小川未明『野ばら』を読む。考察、感想
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こんにちは、夜半侍士です。今回は小川未明『野ばら』です。
出典は、小川未明 野ばら (aozora.gr.jp)さん。さっそく読んでいきましょう。
大きな国と、それよりはすこし小さな国とが隣合あっていました。当座、その二つの国の間には、なにごとも起こらず平和でありました。
ここは都から遠い、国境であります。そこには両方の国から、ただ一人ずつの兵隊が派遣されて、国境を定めた石碑を守っていました。大きな国の兵士は老人でありました。そうして、小さな国の兵士は青年でありました。
まずは舞台設定ですね。隣り合った二つの国がある。この二つの国は”当座”平和。そして、都から離れた国境で、大きな国の老人兵士と、小さな国の老人兵士が、石碑を守っている。
二人は、石碑の建っている右と左に番をしていました。いたってさびしい山でありました。そして、まれにしかその辺を旅する人影は見られなかったのです。
初め、たがいに顔を知り合わない間は、二人は敵か味方かというような感じがして、ろくろくものもいいませんでしたけれど、いつしか二人は仲よしになってしまいました。二人は、ほかに話をする相手もなく退屈であったからであります。そして、春の日は長く、うららかに、頭の上に照り輝やいているからでありました。
寂しい山で、人も通らない。別に今は平和な隣国。うららかな天気で、やることもない。二人は仲良くなっていく。ちょっとNARUTOの火影感ありますね。お互い的になる可能性はありながらも、仲良くなる二人。
ちょうど、国境のところには、だれが植えたということもなく、一株の野ばらがしげっていました。その花はなには、朝早くからみつばちが飛んできて集まっていました。その快い羽音が、まだ二人の眠っているうちから、夢心地に耳に聞こえました。
「どれ、もう起きようか。あんなにみつばちがきている。」と、二人は申し合わせたように起きました。そして外へ出でると、はたして、太陽は木のこずえの上に元気よく輝やいていました。
二人は、岩間からわき出でる清水で口をすすぎ、顔を洗いにまいりますと、顔を合わせました。
「やあ、おはよう。いい天気でございますな。」
「ほんとうにいい天気です。天気がいいと、気持がせいせいします。」
二人は、そこでこんな立ち話をしました。たがいに、頭を上あげて、あたりの景色をながめました。毎日見ている景色でも、新しい感じを見る度に心に与えるものです。
な か よ し。 人も来ないから、起きるタイミングもない。だから二人は、野ばらに集まるミツバチを頼りに、目を覚ます。
顔を洗い、挨拶をして、毎日を新鮮に感じる。平和だ。仲良しだ。
青年は最初将棋の歩み方を知りませんでした。けれど老人について、それを教わりましてから、このごろはのどかな昼ごろには、二人は毎日向かい合って将棋を差していました。
初めのうちは、老人のほうがずっと強くて、駒を落として差していましたが、しまいにはあたりまえに差して、老人が負かされることもありました。
この青年も、老人も、いたっていい人々でありました。二人とも正直で、しんせつでありました。二人はいっしょうけんめいで、将棋盤の上で争っても、心は打ち解けていました。
ほのぼのですね。青年は老人に教わり、老人を抜いていく。教育の理想。争っているのはあくまで盤上であって、二人の心は打ち解けている。
「やあ、これは俺の負けかいな。こう逃げつづけでは苦しくてかなわない。ほんとうの戦争だったら、どんなだかしれん。」と、老人はいって、大きな口を開けて笑いました。
青年は、また勝ちみがあるのでうれしそうな顔つきをして、いっしょうけんめいに目を輝やかしながら、相手の王さまを追っていました。
小鳥はこずえの上うえで、おもしろそうに唄っていました。白いばらの花からは、よい香りを送ってきました。
平和ですねえ…老人の発現が少し不穏だけど、尊い。世代が異なるもの同士の交流。異文化交流ってどうしてこんなに尊いのか。”わかりあう”っていうフェーズを挟まないといけないから尊いんでしょうね。
二人のやり取りがあり、鳥がさえずり、花は薫る。穏やかな世界。
冬は、やはりその国にもあったのです。寒くなると老人は、南の方を恋しがりました。
その方には、せがれや、孫が住んでいました。
「早く、暇をもらって帰りたいものだ。」と、老人はいいました。
「あなたがお帰りになれば、知らぬ人ひとがかわりにくるでしょう。やはりしんせつな、やさしい人ならいいが、敵、味方というような考えをもった人だと困こまります。どうか、もうしばらくいてください。そのうちには、春がきます。」と、青年はいいました。
冬はやはりこれらの国にもあった。日本には美しい四季があります。南の方に帰りたいという老人、多分、暖かいのでしょう。帰らないでという青年。わかる、人事異動ほど不安なものはない。世の中ってどうしてこんなに分かり合えない人が多いのか。
だから、春まで耐えてくれとせがむ青年。エモいなあ。春になればまた暖かくなり、野ばらが咲き、穏やかな日常に戻れる。
やがて冬が去って、また春となりました。ちょうどそのころ、この二つの国は、なにかの利益問題から、戦争を始めました。そうしますと、これまで毎日、仲むつまじく、暮らしていた二人は、敵、味方の間柄になったのです。それがいかにも、不思議なことに思われました。
う そ つ き ! ! ! !
