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ご承知!! -就労定着支援での一コマ -
先日ある企業へ、定着支援に行ってきました。雇用関係を結んでから約10ヶ月、持ち前の礼儀正しさと、真面目な仕事ぶりで働くBさんは、企業側からとても評価されていました。1時間を予定していた面談も、始まる前に担当者の方から「(順調にいっているので)1時間もいらないかもしれませんね」と言われるほどでした。
BさんはASDの特性が、比較的顕著なタイプの方です。こだわりで、特定のアイスの写真をコレクションしたり、好きなアーティストにまつわる場所を巡礼したり、挨拶や言葉遣いも丁寧で、とても礼儀正しいのが特徴です。
「会社に行ったら、きちんと挨拶をしましょう」そう助言を受けたBさんは、次の日会社に行って、会う人会う人全ての人に「おつかれさまです」と挨拶をするようになりました。そう聞くといいことだなぁと思いますが、Bさんの心の中では「挨拶をするのはわかったけど、どういう時に、どういう範囲の人まで、挨拶ってしないといけないのかわからない。失敗したくないから、とりあえず会った人会った人全てに挨拶しておけば間違いない」と考えていたそうです。今では適度な距離感を体験から掴んで、心も穏やかに挨拶ができるようになったそうです。が、初めの数ヶ月はそういったことにとても悩んでいたそうです。Bさんの礼儀正しい挨拶の心を打たれて、障がいのない社員の方が、「自分たちもきちんと挨拶をしないといけない」と、自分の姿勢を改めた、なんていうエピソードも、チラチラと社内で出ているとか、いないとか。
冒頭で述べた通り、Bさんは職場でとても適応はしていました。同僚の方も、Bさん独特の雰囲気が、チームに彩りを与え、チームの雰囲気をよくしてくれていると、評価してくれていました。一方で、逆にBさんの課題や職場での困り感が見えにくいところもありました。今回の定着支援では、「合理的配慮の見直し」ということが一つのテーマでもあったので、ご本人との面談では、改めてそういったところを率直にBさんに聞いてみることにしました。すると、Bさんの感じていることと職場の理解の間には、少しだけギャップがあることがわかりました。なので、その橋渡しの役割で訪問した私は、以下のことを現場の職員の方にお伝えしました。
まず、合理的配慮として、本人が不安に感じていることを率直にお伝えしました。具体的には、①相手に合わせたり、説明することに不安を感じること、②まだ知らないことがたくさんあるので丁寧に説明してほしいこと、③(長時間の作業で)かかとが痛くなてしまうことがあること、などです。また、これらについては、④何か特別な介入をして欲しいというよりは、自分がこのようなことに不安を持っていることを知っていてほしいというニュアンスだ、ということを伝え、「そういうことであってますか?」と、本人に確認したところ、
「ご承知!!!」
と、本人がコメントし、そのようなことであっていると意思表示してくれました。その時の本人の満足そうな顔がとても印象的でした。
そうか。Bさんは「解決してほしい」のではなくて、「(考えていることを)知っていてほしい」んだ。その核心に触れることができて初めて、本人、職場の上司、私たち支援者が一体となって、真の合理的配慮について、検討できたように感じました。
日々こういったうまくいくケースばかりではありませんが、こういうことがあるからこそ、やっぱりこの仕事はおもしろいです。