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【テロ本】文学はテロを起こす?「風流夢譚事件」。

テロを招き、
人を殺してしまった本があります。
悲しいことに、たとえではありません。

作家は、深沢七郎。
姥捨山伝説を甦らせた
『楢山節考』で
1956年にデビューした
ちょっと風変わりな作家。

最近は『人間滅亡的人生案内』が
なぜかまた売れてます。

なんというか、
人生や人間や社会をどこかで
骨抜きにしてしまう
阿呆らしさがありました。
良い意味で、ですが。

この異端児作家が
1960年『風流夢譚』という作品を
中央公論社で出します。
一人の男が街を歩いてたら、
左翼グループと皇室の人が
言い争いしたりする…
そんな夢をみる話でした。

あまりに荒唐無稽で、
中身もありませんが、
あるとしたら、
左翼も天皇性もどちらも
ムキになって歪み合うのは
バカみたいだよ、、、、
まあ、左翼活動で社会は
浮き足立ち、
まさに安保闘争真っ最中。
それに対して、
学生運動なんか止めたがいい、
というんですから、
時代の空気に冷や水を
かけるような意味は
込められていたでしょう。

時代的には、
美智子上皇が、時の皇太子と
結婚したミッチーブームの
真っ最中でもありました。

そこへ、
時の昭和天皇妃が
街を歩いて公園で
左翼グループに
罵詈雑言を浴びる、、、
また、別の箇所では
時の皇太子夫妻が
誰かに殺されて
遺体がゴロンと横たわってる。

こうなると、
左翼はともかく、
右翼が騒ぎ出しました。
そして、ヤバいヤバいと
警戒態勢の中、
怒りに燃えた17才の少年が
中央公論社の社長宅に
ナイフを握りしめ、
社長夫人やお手伝いさんを襲い、
一人は絶命させ、
もう一人は傷をおわせました。

その後、
深沢七郎は、深夜に会見をし、
汚い言葉を使いごめんなさい、
と言い残したあと、
右翼から隠れるため、
約5年、日本を放浪します。

この事件から、
日本の小説では、
過度に、皇室の人が描かれなく
なりました。
萎縮してしまったんですね。

アメリカの小説で
エリザベス女王をめぐり
会話されるのに比べて
日本の小説は皇室を避けてきました。

「風流夢譚事件」は
いまも大きな影響を残したと
言えるでしょうね。

うっかり、では済まない
筆による災厄を招きました。

深沢七郎も、
5年もの歳月、逃亡の日を
余儀なくされたとはいえ、
中央公論社の社長宅の
お手伝いさんは殺されました。

ちなみに、
当時、大江健三郎も、
右翼少年が自慰して
天皇万歳と叫ぶという、
訳のわからない小説を書いて、
右翼から睨まれ、
それから守るため、
大江には警備がついていたそう。

なんだか、書いてても、
こちらまでおかしくなるような
混沌とした狂気の凄さが
台風のように日本を
襲ってたのが感じられます。
阿呆らしさの台風が、、、。

ちなみに、この『風流夢譚』は、
反省した深沢が長い間、
誰にも読めないよう、
絶版にしていましたが、
本人の亡き後、
家族が歴史的な存在として、
絶版から解禁し、
今はKindleで誰でも読めるように
なりました。
が、今はこれを読んだとして、
作者家族を右翼が狙う、
という話もききません。

日本も少しは成熟したのかな。

深沢七郎は
映画になってカンヌ映画祭で
受賞までした「楢山節考」や
「みちのくの人形たち」、
『言わなければよかったのに日記』
など、良い本も沢山あります。

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