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物理でライフ 第2回 圧力って何?

2024年9月17日(火)20:00-21:00
Clubhouse 内で行われた,
さらさら談話室「物理でライフ」第2回目の要約です.

1.「圧力」と聞いて思い出すものは?

Clubhouseで聞いてくださった方々に「圧力」と聞いて思い出すものを聞いてみたところ,チャット欄に次のようなコメントがありました.

圧力鍋,呼吸,脳圧,指圧,立つ(地面に対して圧をかける),ボールに空気を入れる...

なるほど,確かに日常的に耳にする言葉ですね.

「圧力」に似た言葉に「力」がありますが,そもそも「力」と「圧力」はどうちがうんでしょう?そのあたりから,ゆるゆると考えてみましょう.

2.「圧力」と「力」はどう違う?

わざわざ「圧力」という言葉があるということは,「力」だけでは表現できない量があるということなのです.

例えば,みなさんはどちらが嫌ですか?
(どちらも嫌だと思いますが)

・体重50 kgのサラリーマンの革靴で足を踏まれる
・体重50 kgのOLさんのハイヒールのかかとで足を踏まれる

恐らく,多くの人が後者(ハイヒールで踏まれる)は嫌だというでしょう.
同じ50 kgの体重の人に踏まれているのに,どうしてハイヒールの方が嫌なのでしょう?
経験上,後者の方は痛そうだからと感じているんじゃないでしょうか?

この理由をはっきりさせるために便利なのが「圧力」という物理量です.

3.「圧力」の定義

圧力は「単位面積あたりの力の大きさ」として表す物理量です.

「単位面積あたりの・・・」という言葉がよくわからないと思った方もいらっしゃると思いますが,例えば1 m$${^2}$$(1 メートル × 1メートルのスペース)にどれだけの力が加わっているかというのをイメージしてもらえば良いでしょう.

「1 m × 1 m」が大きすぎてイメージしづらければ,
「1 cm × 1 cm」にどれだけ力が加わるかというのを想像していただいても構いません.

式で表すと

圧力 = 力 ÷ 面積

となります.


<参考:読み飛ばしてもOK>
ちなみに力にはN(ニュートン)という単位が用いられます.
1 N(ニュートン)は1 kgのおもりに重力加速度の大きさ9.8 m/s$${^2}$$をかけた値に相当し,
1 N = 9.8 kg・m/s$${^2}$$ ≒  10 kg・m/s$${^2}$$
という値になります.



先ほどの足を踏まれる例を具体的な数字で比較してみましょう.
サラリーマンの革靴のかかとを

5 cm × 5 cm = 25 cm$${^2}$$(平方センチメートル)

ハイヒールのかかとを

5 mm × 5 mm = 25 mm$${^2}$$(平方ミリメートル)

くらいの面積だと仮定してみましょう.
1 cm = 10 mmなので,25 cm$${^2}$$を平方ミリメートルで描き直してみると,

5 cm × 5 cm = 50 mm × 50 mm = 2500 mm$${^2}$$

となります.つまり,革靴のかかとの面積25 cm$${^2}$$は,ハイヒールのかかとの面積25 mm$${^2}$$よりも100倍大きいのです.

同じ体重50 kgによって発生する下向きの力(重力によって地球に引っぱられている力)をそれぞれの面積で割ってみると,踏まれたときの圧力は,ハイヒールのかかとの方が革靴のかかとよりも100倍大きいことになります.どおりでハイヒールのかかとの方が痛いわけですね.

「圧力」という物理量を導入すると「力」では分からなかったことは表現できるわけです.

4.「圧力」の単位

「圧力」を表すときの単位は少し厄介で,とてもたくさんあります.参考までにご紹介すると以下の通りです.

  • Pa:
    1 m$${^2}$$の面積に 1 N(ニュートン)の力が加わったときの圧力
    読み方:
     パスカル
    用途:
     天気予報:hPa(ヘクトパスカル)※ヘクトは100という意味
     (参考)1 気圧は1013.25 hPa(ヘクトパスカル)
     ガスボンベ内の圧力の単位など

  • atm
    読み方:
     アトム,気圧など
    用途:
     気圧の表記など:1気圧(標準大気圧)を1 atmと表します

  • mmHg
    読み方:
     ミリメートルマーキュリー,水銀柱ミリメートルなど
    用途:
     血圧:最高血圧 120 mmHg,最低血圧 70 mmHgなど
     なお,1 atm(気圧) = 760 mmHgです.

