(レビュー)電力危機/宇佐美典也
東日本大震災の時の福島第一原子力発電所事故を契機に、電力業界は大きく変わりました。おそらく、大半の方はにとっては、
・原子力の安全神話が崩れた
・再生可能エネルギーの導入が盛んに行われている
・なんだかんだ言って、電気料金は高くなった気がするけど電力不足は起きていないし原子力発電がなくても大丈夫なんじゃないか
そういったイメージ・印象を持たれているのではないでしょうか。
本書は、元経済産業省の官僚だった宇佐美氏が、これまでの経験と調査によって電力業界のこれまでとこれからの状況と課題をまとめた一冊です。
近年出版されるこの手の本はどうしても原発賛成派・反対派と立場が白黒明確になったものが多く(そうした方が売れるという背景もあるのでしょうが)、勢い、どちらかの立場に有利な材料の収集・論理展開がなされることがほとんど。
すでに明確に賛成・反対という意見をお持ちで、それを強化したり、反対意見も見てみようというスタンスで見るのであればそれは一つの有益な情報源になり得ますが、自分の肌感覚としては、まだ、意見を持つためのベースとなる知識が不足している方がほとんどではないかという認識です。(上から目線のような書き方になり、気分を害されたらすみません。自分は仕事上、エネルギーに関連の情報を比較的密に仕入れる必要があるため、一般の方に比べると多少の知識は持ち合わせているだけですが・・・)
そういう観点からいうと、本書は類書とは異なっており、経済産業省を含むデータから淡々と事実・そして彼の意見なり予想を述べています。科学論文よろしく、きちんと意見は意見と明示してくれているので、客観的なデータのみ知りたい方にも役立つかと思います。
そもそも論
多くの方がご存知の通り、日本は長らく9電力体制をとってきました。日本をエリアごとにわけ、発電から送電・配電までを一括で電力会社が担うというシステムです。発電(電源)が大規模であるほど、電力の単価は安くなるというメリットがある一方で、新規の電源の開発には膨大な労力・時間・コストがかかります。
そこで、総括原価方式というトータルのコストに利益分を上乗せして電気料金とする方式を長らく採用してきました。
言い方はよろしくないかもしれないですが、多少、コスト意識が甘くなりうる方法ですよね。
ちょっと高くても回収できるから、やっちゃえ!というような。
で、一時期から電気料金を低減させていくには、総括原価方式をやめて競争原理を持ち込まないとダメなのではないかという風潮が強まり、みなさんご存知の電力自由化へと向かっていきます。
ちなみに、私が就職した15年ほど前は、電力会社は公務員並みに安定しているとして、そこそこ人気があったような印象です。今は原子力発電への風当たりや料金の値上げなどで、だいぶ情勢は変わってきていますね。
9電力体制となるまでの経緯
自分の不勉強もあり、本書を読むまであまり知識がありませんでしたが、9電力体制が確立されるまでには、さまざまな人間ドラマがありました。福澤桃介と松永安左エ門という2人の重要人物にスポットライトを当てながら、その歴史を紹介してくれています。
詳細は本書にゆずるとして、9電力体制のほか、国で一括で管理・運営という案もあったそう。
そんな中、目先の利益にとらわれる事なく後に続く9電力体制の基本的な考え方を1920年台そこらで考えついていた松中氏の慧眼には驚くしかありません。
現在は東京電力に国費投入され、実質の9電力体制も崩壊していますが、松永は以前から「電力は国家繁栄の基礎だ!」という考えを持ち、さまざまな反対を受けながらも体制構築に漕ぎ着けます。
そのマムシにも似た執着、電力の鬼と呼ばれる所以かと思われます。
本書ではそれ以外にも注目度が高いであろう
・電力不足の問題
・原子力発電の今後
などもデータに基づき論じられています。
エネルギー業界について、基礎知識を概括的に得たいという方におすすめの1冊です。
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