春になったらまた平和な空間に戻れるって言ったじゃん!!!(言ってない)。穏やかな優しい話だとおもったのに!!!柔らかい雰囲気で吊って鬱展開なの、こんな昔からやるんじゃない!!!!がっこうぐらし!!!メイドインアビス!!!まどか☆マギカ!!!!!!!
人事が変わらなくても、二人は何も変わらなくても、変わらず春が来ても、政治の変化で二人の関係性は簡単に変わってしまう。不思議なことだ。
「さあ、おまえさんと私は今日から敵どうしになったのだ。私はこんなに老いぼれていても少佐だから、私の首を持ってゆけば、あなたは出世ができる。だから殺してください。」と、老人はいいました。
重い重い重い重い重い。重いよおじいちゃん。良いのか、そんなこと言って。南の家族はどうするんだ。青年に出世という殺す理由まで作ってあげて。
まあでも、それでも、目の前の青年と争いたくない思いが勝ったのかな。家には全然帰れないし、戦争が始まってしまったから、仲良くなった青年とは戦わなければならないし。殺すぐらいなら殺してくれって感じだ。
これを聞くと、青年は、あきれた顔をして、
「なにをいわれますか。どうして私とあなたとが敵どうしでしょう。私の敵は、ほかになければなりません。戦争はずっと北の方で開かれています。私は、そこへいって戦います。」と、青年はいい残して、去ってしまいました。
老人に比べて青年は冷静で。両国は敵同士だが、あなたとは敵ではない。戦争は老人の家族がいる南の真逆の最北だし、他の”敵”と戦います、と言い残し、去ってしまう。芯が通ってますね。こういう人間になりたい。
国境には、ただ一人老人だけが残されました。青年のいなくなった日から、老人は、茫然として日を送りました。野ばらの花が咲いて、みつばちは、日が上あがると、暮れるころまで群がっています。いま戦争は、ずっと遠くでしているので、たとえ耳を澄ましても、空をながめても、鉄砲の音も聞こえなければ、黒い煙の影すら見られなかったのであります。老人はその日から、青年の身の上を案じていました。日はこうしてたちました。
野ばらが薫り、みつばちは飛ぶ。春の姿は何も変わらない。ただ、青年がいないことを除いて。人との別れの何が辛いって、何も変わらないんですよね。ただ、そこにその人がいないことを除いて。そのことが亡失感と、寂寥感を、どこまでも高める。寂しい、寂しい、さびしい。
ある日のこと、そこを旅人が通りました。老人は戦争について、どうなったかとたずねました。すると、旅人は、小さな国が負けて、その国の兵士はみなごろしになって、戦争は終わったということを告げました。
あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ。鬱展開すぎる。虚淵玄が製作にかかわってる?
めったに通らない旅人がここをとおり、結末を告げていく。戦争が終わったからこそ旅人はこの国境を通ったのかもしれない。もう国境じゃなくなったということで。
老人は、そんなら青年も死んだのではないかと思いました。そんなことを気にかけながら石碑の礎に腰をかけて、うつむいていますと、いつか知らず、うとうとと居眠をしました。かなたから、おおぜいの人のくるけはいがしました。見ると、一列の軍隊でありました。そして馬に乗ってそれを指揮するのは、かの青年でありました。その軍隊はきわめて静粛で声ひとつたてません。やがて老人の前を通るときに、青年は黙礼をして、ばらの花をかいだのでありました。
老人は眠る。すると、青年が、やってくる。老人との将棋をやった成果か、彼は北で成果を上げたのでしょう。軍隊を引き連れてやってきました。なぜかとても静かな軍隊。黙礼をし、ばらの匂いを嗅ぐ。
とても美しく、儚く、切ない光景。
老人は、なにかものをいおうとすると目がさめました。それはまったく夢であったのです。
夢オチ。あるあるですね。失った人に、なにか言いたいことがあって、伝えようとした瞬間に目が覚める。目が覚めた後に、寂しくて、切なくて、絶望する。その人はもういないんだといいう現実だけが、襲い掛かってくる。老人の堪えきれない心の痛みが伝わってきます。
それから一月ばかりしますと、野ばらが枯れてしまいました。その年の秋、老人は南の方へ暇をもらって帰りました。
野ばらも枯れてしまった。冬が来る前に、老人は南へ帰ります。戦争が終わったから、お役御免で帰れたのかもしれない。また春が来て、野ばらまでないのは耐えられない、あったとしても耐えられないのかもしれないが。
一人で抱え込むよりは、家族といる方がまだいいですね。
ということで、小川未明『野ばら』でした。ご閲覧ありがとうございました。想定以上に重く、悲しい話でしたね…思わぬダメージを負ってしまった。次は明るい話がいいですね。
…純文学って明るい話あるんだろうか。
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