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【陰ヨガ】”陽”のクロージング

まずは、アクセルを外そう!

「陽のクロージング」のお話は、講座や普段のヨガクラスでも時々お話ししているかもしれません。シンプルにいうと、「ブレーキを踏む前に、アクセルを外そう!」ということです。

現代人はいつも忙しい生活をしています。特に、都会の生活は、目まぐるしいのではないでしょうか。新潟市に引っ越しをしてから5年目になりますが、東京を外側から見た時、落ち着くことがいかに毎日を豊かにするかを実感します。ただ、都会にいても静寂さを保って生活している人もいますし、田舎暮らしをしていても、行動も頭の中も忙しない状態でいる人もいますし、「結局は、自分次第だな。」と思うところもあります。

「陰ヨガは、忙しい方やいつもアクティブに動いている方におすすめです!」と言われます。忙しさを止めて、静かに止まりませんか、ということですが、急にブレーキを踏んでもなかなか車は上手に停まってくれません。特に、思考の癖でもありますが、鋭角的なものの考え方をする人は、停止することにばかり意識がいくあまり、黙々的にブレーキを一生懸命踏みまくっている、なんて雰囲気の人も少なくはないのではないでしょうか。
「落ち着きは大切だよね。」と言いつつ、なかなか活動を緩めることができない人にありがちな状態です。自分自身への戒めも含めて、もう少し賢く、陰陽を受け止めることが必要だと感じます。

陰陽理論の原点は『易経』にありますが、この古典は色々な視座を与えてくれます。瞑想やヨガを実践する際の仏教(私が学んでいるのはチベット仏教です)やヨガスートラのように哲学がそこにあり、生き方や在り方について多くのことを気づかせてくれます。

皆さんには、気づく力がきちんと備わっていますか?
よく勘違いをしたり、間違ったことを永遠に継続していたり、盲目的に何かにしがみついたりしていないですか。

気づく力とは、ヨガ用語でよく出てくるプラジュナ(「智慧」と訳されることが多いです)のことです。より良い生き方や在り方を追求するためには、プラジュナを磨いていくことが大切なのです。伝統的なヨガの目的はこれです。

まだまだ学習過程ではありますが、プラジュナはとてもシンプルなんじゃないかと私は思います。何事も複雑にしてしまっているのは私たちの行動や思考の方で、真実は本当に単純なことではないかと感じます。「ブレーキを踏む前に、アクセルを外した方がいい。」という、気づいてみたら当たり前なことに、実は気づきにくいことも多々あるでしょう。

それは、何故でしょう?

心身に落ち着きと静寂さがないから、気がつけないのです。

次に、静寂さを培おう!

私が「静寂さを持つことが大切だ。」と気づき始めたのは、ハタヨガを中心とした陽ヨガをやり込んでも「身体にこれ以上空間ができないな。」と感じた頃でした。おそらく、本格的にヨガを始めてから3〜4年経ったころだと思います。その当時は、陰ヨガを知りませんでしたから、選択肢は1つでしたが、何かが不足している感じはありました。今なら説明できますが、自身のヨガに「陰」が不足していたのでした。

その後、しばらくして当時プラクティスしていたサイゴンヨガ(ホーチミン市・現在は閉業)に陰ヨガクラスができ、早い段階で陰ヨガ養成講座(シンガポールにて)に参加しました。これが、後に陰ヨガ養成講座の通訳のお仕事に繋ったのですが、陰ヨガとの出会いは、私の人生を開いていった大きな出来事の一つです。

陰ヨガを中心にヨガを教えることは、私のライフワークとなりましたが、陰ヨガの持つ性質が、ヨガ哲学の観点からも、陰陽理論の観点からも最も大事だと信じています。心身に落ち着きと静寂さがないと気づきの力が働かないからです。

例えば、目の前にあるものや出来事について、本来そのまま見えるべきものが、きちんと見えないということです。時に、先入観や固定観念、感情などの装飾が施され、本質が曇ってしまったり、歪んで見えていることもあります。正しく見えなかったら、正しい目的も意思も発動しませんから、どんどんおかしなことになるというわけです。 「アクセルを踏みながら、ブレーキを踏んで車を止めようとしている。」というのはまさにこのことではないでしょうか。

「ヨガスートラ」にヨガを定義している一節があります。

YOGAS CHITTA VRITTI NIRODHAH
(心の作用を止滅することが、ヨーガである。)「インテグラル・ヨーガ」より

私が習ったこの節の解釈は、「さざ波の立たない水面のような心の在り方を仕上げることがヨガである」でした。つまり、心が落ち着き、静寂である様のことです。別の言い方をすると、マインドフルネスです。

