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最初に火をつけたのは誰?韓国映画『コメント部隊』

こんにちは、部隊(プテ)チゲが時々むしょうに食べたくなるじゅんぷうです。

ソン・ソック主演『コメント部隊』。タイトルから読み取れる情報の少ないこの映画、ソン・ソック以外の予備知識なしで試写にて鑑賞しました。現在公開中です。

社会部記者のイム・サンジン(演ソン・ソック)は大企業マンジョンの不正に関する特ダネ記事を出しますが、これが誤報記事だと拡散されて炎上、停職処分に。やがて「自分たちが工作して世論操作した」という情報提供者が現れ、イム記者は混乱しながらも再起をかけて真実に迫っていくストーリー。

SNSやネットニュース、掲示板のコメントで大衆心理を動かし世論を操作する、それが〈コメント部隊〉。これまでの韓国ドラマでも、芸能界が舞台の作品では息子の話題作りのために母親がSNSのフォロワーを買ったり、政治バトルではフェイク記事とコメントで大衆心理を操ったり、というのはありましたがあくまでもストーリーの中のディテールの一部。

大衆のパワーはちょっとしたきっかけでとてつもないものになります。韓国で民主化とともに定着したというろうそく集会。2016年には朴槿恵大統領の弾劾を求める大規模なろうそくデモが行われて、この映画でも朴槿恵が映されるシーンがあります。「最初にろうそくに火をつけたのは誰なのか」…ソン・ソックのモノローグは観賞後にあらためてじわじわ効いてきます。

朴槿恵大統領は罷免されたし、今も尹錫悦大統領に対して同じようなことをしているわけですよね。それにデモはないとしても、アイドルも俳優も、匿名という名の大衆にとことん追い込まれてしまった人が何人いるでしょうか?

この作品でのそんなターゲットがソン・ソック演じるイム記者。ただそれが大企業マンジョン案件なのか、それともコメント部隊の若者3人のお遊びなのか?観客も巻き込まれてしまいます。派手な映像演出こそないものの、展開が速いうえ文字が多くて、これこそ観客の情報処理能力を麻痺させるねらいでは?

イム記者は実力はあるものの、正義感やジャーナリズムというよりは刺激的な記事で注目を集めることに快感を得るタイプの人間として描かれています。それをコメント部隊に見抜かれていたからこそターゲットになったのだと思います。うんと年下の情報提供者に「面白いでしょ」と言われてしまうあたり、しっかり釣られてる。「嘘が混じっているほうが真実味を帯びる」というのはこの映画自体にも言えることかも。

今回、ソン・ソックはいつものアブナイ色気だだ漏れソックではなく、しおれた捨て犬でした。ええ、もちろん放っておけません。炎上して身バレして詰んでいるはずなのに、不思議とどん底の悲壮感もギラギラ反骨感も感じられない。ただ記事であっと言わせたい人間なんですね。

ソン・ソックだからこんなつかみどころのないキャラになったのかな。彼の部屋のシーンは出てくるけど、いったいどう暮らしているのか、最後までミステリアス。爆発的な見せ場がなかったのがソック推しとしては少々物足りない点です。

コメント部隊の3人組を演じたのはキム・ソンチョル、キム・ドンフィ、ホン・ギョン。情報提供者としてイム記者に接触してくるのはキム・ドンフィ演じるチャッタッカッというふざけた名前の青年なんですが、キム・ドンフィといえば『秘密の森』シーズン2のわけあり通報者。今回も初登場シーンから思っちゃいました。わけ、あるんでしょう?キム・ソンチョルは『ヴィンチェンツォ』や『その年、私たちは』で見ましたが出しきれない感情を抱えている表情がよきです。この3人組がまあ賢いし、とくにホン・ギョンのルックスがアメリカのクライム・サスペンスな雰囲気を醸しておりました。

韓国の国家情報院の事件が元ネタとのことだけど、日本でもどこでも起こり得ることだしネットでのイメージ操作なんて他愛もなくできてしまう時代。それがデモや弾劾、そしてコメントで本当に大統領も芸能人も追い込まれるお国だということを踏まえて見ると、どこまでも出口のない世界を感じさせられる作品でした。


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