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本を読むことは誰かの思想にふれること。知の書店「UNITE」に行ってきた話

本屋さんって面白いんです。

何を今さらという感じですが、小規模の書店や個人書店などが増えて、本屋さんのバリエーションがすごく広がっています。
選書のオリジナリティだけでなく、コンセプトやお店作りから従来の本屋さんの枠を飛び越えているところもあって、本屋さんという存在の可能性がぐんぐん拡張されているように感じます。

それなのに。
思えば、行くのは通勤途中にある大型チェーンばかり。
仕事の新刊チェックとして売り場を眺めるだけで、「本屋さん」という場所にあまり向き合えていなかった気がします。

本屋さんが減っている今こそ、いろんな本屋さんに行くべきではないか。
いろんな本を買って、いろんな人と話して、いろんなことを考えて。
そして、「本屋さんって楽しいよ!」と発信しよう。

そんな当たり前のことを、今年はちゃんとやろうと決意したのでした。

というわけではじめた、「おもしろい本屋さんに行こう」企画
モリが訪れた本屋さんを、誰に頼まれてもないのに勝手に紹介していくコーナーです

今回のお店は、「UNITE」さん
知が詰まっていて、インテリジェンスの空気漂う本屋さんです。
(★写真撮影、SNS公開の許可はいただいております)

※※※

今回ご紹介するお店
「UNITE」

▼(Xアカウント)
https://x.com/unite_books

「潤也よ、分からないことがあったら、詳しい人に聞くんじゃぞ……」というのが、ばあちゃんの口癖でした……。
なーんてことはありませんが、知らないことは知ってる人に聞けばよろしい。

僕も出版業界の中にいるので、一般の方より本屋さん事情に詳しい自負はあります。しかし専門家ではありませんし、最近の新しい本屋さん情報を追えているわけではありません。
素敵な本屋さんを紹介する企画をやりたいけど、どこに行ったらいいのか。そう悩んでいた時にひらめきました。

「本好きのみんなに聞けばいいのだ!」

〈いろんな本屋さんに行きたいので、おススメの本屋さんを教えてください!〉
ネットの集合知であるXでこんな呼びかけをしたところ、優しい人たちがリプをくれて、たくさん本屋さん情報が集まりました。
その中で気になったお店が、今回ご紹介する「UNITE」です。

森潤也(ときどき文芸編集者)(@junyamegane)さん / X
(▲個人アカウントはこちらです。本好きの皆さんフォローしてね)

最寄りは三鷹駅。
南口を出て、中央通りをひたすらまっすぐ歩きます。団地や珈琲店、どこか懐かしい街並みを眺めつつ10分~15分くらい歩くと、白亜のお店が現れます。

壁も扉も真っ白! おしゃれ!

まるで隠れ家的フレンチや、会員制美容室のような佇まい。
本当に本屋さんですか?と不安になるくらいオシャレですが、地面にそっと置かれている「本」という看板に安心します。

ちょこんとした看板がかわいい

足を踏み入れると、すぐに店内が一望できます。複雑な造りではなく、長方形の部屋がドーンと一つ。
壁際の本棚と中央のテーブル島。奥にもテーブル島があります。壁面ではパネル展をしていたり。

本屋さんはどこも整然としているものですが、特にぴしりと整えられている印象。天井のランプや本棚など、アンティークな設えで統一されていて、海外の本屋さんに迷い込んだ気分になります。

全体を一望。ランプが素敵
入り口わきの棚。このランプもエモい

置かれている本のジャンルは、人文・哲学・短歌・専門書など、ちょっと固めが中心。
中央のテーブルには歌集がたくさん並べられていて、なにげなく手に取ると、冴え渡った言葉の鋭さにハッとさせられて短歌っていいな……と思ったり。こうした出会いが本屋さんは楽しいですね。

中央のテーブル棚
歌集がいろいろ。並び方が美しい

ZINEなど一般的な書店であまり扱っていない本も多く、「なんだこの本?」と各所で足を止められます。
中でも気になったのは、鍵のかかった本。

真っ白な分厚い本に、白い鍵。ビニールで包まれており、中を見ることはできません。この鍵を開けないと中が読めない本なのでしょう。

謎の鍵本

お店の方に聞いたら、鍵出版というところが出している『鍵のかかった文芸誌』というリトルプレスだそうです。

 本の中央を貫く鍵穴に、特注で制作したスズ合金の鍵を差し込むことで、外の世界から隔絶された物語の世界を表現しました。本を開く際には、鍵をくるりと回すと引き抜くことができ、外した鍵はスピンに巻き付ければ栞として機能します。  
 また、本文用紙には、収録されている作品ごとに異なる紙を使用。本文の文字組み、フォント、級数も、各作品で変化をつけ、物語の世界に最も適したデザインを追求しました。

鍵のかかった文芸誌 書誌ページより

インタビューや漫画、小説に詩などが収録されており、鍵は外界から隔絶された物語世界を表しているそうな。造本にめちゃくちゃ凝っていて、すっごく面白い!

