<哀しいショートストーリー「あるなしクイズ」>
きょうも残業。当然プラスでお金がもらえるわけではない。自分が仕事できないのが理由だから。
まもなく40代に突入するというのに、仕事で結果を出すことができず、同期どころか後輩にも追い抜かれ、時代の進化にも付いていけず、やっと覚えた最新機器の取り扱い方も、来週から新しい機械が入るそうだ。
『はぁ~』
深~い、深~いため息は止まらない。
「ちょっと柴田さん、深いため息ついてどうしたんですか?」
『えっ、いや別に、いや、その~』
「元気出してくださいよ~。ため息付いてたら仕事覚えられるわけじゃないんだから」
『うん、そうだね』
どんどん距離を詰めてくる後輩の宮崎。唯一僕に話しかけてきてくれる後輩。ただ俺は知っている、こいつは自分より下の奴と喋って優越感に浸りたいだけだということを・・・。
「柴田さん、<あるなしクイズ>考えたんですけど、挑戦します?」
『いや、ちょっと仕事が溜まってて、今度にするよ』
「えぇ~、やりましょうよ~。柴田さんのために考えたんだから、ね?ね?ね?」
『じゃあ、ちょっとだけ』
「はい、いきま~す!
<ドクターにあって、レンタルビデオ屋の店員にない>」
『えぇ~、全然分かんないなぁ』
突如始まった終電が迫る中での<あるなしクイズ>、
この時間は一体なんなんだ。
「<保育士にあって、データ入力作業員にない。>
<俳優にあって、映写技師にない>」
宮崎の繰り出す<あるなしクイズ>は止まらない。
『いやぁ~、ちょっと難しいなぁ~。まったく見当つかないよぁ~。ヒントある?』
「ヒントは~、時代かな~」
『時代、難しいな~』
「次行きます!
<向上心の高い男にあって、家でゴロゴロしている男にない>
<電子マネーにあって、クレジットカードにない>」
『えぇ~、全然分かんないなぁ~』
「じゃあ最後のあるなし行きます!<俺にあって、柴田さんにない>」
『俺にないもの、いやぁ~、まったく分からないなぁ~』
「ちゃんと考えてます?」
『考えてるけど、全然出てこないよぉ~、もう正解教えてよ』
「答え一個も言ってないじゃないですか~」
『だって分かんないんだもん』
「柴田さんにないものですよ?」
『いやまったく分かりません、降参です』
「柴田さんにないものですよ?」
『いや、本当に分かんない』
「はい、じゃあ正解言います!」
『お願いします』
「はい正解は、ないほうには、<未来がないです!>」
ひとり~の小さな手~♬なにもできないけど~♬それでもみんなの手と手を合わせれば♬何かできる♪何かできる♪