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自意識たっぷりな高校生男子が女の子におススメ本を貸した思い出

やっぱり、紙の本が好きなのです。

もちろん電子書籍も並用していますが、本の形態でどちらが好きかと問われると、やっぱ紙の本だな〜となっちゃう。
理由はいろいろありますが、なんといっても「人と貸し借りができる」というのが大きいですね。

※※

ちょうど高校生になりたての頃でしょうか。

なぜか英語の授業で小説の話が出て、だれも答えられなかった著者名をさらっと答えたモリ、というドヤ顔の一幕があったんです。
休憩時間に「すげーやん」とイジられていたところ、ほとんど喋ったことのない女の子から声をかけられました。

「森くん、本に詳しいん?」

女子と話すのに慣れていない僕が「いや、まあ……」とモゴモゴしていると、「こいつめっちゃ本好きやで」と口を挟んできた友達。
ナイスアシスト!

「そうなんや。あんまり本読んだことないんやけど、なんか本読んでみたくなってな。おすすめあったら貸してよ」
「う、うん。ええけど」

その日から、煩悶の夜がはじまりました。

「人におススメ本を貸す」
それはとてつもなく難しい行為です。

本を貸す限りは「面白かった!」と言ってもらいたいけど、読書の好みは千差万別。恋愛小説が好きな人もいれば、ライトノベルが好きな人もいます。ある程度相手の好みがわかっている場合は絞りやすいですが、そうでない場合は暗中模索。手探りと推測で本を選ぶしかありません。
また、本を貸すという行為にはセンスが試される側面もあって、なんかこう「おっ、この人センスいいな」と思われたいじゃないですか。センスってなんやねんって話ですが。

しかも当時は高校生。
思春期の高校生男子が、高校生女子におススメ本を貸すわけですよ。
自意識の塊みたいなお年頃ですよ。

そりゃあもう!
カッコよく思われたいし、センス良く思われたいし、知的に思われたいじゃないですか! 
なんなら本の貸し借りを通じて秘密の交流が始まるんじゃないか……なんて妄想だってしちゃうじゃないですか!(魂の叫び)

夜な夜な悩み、本棚を見ては悩み。
最終的に2週間かけて10冊を選び抜きました。

当時の僕に声を掛けられるなら、こう言います。
「10冊は、やめとけ」

しかし高校生の僕には、それがベストなチョイスでした。
古典名作をおさえつつライトノベルも入れて。恋愛小説に芸能人エッセイ、海外文学。
どんな好みでもカバーできて、ちょっとインテリジェンス(笑)の香りも漂わせちゃうラインナップです。
10冊はちょっと多いかもしれないけど、全部文庫にしたから無茶な重さじゃない。重さ面でもギリギリのラインを追求したつもり。

完璧や……

ほれぼれしながら登校し、そっけなく「はい、これ。おすすめの本」と例の女の子に渡しました。
「めっちゃ面白そうやね、ありがとう!」という反応を期待していた僕ですが、返ってきたのはきょとんとした顔と、「あ、ああ」という微妙な返事。

そうです、完全に忘れられていたのでした。

たぶん、なんとなーく本を読みたくなって声をかけてくれたが、僕がヌルヌル選書をしている間にすっかり記憶から消えていて、なんなら本への興味もかなり薄れちゃっていたのでしょう。
「あー、ありがとうな」
と気まずそうに言われ、僕はすごすごと自席に戻ったのでした。

それから月日が経ち。
もちろん、モリ君センスいいねと言われることもなく、本を通した秘密の交流がはじまることもなく。
10冊の本が帰ってきたのは高校の卒業式の日でした。
「ごめん、全然読まれへんかった……」と謝りながら返され、むしろこちらこそ申し訳なさを感じたものです。

※※

そのとき貸した本のラインナップは、あまり覚えていません。
ただ『若きウェテルの悩み』や『友情』などを入れていたことはたしかで、自意識あふれるチョイスに思い出すだけで恥ずかしくなります。

ただ、僕はこの青臭い記憶こそ、「本の貸し借り」が持つ魅力だと思うのです。それも、紙の本だからこその魅力。

もしかしたら、いずれ電子書籍の貸し借りが容易にできるようになるかもしれません。そっちのほうがきっと便利でしょう。ボタン一つでデータを送ったり送り返したり。
しかし紙の本だからこそ貸す冊数に悩むし、紙の本だからこそ読んでない本を返しづらくてずっと手元で持っちゃうし。
不便さから生まれるドラマもあるはずです。

ほかにも、
悪友がタオルに包んで借してくれたあやしい本。貸してた本が返されたときに挟まっていた「ありがとう」というメモ……。
電子書籍は便利で大好きですが、そこから生まれない何かが、紙の本の貸し借りにはあるような気がします。ただの感傷かもしれませんが。

だからこそ、やっぱり思うのです。
ああ、僕は紙の本が大好きだ、と。

★★★


<最近読んだ本>

岸田奈美さん『家族だから愛したんじゃなくてら愛したのが家族だった
家族だから愛する必要はないけど、愛した人が家族だったら最高ですよね。
いろんな事件が起きる岸田家の物語で、とにかく波乱万丈すぎる日々に圧倒されながらも、それをポジティブに(とくに凹みつつ)のりきる岸田さんのパワーと行動力に元気と勇気をもらえます。
ユーモアあふれてくすりと笑えつつ、ほろりと泣けるエッセイ。軽やかに読めるので、肩の力を抜いて週末に読書するのにピッタリ!


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