本に鍵を刺すなんて発想はまったくなくて、作り手の一人として目から鱗の気持ちです。本ってまだまだ可能性がありますね。
欲しかったですが、荷物が多かったのでこの日は断念。また買いにこなくちゃ……

絵本もあります
小説など読み物系も揃ってます

お店の奥に進むにつれ、専門的な本が増えてきます。
奥にあるテーブル島には、フェニミズムやジェンダーの本など。

奥のテーブル。椅子もあり、マジでテーブル

入口から一番遠い壁には、生物系の本や哲学系の本(分厚い!)が並んでいました。ガラス戸に入っている本もあって、本棚が素敵。

謎のオブジェ
ガラス戸がおしゃれ。全体的にアンティーク調で素敵です
壁でパネル展も行われていました
オンラインイベントもたくさん開催されています。詳しくはお店のHPをご覧ください

じっくり店内を拝見して思ったのは、「知」が詰まった本屋さんだなあ……ということ。
人文書多めということもありますが、なにかこう全体的にインテリジェンスの空気があって、一冊一冊にメッセージ性を感じます。
しんとした店内で選ばれし本を眺めていると、自分自身を問いかけられるような錯覚を覚えます。「君はいったいどう生きたいんだい?」と聞かれているような。
そして同時に、「そのヒントはここにあるよ」と囁いてもくれます。

フィクションにしろノンフィクションにしろ、本とは思想の塊だと思っています。
想像したこと、体験して考えたこと、こうありたいと願っていること。書き手の思想が受肉したものが本であり、本を読むという行為は誰かの思想に触れることでもあります。

動画や音声メディアで思想に触れることもできるでしょうが、「話す」ということと「文章にする」ということは少し違いがある気がします。
考えたことを話す。それをより削ぎ落し、よりまとめたのが文章で、集合体である「本」は思想の結晶です。

※どちらが良い悪いという話ではありません。誰かの考えを受け取る手段として、近いけど同じじゃないんだよね、ということが言いたいだけです。

僕だけかもしれませんが、世に情報が増えすぎて本を「消費する」ことが多くなりました。ジャンルに関わらずコンテンツとして扱い、情報をすばやく呑み込むような読書をしがちです。
そういう読書が悪いわけではありませんが、本とは思想の結晶であるというリスペクトが薄くなっていたように思います。

本とは誰かの思想の塊であり、生きた証である。
そして思想の塊をきちんと摂取することで、自分の思想の幅が広がり、人生も豊かになる。

そんなことをあらためて感じさせてくれる本屋さんが、この「UNITE」さんでした。
静かに自分自身に向き合いたいとき、人生のヒントが欲しいとき。ふらりと本棚を覗いてみてください。呼ばれる本が見つかるかもしれません。

ちなみに店内ではおいしいコーヒーを飲むことができるので、そのままカフェ読書するのもおすすめですよ。

喫茶スペース。撮影している影が映り込んでるのはご愛敬
入り口横のカウンタースペース。ここでもコーヒーが飲めるのかな?

★★★

<最近読んだ本>
和氣正幸さん
『改訂新版 東京 わざわざ行きたい 街の本屋さん』

東京+関東の超素敵な本屋さんを、本屋ライター和氣さんが紹介してくれる本。写真もたっぷりで、関東以外の人も見ているだけでワクワクします。
本屋さんが減ってると言われますが独立系書店は増えていて、「こんなとこにそんなオシャレな本屋さんが!」と驚くことも多いです。
いろんな特徴ある本屋さんもたくさんで、このコーナーを読んでくださってる方にぜひおすすめしたい一冊。
お出かけの前にこの本でエリアをチェックして、ちょっと本屋さんに立ち寄ってみるのもきっと楽しいです。みんなで本屋さんに行こう。


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森潤也|文芸編集者
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