  • cmH$${_2}$$O
    読み方:
     センチメートル水中
    用途:
     人工呼吸治療の治療圧力など
     (例)PEEP 5 cmH$${_2}$$O

  • kgf/cm$${^2}$$
    読み方:
     キログラムフォース・パー・平方センチメートル,
     キログラム重毎平方センチメートルなど
    用途:
     昔はガスボンベ内の圧力をこの単位で表していた

その他に
Torr(トール)
 ※mmHgと同じ定義で,
bar(バール)
 ※昔の天気予報ではhPaの代わりにミリバール(mbar)が使われていました.
psi(重量ポンド毎平方インチ)
など,圧力業界の単位はお腹いっぱいになるくらい盛りだくさんです.

物理学の領域では基本的に圧力の単位には「Pa(パスカル)」を使いましょー...ということになっているのですが,急に変更するといろいろと面倒なことになるので,そのまま昔の単位が使われていることもあります.

血圧の単位mmHgなどがその良い例でしょう.長年にわたってmmHgが使用されてきたので,急にPaに変更になると帰って混乱し,医療事故も起こってしまいかねません.

最高血圧が「180 mmHg」といえば,うわっ高い!と,ピンとくる医療従事者も,「24 kPa」と言われてしまうと高いのか低いのかよくわからなくなってしまうでしょう.

5.「気圧」の正体は?

サラリーマンの革靴やOLさんのハイヒールのかかとによる圧力は,具体的な物(革靴やハイヒール)で踏まれている状態なのでイメージしやすかったと思いますが,「気圧」ということになるとピンとこない,イメージできない人もいるのではないでしょうか?

気圧の場合は空気(気体)の重さが関わっていると考えればよいです.

そもそも,空気は窒素の分子(N$${_2}$$)が約79%,酸素(O$${_2}$$)の分子が約21%の割合で構成されています(その他に,二酸化炭素(CO$${_2}$$)などもありますが,窒素や酸素に比べると無視できるくらい少ないです).

その分子がぶつかることによって生じる圧力が「気圧」というわけです.つまり,目には見えないですが,窒素や酸素といった気体の重さがのしかかっている状態です.

6.「高気圧」と「低気圧」

高気圧というのは,頭の上の上空に乗っかっている空気の分子の数が多く,その重さによって地面を押す力が周囲よりも高い状態です.
低気圧は,逆に乗っかっている空気の分子が少なくて,地面を押す力が小さい状態です.
高気圧では地面を押す力が低気圧に比べて大きいので,押された空気は周囲の気圧が低い場所へに逃げようとします.これが「風」の原因です.

飛行機で上空にいるときや高い山に登った時に,お菓子の袋がパンパンに膨れ上がるのを見たことがあるかもしれません.
空の上や山の上はのしかかってくる空気の量が少ないので気圧が低い状態にあります.その一方で,地上で袋詰めされたお菓子の袋の中は地上の気圧(例えば1気圧)のままなので,気圧の低い外に出ようとして袋が膨らむわけです.
飛行機で耳がおかしくなるのも同じ原理ですね.急に高いところに上昇すると,鼓膜の内側と外側の気圧のバランスが崩れるので,耳が痛くなったりするのです.

試しに,気温5℃の富士山の頂上(3,776 m)の気圧を計算してみると(こちらのサイトで計算しました),650 hPaくらいになります.
地上の気圧が1気圧(1013 hPa)とすると,お菓子の袋の内側と外側では1013 hPa - 650 hPa = 363 hPaくらいの圧力差があることになります.
お菓子の袋の面積を400 cm$${^2}$$くらい(20 cm × 20 cm)と仮定すると,その面積で148 kgの重さを受け止めて外側に膨らもうとしていることになります.