ここではマインドフルネスの定義や詳細は割愛しますが、アーサナにも落ち着きを持って取り組むことが大切ですし、動のヨガ(例えばハタヨガなど)だけでなく、静のヨガ(陰ヨガが代表的なヨガ)をプラクティスすることで、陰陽の体感値を積み上げていくことは、心身の視野を広げてくれるのではないかと思うのです。

時々、自分がプラクティスしているヨガに固執して、それ以外は正しくないと思い込んでいるヨギも見かけますが、それは陰陽理論から見ると、全体像が見えておらず片側だけの狭い視野の中でヨガをしていると思われます。勿体無いです。

さらに、ヨガをするなら最終的には瞑想もプラクティスすることをお勧めする理由の一つがこのヨガスートラの一節にあります。さざ波一つない水面のような心を仕上げることがヨガの目的であるなら、身体で行うアーサナだけでなく、心のトレーニングである瞑想も必須だからです。

陰陽理論では、「陽が増える時、陰が減る。陰が増える時、陽が減る。」という法則があります。これは、白と黒の太極図で表されますが、陰陽は一時たりとも止まることはなく、常に変化して止まないことを示しています。
変化することを「易」というのですが、「易経」は時や場面や状況に応じた行動を説く「時の学問」でもあります。つまり、アクセルを踏むべき時や場面があり、アクセルを緩めるべき時や場面があるということです。そして、ブレーキを踏むべきタイミングはというと、一旦アクセルを緩めた後であることは明らかではないでしょうか。
だから、陰を始める前に、陽のクロージングが必須なのです。

陽のクロージングと「土の五行」との関係

落ち着きと静寂さを培うための手順があるとしたら、おそらく、まずは身体から静止することを学ぶのがスタートでしょう。身体という実際に目に見えて、感じることができる物理的なものから始めるのがわかりやすいからです。ヨガスートラにある八支則(悟りへの八段階)を見ると、身体を使って行うアーサナが3番目にあるのは頷けます。

ここからは、陰ヨガのアーサナと陰ヨガの元になっている陰陽五行論についてお話しします。

陰ヨガは、とても深みのあるヨガです。「アーサナを静止して行うヨガ」という他に、そのポーズの組み立て方には、陰陽五行や経絡の理論を組み合わせることもできます。特に、私がワークショップや新潟日報カルチャースクールの1day講座などでご紹介しているのが、陰陽五行論を元にした『季節の陰ヨガ』です。陰陽理論は、天地自然の法則ですので、季節ごとに心身を見直すために、陰ヨガを実践することは、とても理にかなっていると思います。

陰陽五行論は、漢方や鍼灸、薬膳で使用される理論です。鍼灸なら経絡とツボをメインに適用するなど、それぞれ適用する部分が異なるとは思いますが、私は、落ち着きや静寂さを培う陰ヨガの実践が、皆さんの生活スタイル、健康維持のための生活習慣を始め、自分自身の生き方や在り方を振り返るきっかけとなったり、より自分にも周りにも心を開いていくプロセスの土台となったらいいなと思っています。

私は、夏から秋にかけての季節に「陽のクロージング」の話をすることが多いです。何故なら、五行説でいうと、土の五行がその役割を担っているからです。夏から秋に移動する時期は、陽から陰へ移行する時です。この季節の変わり目に何を大事に生活したらいいかというと、まさに「陽のクロージング」なのです。

陰陽五行説は、季節ごとに五行を配当し、実際の養生方法も教えてくれます。この夏から秋への移行期間は、土用とか長夏と呼ばれますが、五行でいうと土の五行に当たります。土の五行に属する五臓は、脾と胃で消化器です。つまり、夏バテなどで不調になりやすい消化器を労わることが、この時期のやるべき養生となるわけです。例えば、氷の入った冷たい飲み物を控える、暴飲暴食を控えるなどは代表的な夏の養生法です。

Junostyle Yogaで展開している季節の陰ヨガ講座〈夏編〉では、脾・胃の経絡を意識して、ヨガを組み立ててプラクティスの実践をします。時に、関連したツボを紹介したり、「梅雨や夏に起きやすいむくみには、ハトムギがお勧めですよ。」など薬膳の観点から情報をシェアしたりしています。

これらは、すべて「陽のクロージング」のためのヒントです。秋に陰への移行がスムーズに行われるためには、まずは陽を減らしていくことが大切なのです。

陰ヨガを実践することで、付随する理論にも興味が湧いて勉強する方も多いようです。Junostyle主催の陰ヨガ指導者養成講座〈五行シリーズ〉(旧・経絡シリーズ)を受講してから、薬膳などの知識を学ばれている講師の方も少なくありません。皆さんぞれぞれの地域でワークショップなどを開催されているのをSNSでよく拝見します。

陽過多だなと感じる人は、是非、陰ヨガから実践してみませんか。落ち着きや静寂さが足りないと感じている方にもお勧めです。


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