【142.水曜映画れびゅ~】"Anatomie d'une chute”~秘密と、嘘~
"Anatomie d'une chute"は、2月23日より日本公開されているフランス映画。
昨年のカンヌ国際映画祭でパルムドールを受賞したほか、先日行われた米アカデミー賞では脚本賞を受賞しました。
㊗ アカデミー賞 受賞!!
あらすじ
秘密と、嘘
ダニエルは、幼い頃に交通事故に遭って視覚障害があった。だから外へ出る時は、いつもサングラスを着ける。
その日も、サングラスを着けて犬の散歩をしていた。いつも通りの散歩コースを経て家に帰ると、妙な人影が見えた。
父親が、血を流して倒れていたのだ。
・・・
それからしばらく経った後、母親のサンドラが父親の殺人容疑で起訴されてしまう。容疑者となったサンドラは、マックスに語り掛け続ける。
「ママは、パパを殺してなんかいない」
マックスは母を信じて裁判を見守り続ける。しかしそこで明らかになるのは、母と父が抱えていた秘密と、嘘だった。
裁判は真実を曖昧にする
パルムドール、そしてアカデミー脚本賞を受賞した本作。物語は、怪死した夫の殺害容疑で起訴された妻の法廷ドラマです。
この作品の特異な点は、回想の場面がほとんど出てこないところです。例外として、裁判の証拠品で提出された音声テープを基にした回想っぽいシーンがありますが、それも含めて事件の全容は”証言”と”証拠”によってのみ語られます。
なので、ネタバレになるかもしれませんが、言ってしまうと、この映画で「実際に自殺だったのか、事故だったのか、他殺だったのか、そして何が起きたのか」ということが明らかになることはありません。
そしてそれは実際の裁判でも往々にしてあることです。
裁判とは、真実を明らかにすることではないと思っています。むしろ、真実を曖昧にする作業だと思っています。原告側と被害者側が自分に有利な証言や証拠をさらけ出し、それぞれが自分の有利な判決のために動くのです。それゆえに、裁判が進めば進むほど話が複雑になり、真実がわからなくなっていき、最終的には陪審員や裁判官の主観で善悪が判決されてしまいます。
そういった構造であるため、実際の裁判を傍聴している感覚で、この事件の真相は視聴者に委ねられるのです。
何を信じたいか?
そんな本作で、最も視聴者と近い目線であるキャラクターが、息子のダニエルです。
裁判が進むにつれて、両親の秘密を知っていくダニエル。
母親の浮気、父親の鬱、夫婦の不和…。
「あたしを信じて」と語る母親の供述は二転三転し、世間からは厳しい声が上がっていきます。それでも、ダニエルは裁判の傍聴を辞めませんでした。
複雑になっていく裁判と、曖昧になっていく真実のなかで、ダニエルは自分の答えを見つけ、物語はクライマックスへと進みます。
ダニエルの答えに、あなたは同意できるでしょうか?それとも…?
この映画が私たちに問いかけるのは…
「何を信じたいか?」
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次回の更新では、『ジョジョ・ラビット』(2019)で知られるタイカ・ワイティティの待望の最新作"Next Goal Wins”を紹介させていただきます
お楽しみに!