胸に残る映画ブロークバックマウンテン
男性同士の20年に渡る恋愛を描いた映画、ブロークバック・マウンテン。
テーマが重く、観終わった後は放心状態になる。
そして、今も引き摺ってしまうほど切ない内容。
今日のnoteは人生を演じながら生きる辛さについて記したい。
以下、ネタバレがあります。ご注意ください。
①同性愛が許されない時代背景
ただひたすらに美しい自然が広がるブロークバック・マウンテン(架空の地名らしい)。
この地は桃源郷のように2人にとって自身を解放できる場所であり、生涯忘れられない大切な山。
映画の冒頭で2人の関係が示された後、程なくして各々が女性とごく自然に結婚したので驚いた。
映画の尺で20年の歳月を描くため、テンポよく場面が進んでいく。
2人が選ぶ女性ラリーン(演アン・ハサウェイ)とアルマ(演ミシェル・ウィリアムズ)は美しく魅力的な妻たち。子供も産まれ、ジャックとイニスも夫として幸せな家庭に溶け込んでいる。
いや、溶け込まないと生きていけない時代だったのだろう。
同性愛が認められない時代。ゲイ差別者達からリンチ、虐殺をされているシーンはぞっとした。
このシーンを観ると2023年現在はだいぶ「性」に関する理解が進み、解放されている。
②現在も発展途上の分野である
最近、BLをテーマにしたドラマや映画の種類が増えたように思う。
「おっさんずラブ」「チェリまほ」「エゴイスト」・・・
大好きなドラマ「逃げ恥」でも古田新太さん演じる「沼田さん」と成田凌さん演じる「梅原くん」はゲイアプリで知り合いお付き合いする様子が主人公達の側でさりげなく紹介されていく。
私が視聴した限りでの同性愛を扱ったドラマは、登場人物がみんな協力的で配慮のある優しい人達の設定だ。
きっと、これは「理想」なのだろうなと思う。
ブロークバック・マウンテンの劇中では主人公ジャックとイニスの恋愛は常に緊張感が漂う。加えて、周囲の妻達や親世代、子供達も連鎖して苦労をしている。
特に、イニスが妻アルマに放ったセリフがナイフのように突き刺さる。
「俺の子を産まないなら、もう抱かない」
日頃の我慢が限界に達したのだろうか。
イニスの時系列では同情できても、献身的な妻アルマにとっては呆然自失の一言。もうこれは、ほとんどカミングアウトしていると言ってよいのではないか。おそらく、気がゆるんで口を滑らせてしまったと思う。
もし私自身が同性愛者(それ以外のLGBTQも含めて)であったなら。
この映画を観て考えた。
それくらい、この映画にはパワーがある。
もし自分なら。
口を割らないだろう。親にも隠すであろうし友人にも言わない、言えない。
人生を通じて「演じる」道を選ぶ。
昭和生まれの私は、ブロークバック・マウンテンの時代背景において後半に位置する、まだ認められない時代。
両親も古風な考えの持ち主なので到底受け入れてくれそうにない。
また、配偶者が実は同性愛者(それ以外)である可能性だってあるのだ。
私と結婚して子供を作り、誠実に結婚生活を営み溶け込んでくれているかもしれない。人として、尊重して愛してくれていれば気がつかないまま生活が続く。
知った時、アルマのように毅然と対応できる自信がない。
全てを知る前と後では、心持ちがかなり変わる。
映画の中で、イニスは誠実な男性だった。
ジャックを愛しながら、妻アルマにも愛情を持って接していたと思う。
イニスにとって、アルマは数少ない「愛せる女性」であったはず。
あくまで想像の範囲で例えるなら、オセロ版でほとんどが「黒」のピースで埋め尽くされ、わずか1〜2ピース「白」がある状態なのかな。アルマは貴重な「白」であったのかもしれない。
令和の時代になっても「真の自分らしさ」を表現するのは容易ではない。
③俳優陣達の熱演に胸打たれる
ブロークバック・マウンテンに関する2023年に寄稿されたスカパーの記事を発見。
映画に関する専門家である小川知子さんと松崎まことさんによる対談形式。
映画公開2005年当時でも、この映画に対する理解は十分ではなかったそう。アカデミー賞作品賞の最有力候補であったけれど、選考委員達の保守的な一面もあり受賞はならなかったのは残念。
出演されている俳優さん達の演技力は凄まじいレベルの高さ。
今は亡きヒース・レジャーの繊細な演技に引き込まれる。
20歳から40歳まで20年に及ぶ役柄でも、僅かなメイクと喋り方の工夫でこなしたというエピソード通り、劇中の後半は年頃の娘の「父親」として中年男性の哀愁が漂っている。(当時25歳頃のはず)
妻役のアルマを演じるミシェル・ウィリアムズと私生活において、この共演がきっかけで交際、婚約(子供も産まれる)するのは嬉しい。
(その後、結婚には至らずに破局)
映画の中ではアルマが可哀想でならなかった。
アルマは偶然、夫イニスとジャックのキスシーンを目撃してしまう。ジャックに挨拶する時の表情は息を呑む迫真の演技。
驚き過ぎて放心状態。鈍器で殴られた気分だろうな。
よく気丈に淡々と夫を送り出したものだと感心する。
ジャック役のジェイク・ギレンホールとヒース・レジャーはこの作品以降、親しくなったそうで映画の中にも2人の信頼感が滲みでていた気がする。
おわりに(SUPER BEAVERのグラデーションの歌詞刺さる)
白と黒では言えない矛盾した感情を歌うSUPER BEAVERのグラデーション。
令和は色々なグラデーションを理解しなければ、生きていけない。
まだまだ、修行の日々が続く。
Junko Summer
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