもたち
ひなたぼっこの老人

だが光あるところには影もある

公園の入口で
男女が向かい合って立っていた
もう三十分も動かないでいる
ふたりの距離は
手を伸ばせば届きそうで届かないくらいの
ふたりの間に
天使が立ってふたりの手をつながせるのにちょうどいいくらいの
だけど天使はふたりの間には立たない
少し離れたベンチに腰かけて
ふたりを見つめている

女の顔は目に見えて曇ってくる
やがて彼女が
肩にかけた鞄に手をやり
体の向きを変えようとしたそのとき
男の顔がゆがんだ
彼は泣いていた

天使に迷いが生じた
ふたりの間に立つにはもう
遅すぎる気がして
飛び立つにも飛び立てず
天使は見ていた

それから冬の早い日暮れが訪れた
公園のゲートが閉まる
ふたりがどこに行ったのか
私は知らない
私は天使ではないので
おなかが空いてしまったから

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石渡紀美(イシワタキミ)
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