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(本)アムンセンとスコット

一般人でももう少ししたら宇宙旅行が現実的なものになるのではと言われる昨今。
地球に目を向けてみると,高いところ:エベレスト,深いところ:マリアナ海溝も人間は手中に収め,地球内部や宇宙規模での遠地は別として「人類未踏の地」はほぼなくなってきているのではないでしょうか。
しかし,地球儀に人類が到達したところを着色していくとします。時計を1900年ころまで戻すと,空白地帯が残っていました。その1つが南極点。

実はその南極点到達を賭け,壮絶なドラマが繰り広げられていたことは皆さんご存じでしたでしょうか。恥ずかしながら,自分は本書を読んで初めてしりました。
その本のタイトルは「アムンセンとスコット」。
両方とも,南極点に到達した人物(探検隊の隊長)ですが,一方は無事生還したのちヒーローとなり,もう一方は帰路にて死という対照的な結末を迎えることになります。
そんな対照的な2人を,その出自から丁寧に追い描いた上質なノンフィクション。久々にページをめくる手が止まらない読書体験でした。

アムンセンはノルウェー,スコットはイギリス出身。
アムンセンは小さい頃から探検家にあこがれ,その人生を探険に賭してきた人間。一方,スコットは軍人で国の威信をかけて南極に臨みます。
意外なことに,アムンセンはもともと北極を目指していたのですが,出発前にアメリカ人が北極点に到達したと聞き,急遽行先を(勝手に)南極に変更します。いいのか,そんなんで?w

山口周さんが組織とリーダーシップを語るうえで避けては通れない一冊,とうたっているだけあって,2人の対比が丁寧に描かれています。
本田勝一さんの取材と筆力のたまものですね。
ただ,本書を読んだところで「困難を簡単に成し遂げるためのテクニック3選!」など,キャッチーなことが書いてあるわけではありませんのでご注意を。むしろ,世間でよく言われていることが,以下に的を射ているかを再確認できます。

・準備がなにより大切であること
・入念に計画を練り,実行するときは情に流されないこと
・極限状態では優柔不断は悪でしかないこと

本の少しの判断ミスが人命にかかわる極限状態だからこそ,ミスなり間違いがより明確に浮かび上がってきます。
例えば,アムンセンは犬ぞりでの移動を主としましたが,帰り道となる貯蔵場所に,現在いる頭数の半分の食糧しか残さないで探険を進めます。何となく想像つくかもしれませんが,途中で犬を殺し,食糧とすることを計画として組み込んでいたわけです。
もちろん,別に相棒である犬に愛情がなかったわけでもありません。
銃の引き金を引く(犬が死ぬ)音が少しでもまぎれるようにとストーブの音を大きくしたりといった行動からも,苦悩が見て取れます。
でも,自分たちの目的達成には必要な犠牲ということで,決めたことを淡々と実行します。
一方のスコット。最終的に極地へのアタックは4人との計画だったのですが,直前で若手の隊員を追加します。本人がなくなっており,どういった判断・思い出そのような選択をしたかという真相はもう知る由もないですが,アムンセンとの比較により,その差異が明確に浮かび上がってきます。

本書には,探険の前段階として
・なぜ,ノルウェーとイギリスだったのか
・南極点に至りたいというモチベーションは何なのか
と言った背景から丁寧に解説してくれています。

ビジネスの観点からの学びを得るために読んでもいいし,単純に探険家のストーリーとしてもおもしろい。
震える1冊です。

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