2023年上半期:映画ベスト10
あっという間に6月が終わり、今年もすでに下半期である。
映画好きの友人と会うとき、お互いの上半期ベスト10を公開し合うのが習慣になっているのだが、今回、それをnoteで公開することにした。
コロナ禍の影響で劇場公開を遅らせていたのか、今年は甲乙つけがたいほど、クオリティの高い作品が立て続けに公開されている。
みなさんのベスト10やオススメの作品も、TwitterやThreads(@junshintani)でぜひ教えていただきたい。
10:スパイダーマン:アクロス・ザ・スパイダーバース
今年観た映画の中で「劇場で観ないと後悔するランキング」を作るなら、圧倒的に1位な本作。
全てのシーンが、そのままポスターになって販売できそうなほど美しく、カッコいい。
加えて、そうした静止画としての魅力だけではなく、アニメーションの限界というか「表現のバリエーションの限界」のようなものに果敢に挑んでおり、ただただ圧倒されっぱなしの140分であった。
しかも、作り手が心から楽しんで作品を作っている感じがスクリーン全体から溢れ出しており、観ているこちらも思わず頬が緩んでしまうこと間違いなしだ。
9:そばかす
私だけだろうか。ある時期から邦画を観る機会がグッと減ってしまったのは。
映画館で観る邦画の予告編は「あのヒット原作の映画化!」のようなものが並び、ミニシアターで公開される作品は、予算の少なさも相まって洋画と比べるとどうにもしんどい。
そんな中、久しぶりに友人に勧めたくなる邦画に出会えた。
そう語るのは本作の主人公である蘇畑 佳純(そばた・かすみ)。少し具体的な言葉を使うとアセクシュアル(=他者に対して性的欲求・恋愛感情を抱かないセクシュアリティのこと)に該当する主人公。
彼女を通して見る世界は、「こういう風に生きなきゃいけない」という私たちの思い込みを、やわらかく解きほぐしてくれることだろう。
どうか、必要な人にこの映画が届き、自分のことを理解してくれない人に「私、こんな感じだから」ってこの映画を差し出してくれることを願う。
P.S. パンフレットに載っている児玉美月さんのレビューの一文「友達はどうしてそれだけで、最高の存在になれないのだろう。」が最高なので、パンフを見かけたら是が非でもゲットしてほしい。
8:after sun アフターサン
観終わった瞬間「こういうエンパワーメントの仕方があるのか」と衝撃を受け、しばらく席を立つことができなかった。
映画の表層だけ見ていると、一組の親子がリゾートでバカンスしているだけの映画であり、映画の中のソフィもそういう気分で過ごしていたのだろう。
しかし、人生には時が過ぎてわかることが多々ある。
本作の感想を見ると「絶賛されてるけど、何が良いのかわからなかった」という意見も多い。
父親が何に悩んでいたのか。そして彼は今どこにいるのか。
映画は明確な答えを提示せず、あくまでヒントをほのめかす程度にとどめる。しかし、彼と同じか近しいセクシャリティを持つ人は、他の映画では味わうことのない、ヒリヒリとした痛みを感じられるだろう。
そう、夏の暑い日に家に帰ってから気づく、しつこい日焼けの跡のように。
7:ガール・ピクチャー
北欧フィンランド発「ガールミーツガール 」×「自分のアイデンティティと向き合う」様を描いた、これからの時代のガール祝福ムービー!
予告編でちょっとでも「キュン」としたり「うっ」となった人にはぜひ見てほしい、隠れた名作。(予告の30秒あたりから「ブック・スマート」でも使われていた曲がかかってテンションぶち上がり。)
観てる間中「女の子に生まれてこんな恋がしたかったなぁ〜」って、ずっと目をキラキラさせながら観てしまった。
北欧が舞台なので、「バイバイ!」の代わりに「モイ!」って言うのもとってもかわいい。
さびしくなった時に見ると元気になる、素敵な映画でした。
6:ウーマン・トーキング
対立する意見が生まれたとき、我々は「話し合い」で対立を乗り越えられるのか。
この命題に挑むのが上映時間104分のほとんどを「話し合う」シーンで構成した本作だ。
昨今、#MeTooの流れを組む映画が多数製作されている中で本作が特徴的なのは
話し合いに子どもが参加していること
男性にも理解者がいること
の二点を描いている点だろう。
そもそも子どもが参加しているのは、彼女も被害者だからであり、本来であれば絶対にあってはならないことではあるが、子どもの意見も一人の人間の意見として対等に扱う光景は、他の作品ではなかなか観られないのではないか。
私が観た映画館がオフィス街だったせいか、年配の男性が多く観に来ていたのも印象的だった。彼らがこの映画を観て何を思ったのか、聞いてみたいところである。
5:ザ・ホエール
アパートの一室で繰り広げられる、濃密な117分の密室劇。
過去のトラウマから、自分で歩くこともままならないほど身体が大きくなってしまったチャーリー。彼に捨てられ、満たされない日々を過ごす娘エリー。二人が再会を果たしたとき、最期の瞬間を賭けた本音のやりとりが始まる。
先に紹介した「after sun」とは対照的に、本作では父親と娘が自身の全てをさらけだす。
