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パリはいじわる、だけど人はそうでもない、という詩

シャトレ駅はいじわるだ
たくさんのメトロとRERが停まる
だけどすぐに乗り換えられると思ったらおおまちがい
とにかくやたらと歩かせられる
階段を登ったり、降りたり
動く歩道がある通路はものすごく長い

新宿も渋谷も変わったが
とにかく矢印を追えばなんとかなるようにつくられている
日本の駅は親切だ
だけどパリでは矢印が突然消えたりする
本当はどこかに書いてあるのかもしれないが、とてもわかりづらい
私はそれで実際に地下道を3回も行ったり来たりした
地下通路に座っていた物乞いが見ていた(気がした)

もう地上に出て歩いちゃった方が早いと思いながら
雨の日は、ぬれるよりはいいかと
たくさんの人がイライラしながら地下を移動する

あれはわざとああいうつくりにしているんだとレナは言う
人が集中しすぎないようにって
シャトレ駅ってきらい
とレナに言うと
「好きな人なんていないわよ」だって
なんだかシャトレ駅がかわいそうになった

パリはよそ者にやさしくない
だが人はそうでもない
新橋のサラリーマンみたいに
降りる人がいっぱいいる駅なのに
電車の乗降口で踏ん張って通せんぼするようなことはしない
地下通路で若い女性を狙ってぶつかってくる人もいない
それどころか階段で娘のスーツケースを持ってくれた人は何人もいる
メルシーボクー、ムッシューとお礼をいうと
その若者は片手を胸に当てて黙って立ち去った

パリの美は人工的な美だ
美しい街というコンセプトを体現したパリ
マンハッタンから毎年パリに通う老夫婦がいる

老いたパリジェンヌは歴史を求めてローマに行く
パリは、振り返りたくない歴史の上に、それなりの歴史を重ねはしたが
地下に眠るものを隠し通すことはできなかった
そこでパリは入場料をとってそれらを見世物にすることにした

「学生か金持ちならパリは最高」というレナは
両親が5人の子どものために購入したアパルトマンの一室に住んでいる
家賃を払っていたらとてもやっていけない
どんなときにストレスを感じる? と聞いたら
「メトロに乗っているとき」というのが彼女の答えだった

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石渡紀美(イシワタキミ)
楽しいことをしていきます。ご一緒できたら、ほんとにうれしいです!