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本好きのあたりまえは世間のあたりまえじゃない


先日、この投稿にいいねをたくさん頂きました。

これはX用に盛った話ではなく、まったくの実話です。
普段本を読まない人と話していた時に、「文庫ってなんなんですか?」と聞かれて、答えに窮してしまいました。
「えーと、大きさが小さくて価格も安くなった本ですかね…?」
とふんわりした返事しかできなかったんですが、この出来事は自分の中で印象に残っています。

ポイントは二つあって。
①自分の中に「文庫」という言葉は誰もが知っているはずだという過信があったこと
②自分自身も「文庫」の定義をちゃんと理解できてなかったこと。

やはり①が大きかったですね。
心の中で、「文庫」ってみんなに通じるものだと思っていました。でもそれは出版業界に勤める者の奢りであって、そんなことあるはずないのです。

僕はガンプラ作りが趣味ですが、ガンプラには精密さや値段が異なるグレードがあって、HG(ハイグレード)、MG(マスターグレード)、RG(リアルグレード)などが存在します。
ガンプラを始めた時はぜんぜんわからなくて「RGってなんなの?」と友達に聞いたものですが、あれとまったく変わりません。

作り手として読み手として、本ってなんだか特別なもののように思ってしまうときがあります。人生を変えるし知識も得られるしカッコいいもの。そんな感覚を心のどこかに抱きがちですが、本はただの本なんです。本とガンプラの価値はどちらか優劣があるのではなく、どちらも等価。
個人的な感情として本が特別なものであってほしいけど、それは個人の感覚だなんだと、当たり前のことを教えられました。

同時に②にも気づかされました。
こんな偉そうなことを言ってますが、「文庫」の定義についてきちんと答えられないんです。
〈カバーとか紙の規格を統一・簡素化して、値段を下げている本〉という認識ですが、サイズも出版社によって微妙に違いますしね。

ちゃんと調べてみたら、こう書かれていました。

A6判(148ミリ×105ミリ)の出版物で、装丁をそろえた紙表紙の軽装・廉価なシリーズのこと。「文庫」は叢書(そうしょ)名としてよく使われ、その場合、大きさはB6判、新書判、またはB7判までいろいろだが、文庫本とよぶときはA6判のものをさすのが普通である。値段を低く抑えるために可能な限り簡素な体裁にし、大量に普及させる目的で選ばれた出版形式である。

日本大百科全書(ニッポニカ)

まあ概念としては合ってたみたいです。
ちなみに日本で初めて創刊された文庫は岩波文庫だそうな。

「文庫」はまだなんとなくイメージがつきますが、「新書」って何?と聞かれるとよくわかりません。長ぼそい形の本…?みたいなことを言うしかない。

なお、調べるとこういう意味だそうです。

文庫本 (A6判) よりやや大きい小型本の通称。 1935年7月にイギリスで,それまでのハードカバー (堅表紙) に対してペンギン叢書という文学中心の安いペーパーバックス (紙表紙本) の叢書が発売されて大成功を収め,37年には教養書や科学書のペリカン叢書も発売された。日本では岩波書店がそれを手本にし,38年 11月「岩波新書」 20点を同時に発行した (当時の定価1冊 50銭) 。そしてこの岩波新書の成功で,新書という言葉も日常語になった。

ブリタニカ国際大百科事典

文庫も新書も岩波書店が初なんですね。岩波書店すげえ、という感想になりますが、やっぱりサイズで名前が分かれてるみたいです。
結局「新」ってなんなん?というのはさておいて。

話が横道にそれましたが。
これらの文庫・新書は手軽さや安価が売りなので、本来的にはマス層や普段本を読まない人も買いやすいように作っているところがあります。
それこそ「文庫ってなんなんですか?」と聞く人に手に取ってほしい形態なんですが、その人たちがその言葉にピンと来てないのであれば、僕たちの届け方も見直したほうがいいのかもしれません。

「ついに文庫化!」
「あの話題作、待望の文庫化!」

みたいな帯や広告のコピーをつい作りがちで、それは本好きの人への訴求としては一定の効果があると思いますが、もっとマスを狙うのであれば、ぜんぜんピンと来ていない言葉になってしまっているのではないでしょうか。
というかそもそも、本屋さんの文庫売り場とか新書売り場とか、そういう分け方も、本を読まない人には親切でない造りになりつつあるのかも?

もちろん上記は「普段本を読まない人」を対象にした考え方です。「普段本を読む人」にどう次の本を届けるかを考えると、特に疑問を持たなくてもいいのですが、本屋さんが減り、出版が変わっていかなければいけない中で、「普段本を読まない人」にどう本を身近になってもらうかを本気で考えることはとても大事だと思います。

そのためにはまず、「本好きの当たり前は世間の当たり前でない」ということをきちんと自覚したうえで、どう世間に発信していくのか。
そのことを考えていくべきなのでしょう。

逆に言うと、いろんな当たり前が変わっていけるチャンスでもあるのでしょう。
文庫本サイズで単行本みたいな本を作ってもいいし、丸い小説があってもいいし、電子と紙が融合したおもしろいコンテンツを作ってもいいし。
本好きの当たり前の思考にとらわれず、自由に本の面白さを広げていけるといいなと思います。

★★★

<最近読んだ本>
ぶんころり『佐々木とピーちゃん』
異世界転生、賢者の文鳥、異能系、魔法少女にヤンデレ娘も持ってけ! サブカル全部盛りで設定マシマシなのに、うまいこと調和がとれていて、めちゃんこ面白い。情報の出し方がうまくて過多にならず、エンタメとして完成度が高いのよ




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森潤也|文芸編集者
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