登場人物は少なく、描かれる場所もアパートの一室のみという地味な設定だが、練り込まれた台詞の数々と”魂の演技”ともいえる役者陣の芝居のおかげで退屈する暇はまったくない。
主演のチャーリーを演じるのは、ハムナプトラシリーズで一躍有名となったブレンダン・フレイザー。表舞台から遠ざかっていたが、今年のアカデミー賞で主演男優賞を受賞し、これ以上ないほどの奇跡のカムバックを果たした。
運よく彼が登壇した舞台挨拶上映のチケットを取ることができたのだが、ハムナプトラ公開当時からのファンである私は号泣してしまった。
これからもファンのみんなで支えていきたい。
おかえり。そしてありがとう。
4:ぼくたちの哲学教室
選んだ10本から1本だけをお薦めするなら、間違いなくこの映画を選ぶだろう。
タイトルや予告から「すごく真面目で、学校の授業で見せられそうな映画感」が漂っているが、どちらかというと「プレスリー大好きおじさんのガチンコ奮闘記」な感じの楽しい映画である。
「どうして他人を殴ってはいけないんだろう?」「友だちってなんだろう?」アイルランドに実在する小学校では「哲学」と称する授業で、さまざまな問いを子どもたちに投げかける。授業を取り仕切るのは、エルヴィス・プレスリーが大好きなスキンヘッドの校長・ケビン。
彼が「哲学」の授業を始めた背景には、アイルランド・ベルファストの歴史が深く関わっている。
過去に内戦が起こったベルファストの地では、現在も様々な”対立”が残っており、またいつ火を吹き返すかわからない。そんな環境で育つ子どもたちに同じ過ちを繰り返さないため、ケビンは「自分で考えられるようになる力」をつけさせようと奮闘する。
友だちを殴ってしまった生徒に「どうしてそんなことしたの?」と聞くと、「やられたらやり返せって父さんに教わった。」と返ってくる。
過酷な内戦状態を過ごした父親が、息子にこのように教えるのも無理はない。さらに、家庭の考え方に対して、学校はどこまで介入できるのかという問題もある。
しかし、対立と暴力という同じ過ちを繰り返していては、いつまでも平和は訪れない。
己の信念を胸に、ケビンは生徒と向き合う。
「今日の授業では、お父さんにやられたらやり返せと言われたらどのように対応すれば良いのか、みんなで考えよう。」
ここまでの授業を行う学校が日本にあるのだろうか。
(もしあればそれは希望である。)
「同じ過ちを次の世代に繰り返させない」ためにここまで奔走する大人を見せつけられると、思わず「われわれには何ができるだろう」と考えずにはいられない名作であった。
3:青いカフタンの仕立て屋
長年連れ添った夫婦が、パートナーとの最期の時を過ごす。
映画においてよくある題材を主軸に、本作では「自分を愛すること」そして「他者を愛すること」の可能性を描き出す。
主人公が仕立てるカフタン=結婚式や宗教行事などフォーマルな席に欠かせない伝統衣装のように美しい本作の鍵となるのは、舞台が同性愛が犯罪とみなされるモロッコであること。
未見の方にはあまり多くの前情報を入れずに観ていただきたいので、監督の言葉を引用して締めとしたい。
2:ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー VOLUME 3
VOLUME 1から9年。
その間、多くの笑いをもたらし、多くの涙を共に流したガーディアンズの完結編。
上映中、劇場の至る所から鼻を啜る音が聞こえてきた。
しかしそこはガーディアンズ、涙で終わるわけがない。
エンドロールが終わると拍手が起こり、席を立ったみんなの顔は笑顔だった。
久しぶりにここまで祝福された映画に出会えて幸せな限りである。
楽しい時間と思い出をありがとう。
1:SHE SAID シー・セッド その名を暴け
「完璧」
主演のキャリー・マリガンの眼差しを前に、私の脳裏にはその二文字だけが浮かんでいた。
2017年にアメリカで始まり、世界中に広がった#MeToo運動。
この運動がどのようにして広がったのか、背景で尽力したのはどのような人たちだったのか。
その一端を追体験させてくれるのが、本作「SHE SAID」である。
信頼できる同僚。
理解のある上司。
サポートしてくれる家族。
これ以上被害者を増やさないため、自らの危険を顧みずに告発する被害者。
告発を知り、連帯の声を上げる市井の人々。
全てのバトンがつながり歴史が動く瞬間、観客も一緒に「Publish(公開)」のボタンを押していることだろう。
彼女たちの告発がなければ、ジャニー喜多川氏に対する一連の告発も闇に葬られたままだったのではないか。決して海の向こうの物語ではない、今も続く#MeToo運動に乗って自分は何ができるのか。
ぜひ、この映画からヒントと勇気をもらってほしい。
以上が、私が選ぶ2023年上半期の映画ベスト10だ。
7月も「クロース」「大いなる自由」「サントメール ある被告」「シモーヌ」とクィア系の話題作が相次いで公開されるし、ハリウッド系であれば「トランスフォーマー」「ミュータントタートルズ」などお馴染みのシリーズの新作の公開も控えている。
個人的に一番の楽しみなのは、ペ・ドゥナ主演の「あしたの少女」。
2014年に公開された「私の少女」ぶりのチョン・ジュリ監督 × ペ・ドゥナのタッグが観られる日を、心待ちにしている。