7.「ストロー」で飲むときにも手助け

飲み物をストローで飲むときにも大気圧が手助けをしてくれています.飲み物が入ったコップにストローを入れて,飲み物を吸うとストローの中の気圧が下がります.コップの飲み物の液面には常に大気の圧力が加わっているので,ストローの中の気圧が下がった分,バランスが崩れて大気圧がストローの中に液体を押し込んでくれます.

ちなみに水を入れたコップにものすごく長いストローを入れて吸ったとき,吸い上げられるのは10 mくらいが限界と言われています.

1 気圧を水の柱を用いた圧力の単位であるcmH$${_2}$$Oで表すと,およそ1000 cmH$${_2}$$Oくらいになります.
1000 cmは10 mなので,これは,大気圧(1 気圧)と10 mの高さのストローの中の水が重力によって下に戻ろうとする時の圧力がつり合っていることを意味します.したがって,10 mくらいが限界なんですね.

8.「台風」の気圧をイメージ化

2024年8月にやってきた台風10号(サンサン)は最も勢力が強いとき,その気圧は,935 hPa(ヘクトパスカル)でした.
その時の中心気圧は,1 気圧(1013 hPa)と比較すると

1013 hPa - 935 hPa = 78 hPa低い

ということになります.
これは,どれくらいの圧力差なんでしょうか?
h(ヘクト) は 100という意味なので,

78 hPa = 7800 Pa = 796 kg/m$${^2}$$

となって,1 メートル × 1メートルのスペースに796 kgの重さが加わるくらいの重さで地面を押そうとする力で1気圧側から台風側に空気が流れることになります.

このときの空気の重さの差をもう少し可視化してみましょう.
手のひらの大きさを
10 cm×20 cm = 200 cm$${^2}$$ = 0.02 m$${^2}$$
とすると,
796 kg/m$${^2}$$ × 0.02 m$${^2}$$ = 16 kg
なので,手のひらに16 kgのおもりを乗せたくらいになります。

9.「富士山の上で米を炊く」・・・おいしくない

高い山で飯ごう炊飯をすると,芯が残ってうまく炊けません.これにも気圧が関係しています.
地上では,水は100℃で沸騰します.これは,温められて熱のエネルギーを得た水分子が100℃付近で,液体から気体の水蒸気になる現象です.地上では,大気圧に打ち勝って,水分子が水蒸気になりますが,高い山の上では,気圧が低い,つまり押さえつける力が弱いので,水分子は地上よりも楽に外に飛び出して水蒸気になることができます.
例えば,富士山の頂上(3,776 m)の水の沸点は88.6℃程度で,地上よりも10℃以上,低い温度で沸騰が起こります.
生煮えになるのも無理はありませんね.

10.「圧力鍋」でおいしく...

富士山の上では気圧が下がって,低い温度で水が沸騰してしまいますが,圧力鍋はその逆の性質を利用したものです.
鍋を密閉して火にかけると,気体(水蒸気)になった水は,逃げ場がなくなりますので,鍋の中の圧力が上昇します(ちなみに水が水蒸気になるとその体積(容量)は約1700倍に膨れ上がります).
鍋の中の圧力が上昇すると,液体状態の水分子は,押さえつけられてなかなか外に飛び出して水蒸気になれなくなります.結果として,沸点が100℃以上になるので,普段よりも高い温度で調理することができるのです.
なお,医療の分野では高圧蒸気滅菌(オートクレーブ)と呼ばれる菌を不活化させる機械があります.この機械も内部の圧力を上げることで,水の沸点を上げ,100℃以上の水蒸気で菌のタンパク質を変性させて滅菌を行っています.

11.「次回は湿度?結露?」など


何となく圧力や気圧のイメージが沸いたでしょうか?
次回は,夏場のジメジメ湿度や冬場の結露などをネタにゆるゆると雑談したいと思います.



Clubhouseのアーカイブ配信はこちら
Youtube配信版はこちら
※Macと配信サイトとの相性がよろしくなくて、画像が固まっていますがご容赦くださいm(_ _)m
※こちらのページも随時追記しています.
2024年10月27日:加筆(Clubhouseのアーカイブリンクを追記)
2024年10月19日:初版


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