『利他とは何か』伊藤亜紗編
子供の頃から、人の気持ちを考えて行動しましょうという呼びかけを幾度となく聞いてきた。
人の気持ちを考えて行動することは間違ってないと思うが、時に、なにが人のためになるのかわからない、人のために行動している自分になりたいだけ、ということもある気がする。
コロナ禍において特に、利他の精神を問われる機会が増えたように思う。(みんなのために不要不急の外出を控えましょう的なもの)
そんな折に、本書は真に利他であることとはどういうことか、5名の識者が論考を寄せてくれている。特に印象に残った3点を紹介したい。
1つ目は、利他は「うつわ」のようなものではないかということ。相手のためになにかしていても、自分の立てた計画に固執せず、うつわのように余白をもって、相手の可能性を引き出すとともに、自分も変わっていけることが利他ではないかと。
(第1章 うつわ的利他 伊藤亜紗著)
2つ目は、利他は私たちの中にあるのではなく、不確かな未来からやってくるものではないかということ。誰かのためにやってあげるという精神は、支配的で、贈与したとしても嫌な気持ちになってしまう。だからこそ、思わず不意に、合理的ではないけどやってしまうこと、不確かな未来からふっとやってくるのが利他ではないかと。
(第2章 利他はどこからやってくるのか 中島岳志著)
3つ目は、利他とはなにかしなければと責任を感じて生まれるものではないかということ。近代以降、誰が意志を持って行動したかを明らかにして、個人に帰責性を強く持たせるようになった。(本当はさまざまな要因により、やらざるを得なかったとしても)社会を維持するには帰責性も必要だが、自然に責任を感じて助けなければと自分の中で思い、行うのが利他ではないかと。
(第4章 中動態から考える利他 國分功一郎著)
本書のおかげで、ぼんやりとしていた利他が、解像度高く、浮かび上がってきた。責任を自然に感じて、誰かのために思わず何かしてしまう利他をキャッチするうつわを、なるべく大きく持っていられるとうれしい。